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12.5ユーロの思い出
「あれ? 人数を数えますので、ちょっとお待ちください。1、2、3、4・・・・17、18」
(・・・18? ふたり、足りない・・・)
(なぜなぜなぜなぜなぜ?)
「ここから先はパスポートと、先ほどお渡ししたEチケットを出して、順番にチェックインをお願いします。終わった方は、抜けたところでお待ちください。全員揃ったら次の手荷物検査へと進みます」
つい5分前に、ちゃんと言ったはずだ。なのになぜ、おふたり消えてしまったんだろう。
お客様にも楽しんでいただけ、無事成功で終わるはずだったオランダのツアー。
アムステルダム国際空港から帰路の飛行機へ乗ってしまえばこちらの勝ちなのだが、最後の最後で、ハプニングが待っていた。
周辺を走り回るも、見当たらない。しかし、全体のグループをラウンジまでご案内しないといけないので、今はふたりを探すことができない。とりあえず、他のお客さんまで不安にさせてはいけない。
「ひとりで迷子になったら焦りますが、二人組だからきっと大丈夫でしょう」
平常心を装いながらも、内心は大焦りだった。
(どこにいったんだろう。ちゃんと飛行機に乗ってくれるといいんだけど・・・搭乗ゲートまで自分たちで来れるかな。。。そもそもチェックインしたのだろうか。あの二人が飛行機に乗れなかったら始末書ものだな・・・)
ただでさえ、免税手続きのある方をカウンターにご案内したり、ここで大阪行き12名、福岡行き8名に分かれるから全員が飛行機に乗るまで確認したりと、身体がふたつあっても足りないというのに。なぜこのタイミングで迷子に。。。
「中村さん、私もう免税手続きいいわ。大した額じゃないから。あんたは迷子のふたりを探さなあかんね」
「いや〜、、、免税手続き・・・お手伝い、したいんですけど、、、」
お客様も気を遣ってくださったが、実際、迷子のふたりを探すのが最優先だった。搭乗開始時刻まで残り20分しかなかった。
不安を抱えたままようやくラウンジに着くと、なんとそのラウンジ内でくつろぐ迷子のふたりの姿が・・・!
「Hさん! ここにいたんですか・・・心配しましたよ・・・・」
「あ〜中村さん!よかったあ。心配かけたわよね〜、ごめんね〜。先に行っちゃったのかと思ってどんどん進んじゃって」
「あなたたち、中村さんに迷惑かけちゃダメじゃない!ますます痩せちゃうわよ!」
「なんにせよ、ご無事でよかったです。では皆さま、13時45分までにE7ゲートに来てください。心配な方は35分にラウンジ の入り口に迎えに来ますので、搭乗ゲートまで一緒に行きましょう。一旦解散とします」
・・・よし、あと10分ある。
「Kさん!免税手続き、行きましょう!本人じゃないとダメだから」
「え? 今から行くの? やだ、もうラウンジの食べ物取ってきちゃったわよ」
「じゃあ、ここで食べててください。代わりに行ってきますから、書類とパスポート貸してください」
「でも、本人じゃなきゃダメなんでしょう?」
「お母さんの代わりに来たって言いますよ。貸して、もう本当に時間ないから!」
「・・・はい」
そして全力でダッシュ。「車椅子で歩けないお母さんの代わりに」と言ったら、係員も理解してくれた。
残り1分。
「Kさーん!返金できましたよー!」
「まあ!」
「12.5ユーロですが、またヨーロッパ来たとき使ってください」
「それ、中村さんにあげるわ」
「なんでですかー!せっかく行ったのに意味ないじゃないですか!」
「時間がないのに、行ってくれた気持ちが嬉しかったのよ。お母さんの代わりなんて、機転の利いた嘘まで思いついて。嬉しいこと言ってくれたわねえ。はい、搭乗ゲートへ行きましょう」
「・・・・」
それが、海外添乗員としてのぼくの最後のツアーでの、最後の仕事だった。
Kさん、あのお金、ありがたく使わせていただきましたよ。
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