東北一周自転車旅(7)福島県南相馬市〜宮城県仙台市
東北一周自転車旅
第7ステージ
福島県南相馬市〜宮城県仙台市(85km)
朝起きて、7時から原稿。この家の佐藤光輝さんが執筆用にテーブルと椅子をご用意してくださっていた。
8時半くらいに朝食をいただき、再び9時半まで日記を書いて、急いで身支度。10時前に出発した。
今日は光輝さんの仕事が休みなので、26kmほど北の松川浦まで、彼も一緒にサイクリングすることになった。
家を出て、国道6号線ではなく、「浜街道」と言われる県道74号線を通る。アップダウンが多いけど、車が少ないため走りやすく気持ちいい道だった。
福島県唯一の潟湖である松川浦は、日本百景にも選ばれている。地図で見れば一目瞭然だが、実におもしろい地形だ。
海と松川浦に挟まれる細長い道を走った。松林は津波で流されてしまったそうで、現在は新たに植林された苗木が少しずつ成長している。
最後に橋を渡って、「浜の駅 松川浦」で休憩。道の駅みたいなところで、さすが漁港だけあって新鮮な魚介類が充実。多くの人で賑わっていた。ちょうどお昼頃で、小腹が空いたので何かないかなと探していると、いわき名物の「メヒカリの唐揚げ」を発見した。現地で食べられなかったから諦めていたのだけど、ここで食べられてラッキーだった。とてもおいしかった。
光輝さんとは、ここでお別れ。一緒に走れて良かったです!ありがとうございました!
ところで、ぼくがよく通うスターバックスには仙台出身の店員さんがいて、以前その子に仙台のおすすめを聞いたら、「はらこ飯」を教えてくれた。
「はらこ」とは、鮭の腹に入っている子、つまりいくらのこと。見た目は鮭といくらの親子丼なのだが、白いご飯ではなく、鮭を醤油やみりんで煮て、その煮汁でご飯を炊き上げているのだそう。
これは仙台より少し南、宮城県の亘理町(わたりちょう)荒浜地区が発祥の郷土料理だそうだ。その亘理町に「あら浜」という人気店があり、スタバの子がおすすめしてくれた。
しかし、サイトを見たら月曜休みと書いてあり、諦めて別のお店で食べようとしていた。だが、メヒカリの唐揚げを食べながら、今日は祝日のためお店が営業しているとわかった。急いでここから「あら浜」までの距離を調べると、28kmある。
ラストオーダーの時間もあるはずなので、お店に電話して確認すると、「14時までに整理券を受け取っていただければ大丈夫です」とのこと。今、12時ちょうど。あと2時間以内に着けば、食べられる。光輝さんと別れてから、ほぼノンストップで必死に自転車を漕いだ。
幸いほとんど平坦な道で信号も少なかったので快走し、13時20分にお店に到着した。食への執念に自分でも驚いた。
無事整理券を受け取るも、40組待ち。ここは本当に有名店で、1〜1.5時間待ちは当たり前らしいから覚悟のうえだった。幸い、カウンターに1席空きが出て、40分くらいでお店に入れた。ひとりで来ていた客はぼくだけだったみたいだ^^;
そして念願のはらこ飯。せっかくなのでご飯といくらを大盛りにした。鮭が思った以上に大きくて、たくさん入っている。いくらもたっぷり。ごはんのボリュームもすごいから、一瞬「食べ切れるかな」と思ったけど、おいしくてペロリと完食してしまった。
その土地の名物、しかも旬のものを味わえて嬉しかった。はらこ飯は一年中食べられるものではなく、9月1日から12月初旬まで。たまたまこの時期に宮城を訪れたのもご縁だろう。良い思い出ができた。教えてくれた子に感謝である。
15時。あとは仙台を目指して、約30kmを走るだけ。前日、「明日の夕方に土砂降りが降るかも」と聞かされていたが、全然心配なさそうな青空だった。県道10号線で阿武隈川を渡り、仙台空港の脇を通って北上していく。
走っていると、泊めていただいた光輝さんの妻・絵理さんから嬉しいメッセージが届いた。
まだ旅が始まって一週間だけど、各地でいろんな方にお世話になって、受け取ってばかりで申し訳ないなあという気持ちもあった。だけど、自分が交流したことで、ただこちらが受け取るだけではなく、ちゃんとその方にも何かしら無形の価値を与えられているのかもしれないな、と感じた。たとえばそれは、ぼくの挑戦に刺激を受けてくれて、その方のチャレンジ精神が高まることかもしれない。あるいは、これまでの旅や仕事の経験を話すことで、「楽しかったな」「良い時間を過ごせたな」と思ってもらえることかもしれない。いずれにせよ、ぼくは何かを受け取ったらきちんと感謝をして、そのうえで堂々と、楽しい時間を共有すればいいのだろう。そんな自信を与えてくれるメッセージだった。
途中のスーパーで水分補給。あと15kmだし余裕だな、とのんびり休憩してしまったのが命取りだった。
再び走り出した途端、急に雲行きが怪しくなってきた。まだ上空は晴れているが、向かう先には雨雲が広がり、空気も冷んやりとしてきた。天気アプリで雨雲レーダーを見て、ギョッとした。恐れていた線状降水帯が、ぼくが向かう方角からどんどん迫ってくる。範囲は広く、逃げられそうにない。
やばい、もうあと5分以内に降り始める。ぼくは走りながら左右を見渡し、「今急に土砂降りがきたらどこで雨宿りするか」をずっと考えていた。そしてちょうど良さそうな屋根のある場所を見つけたまさにその瞬間、降り始めてきた。すぐに避難し、セーフ。次善の判断だったが、予想を超える豪雨と風で、横から浴びせられるように濡れた。それでもまだ上から叩きつけられるよりはマシだった。だけど雨雲レーダーを見ると、まだあと30分くらい続きそうだった。スーパーでのんびりしていなければ、なんとか雨を回避してホテルへ行けたかもしれないのに。
しばらくすると、バイクに乗った男性がビショビショになりながらぼくのいる場所に滑り込んできた。
「すごい雨ですね〜」
と話しかけたことからその方と雑談になった。地元の方かと思ったら、なんと静岡県の焼津から来たらしい。なんでも、少し前まで静岡でテレビの番組制作のお仕事をしていたけど、退職してバイクで日本を一周しているらしい。今日は同じく仙台に泊まるとのこと。雨のことを忘れてインスタでつながったりしているうちに、一瞬雨が弱まった。そして向かう方角には、青空が見えていた。
「今がチャンスです! 行っちゃいましょう!」
「そうですね! それじゃあ気をつけて、良い旅を!」
「そちらも良い旅を!」
1台のバイクと1台の自転車が水しぶきが跳ねる道路へと飛び出していった。
そこからはすぐ雨が止み、順調に走れた。こういう偶然の出会いもあるから、土砂降りも結果オーライだ。悲観せず、起きることを楽しんでいこう。
18時前、仙台駅に到着し、記念撮影。東京を出発してから一週間、376kmを走ってここまでやってきた。今のぼくにとっては過酷でキツい道のりだったが、それゆえに達成感がある。
国分町のホテルにチェックインし、シャワーを浴びたあと、仙台に住む中沢輔(たすく)と再会。
輔は追浜高校時代のサッカー部の同級生で、専門学校を卒業してから仙台で暮らしている。彼は長年、フットサル選手として本格的に活動していた。
東北フットサルリーグ1部の「mc verdadeiro」に10年以上所属し、数年間キャプテンも務めていた。彼が所属していた間に3段階上のリーグまで昇格したというから、チームの功労者だ。会社員として働きながら、平日の練習は22時から深夜0時までだったという。そして週末になれば試合で東北各地へ遠征へ行く。大変な生活だ。昨年は東北1部リーグで初優勝を飾り、輔は現役から引退した。最高の幕引きである。高校時代、少しの期間ではあるけど一緒にサッカーをした仲だから、そんな彼の東北での活躍は嬉しかった。
今夜はおいしいお寿司をご馳走してくれた。ありがとう。久しぶりに会って近況を聞けて良かった。
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