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サンマリノ共和国へ行った日のこと

2010年9月11日。ぼくは2ヶ月間にわたるヨーロッパ自転車旅の最中で、イタリア北部のボローニャから、東海岸のリミニという街へ移動した。

家族ぐるみの知人が、その少し前にあるイタリア人女性と結婚した。当時、日本の大学院に留学していたアリーチェという女性で、ぼくも一度都内で挨拶したことがあった。日本語がペラペラで、とても良い人だった。彼女の出身地がリミニだったのだ。

ぼくが旅をしていたとき、ちょうどアリーチェもリミニに帰省中で、実家に泊まらせてくれることになった。近所の友人も集まってのパーティーが開かれるなど、温かいもてなしを受けた。

2泊することになったので、翌日は観光に使えた。当初、リミニ市街地をブラブラしようかとも考えたが、地図を見て、より興味をそそられる場所があった。

リミニから南西に約20kmの場所に、サンマリノ共和国があったのだ。名前は聞いたことがあったけど、何があるのかは知らなかった。世田谷区とほぼ同じ面積しかなく、「世界で5番目に小さな国」だという。

片道20kmなら、大した距離ではない。せっかくなので、自転車で訪ねてみることにした。

リミニからサンマリノへのサイクリング

アリーチェの家を出ると、トスカーナ地方を思わせる美しい景色が広がっていた。緑豊かな丘陵地帯だった。

のどかで美しい風景

しばらく走ると国境があり、サンマリノ国内に入った。検問所などはない。

ここから先がサンマリノ共和国

景色の向こうにボコッと盛り上がった山があり、どうやらそこがサンマリノ旧市街のようだった。

サンマリノ旧市街のあるティターノ山

だが、ここからがキツかった。標高739メートルのティターノ山の山頂付近に広がる旧市街までは、延々と登り坂。アリーチェのおじさんからは「ちょっとした丘だよ」と言われていたが、ぼくには箱根の山を登っているような感覚だった。

ようやく頂上付近まで辿り着き、自転車を止めて城壁の中に入った。サンマリノの中心部は、たくさんのお土産屋さんで賑わっていた。石畳の道や、細い路地。中世を感じる、かわいらしい町並みだった。

展望台やグアイタ城砦からの見晴らしは素晴らしく、リミニの背後に広がるアドリア海まで見渡せた。

短い滞在時間で経験できたのはそれくらいなのだが、滅多に行かない場所だけに貴重な経験となった。何より、「サンマリノ共和国へ行けた」という事実が嬉しかった。都市のひとつではなく、国のひとつなのだ。

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この日のエピソードを思い出したのは、先日訪れた旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン」で、サンマリノ共和国のブースを訪れたからだ。

ぼくはサンマリノ共和国政府観光局マーケティング責任者のフランカ・ラステッリさんに、当時の経験を伝えつつ、彼女から様々な話を伺った。

フランカ・ラステッリさん

サンマリノは紀元301年に創設された、世界で最も古い共和国であり、唯一生き残っている都市国家であるという。

キリスト教徒のマリノという石工が、キリスト教の迫害から逃れるためにティターノ山の頂上に登り、隠れて小さな共同体を創設した。のちにマリノは聖人となり聖マリノとなった。これが「サンマリノ」の国名の由来だとは初めて知った。

当初は、イタリア内部にあるのだから、実質はほとんどイタリアと同じなのではないかと思っていた。しかしフランカさんによれば、サンマリノはイタリアとは異なる、独自の法制度を持っているそうだ。国の代表(執政)は常に2名いて、任期は半年と短い。毎年4月1日と10月1日に執政の就任式が行われる。再選が3年間認められないのは、独裁を防ぐためだという。

料理に関しても、基本的にはイタリアと似ているが、パッサテッリ(Passatelli)やピアディーナ(Piadina)など、サンマリノの名物料理もある。写真を見せてもらったが、いずれも食欲をそそられるおいしそうな料理だった。

旧市街を取り巻く国土では、実はオリーブオイルやハチミツ、ワインの生産なども行われていて、面積は小さいものの自分が想像していた以上に豊かな国だとわかった。

意外な発見は、「サンマリノ神社」なるものの存在だった。これは東日本大震災による犠牲者を追悼するために2014年に建立されたもので、ヨーロッパで初めての神社だそう。思ったより本格的なので驚いた。

サンマリノ神社

そして、このサンマリノ神社の記念切手も販売されているから、この切手を貼って現地から日本へポストカードを送ったら素敵だろうな、と思った。

サンマリノ神社の記念切手

サンマリノ共和国内は、サイクリングコースだけでなく、トレッキングの道も充実しているようで、気持ち良さそうなルートがいくつかあった。

2023年の日本からサンマリノへの年間訪問者数は約2500人だそうで、決して多い数字とは言えない。サンマリノ共和国は来年の大阪万博にもパビリオンを出展する予定で、より多くの日本人に魅力を伝え、訪問を促したいようだ。

話のネタにもなるから、普通の旅行者が行かない少し変わった場所が好きな方などにはとくにおすすめの国である。

ボローニャから鉄道でリミニへ行き、そこからバスで行くのが一般的なルート。せっかくならサンマリノの宿に泊まって、夜や明け方の景色も満喫してほしい。

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