新彊ウイグル問題の一連の資料を整理する
【目次】
・はじめに
・各資料の時系列
・各資料の論点毎の主張と根拠、信憑性
- 強制収容所と拘束者数
- 強制労働
- 人口、強制避妊
・結論
はじめに
新疆ウイグル問題に関しては根拠とされる資料が検証される事も無く、扇情的なフレーズだけが広まっている場合が多いように見える。本noteでは多数ある新彊ウイグル問題に関する資料を概観し、改めてその信憑性を確認する。各資料の時系列
新疆ウイグル問題に関する資料を時系列に沿って整理した記事をQIAO COLLECTIVEという団体がまとめている[1]。この資料に基づき、主要な資料をピックアップしたのがfig.1である。強制収容所の拘束者数から始まり、強制労働、強制避妊、人口減少、ジェノサイドなど、手を替え品を替え、間断無く中国批判を行っている様子が分かる。
各資料の論点毎の主張と根拠、信憑性
-強制収容所と拘束者数
ウルムチ、天安門、昆明等でテロが起こる中、2014年に習近平が新疆を訪問し[2]、その後国や自治区政府レベルでテロ対策の条例等が制定された[3]。この直後に世界ウイグル会議(WUC)が強制収容所の拘束者数の推定値を公表し、これに続いて複数のメディアや政府、組織が100万人前後の推定値を公表している。これらの推定の根拠をまとめたのがtable.1 だが、直接拘束者に聞いた訳でもなく、調査範囲も狭い事から根拠としては不十分と考えられる。
-強制労働
強制労働に関しては、APの報道により強制収容所と強制労働が結び付けられ、Zenz氏やASPI、CSISがレポートを出し、その後米国税関が新疆綿の輸入禁止を行ったという流れである(table.2 参照)。しかしながら、各レポートの強制労働の根拠は弱く、逆に根拠として引用された地方政府の資料からは就業支援の手厚さが伝わって来る。例えば、fig.2はASPIの「Uyghurs for Sale」の引用先であるホータン市の資料[13]に出て来る新彊の若者の写真である。
また、パリでユニクロが新疆での強制労働の捜査を受けた事はニュースになるが、新疆の工場経営者が強制労働デマにより損失を被ったとしてゼンツ氏を訴えた裁判は全く日本では報道されない。加えて、VW、adidas、ユニクロ、良品計画は強制労働が無い事を直接調査を行って証明している事ももっと知られるべきである(強制労働を疑う人たちは直接的な調査は行っていない)。
-人口、強制避妊
ゼンツ氏は新疆のウイグル族の自然人口増加率が低く、これは強制的な出生管理が原因だとするが、この主張は恣意的なデータの使用と間違いによるものである(table.3 参照)。日本のメディアや学者にも一部の統計にだけ着目して強制避妊や大量虐殺だと言う向きもあるけれど、最新の国勢調査(の予備データ)によれば[19]、新疆のウイグル族の人口は10年前に比べて年平均成長率が1.4%となり、人口も約200万人増えており大量虐殺には当たらない。
結論
ここまで見て来たように、新疆ウイグルの人権侵害とされる強制収容所、強制労働、強制避妊等の論点については批判する側の証拠の根拠が不十分である。また、これに加えてそれぞれの批判について中国は反論をしているが、それに対する反応も無い。そうやって証拠を補強する事無く次から次と新しい話題で中国批判を続けているように見える。
今回は主要な資料について概要をまとめたが、今後は今回まとめきれなかった資料(Karakax List、ウイグル法廷等)についても整理し、主要なものは個別に解説を作成したいが、完成時期は未定である…
(参考)
・新疆ウイグル問題の全般的な解説
ウイグル人権侵害に関する資料集 〜日本人の知らない事実〜
・ASPI ”Uyghurs for sale”の解説
新彊ウイグルの強制労働問題の根拠とされる資料を調べてみたら・・
・強制労働に関するZenz氏の論文の解説
新彊ウイグルの強制労働の根拠を検証する
・人口、強制避妊に関するZenz氏の論文の解説
新疆ウイグルの人口・強制避妊問題に関するゼンツ氏の論文の検証
引用:
[1] QIAO COLLECTIVE, 2021. Sep. 21, Xinjiang: A Report and Resource Compilation
[2] 中華人民共和国駐日本国大使館, 2014/04/30, 習近平主席,新疆を視察
[3] 毎日新聞, 2017/4/1, 新疆ウイグル自治区「過激化阻止」条例施行
[4] World Uyghur Congress, 2017/8/1, INTERNMENT CAMPS
[5] Newsweek Japan, 2018/3/13, ウイグル絶望収容所の収監者数は89万人以上
[6] Adrian Zenz, 2018/5/15, New Evidence for China’s Political Re-Education Campaign in Xinjiang
[7] U.S. Department of State, 2017 Report on International Religious Freedom: China
[8] CHRD, 2018/8/3, China: Massive Numbers of Uyghurs & Other Ethnic Minorities Forced into Re-education Programs
[9] CERD - International Convention on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination, 2018/8/6, 96Session
[10] The Washington Post, 2018/2/28, Former inmates of China’s Muslim ‘reeducation’ camps tell of brainwashing, torture
[11] The New York Times, 2018/2/3, What it’s like to live in a surveillance state
[12] HRW, 2017/9/10, China :Free Xinjiang 'Political Education' Detainees
[13] 和田市人民政府, 2019/4/8, 和田外出务工人员在江西南昌高新企业就业掠影
[14] AP, 2018/12/19, US sportswear traced to factory in China’s internment camps
[15] Adrian Zenz, 2019/7/12, Beyond the Camps: Beijing's Grand Scheme of Forced Labor, Poverty Alleviation and Social Control in Xinjiang
[16] CSIS, 2019/10, Connecting the Dots in Xinjiang Forced Labor, Forced Assimilation, and Western Supply Chains (PDF)
[17] ASPI, 2020/3/1, Uyghurs for sale
[18] CBP, 2020/12/2, CBP Issues Detention Order on Cotton Products Made by Xinjiang Production and Construction Corps Using Prison Labor
[19] The State Council Information Office of the People's Republic of China, 2021/9/26, Xinjiang Population Dynamics and Data.
[20] Adrian Zenz, 2020/6, Sterilizations, IUDs, and Mandatory Birth Control:The CCP’s Campaign to Suppress Uyghur Birthrates in Xinjiang
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