ミサトの不思議な冒険(第33話)一件落着
コトリさんが動きだしたら、まさに見る見る問題は解決していった。絶望的だった裁判も、エレギオンHD弁護団がたったの二回の話し合いでケリを付けちゃったもの。二回と言っても、二回目は裁判所での和解交渉だし、それだってこちらが用意した書類にサインしてもらっただけのようなもの。
「ミサトさん、とりあえず迷惑料一億円で手を打っといた」
ミサトはそれを聞いて椅子から転げ落ちちゃったもの。
「それぐらいあったら、尾崎自動車の再建資金の足しになるやろ」
あの状況から一億円だぞ、マジックを見せられてるみたいじゃない。
「マジックか。そう見えるかもしれへんけど、マジックにはタネがあるんよ」
致命傷だったのは放火があったことで良さそう。SSKだけなら民事の賠償問題だけだったけど、放火が絡むと刑事になるし放火は殺人と並ぶ重罪だって。これをなんとか回避するのに一億円なんて安いものだとコトリさんが笑ってた。
「でもあれって実行犯はチンピラ・グループで逮捕されたんじゃ」
「あいつらやりすぎたからな」
ガソリンを四カ所から撒いての派手すぎる手口だったから、タダの不審火で済まなくて殺人未遂の容疑までかかって警察が本格的な捜査に着手したんだって。
「そやから先手を打って自首させてる。これで余計に高つくことになったけど、結果は変わらん」
ポイントは宗像のお袋さんの指示でチンピラ・グループに放火させた点だって。
「わからんかな。チンピラ・グループの口を封じれるのは暴力団になるんよ」
「チンピラ・グループはお袋さんの指示って知っているのですか」
「知らんやろ。ほいでも、そう思てもらうのが狙いや」
わかったぞ。暴力団の本当の狙いは宗像のお袋さんの弱みを握ることなんだ、
「そういうこっちゃ。暴力団でも放火にまで手を出すと大仕事や。そこまでやるからには、それに見合う代償が必要や。尾崎自動車潰しても手間賃しか入らへんやろ」
SSKの賠償もそうで、たとえ裁判に勝ってもうちから三億円を取れるはずもなく、破産した尾崎自動車を叩き売るぐらいが関の山ってことか。それだけじゃ、脅しのタネに持ちだしたSSKの調達費を賄うのさえ難しいかも。そのうえSSKも燃えちゃったし。
「あれだけ大がかりに尾崎自動車を罠に嵌めた真の目的は山上家とエクア開発や。これで暴力団はガッチリ喉笛に喰らいついたことになる。後は骨までしゃぶるだけやな」
ミサト憎しのあまり。暴力団の力を安易に借りた時に山上家も宗像の家も破滅の道に足を踏み入れたってことか。こういうのを人を呪わば穴二つって言うのかもね。それで迷惑料一億円も取れたのは、
「SSKの件は貞友弁護士の仕組んだカラクリを突きつけたら終りや。これに放火の件も知っていると匂わしたら、あっさり白旗上げよった。一億円で済むと知ったら喜んどったで」
なるほどエレギオンHD弁護団だから、知っていると思われただけで効果抜群ってことなんだ。でも貞友弁護士は、SSKはともかく放火の件は無関係だったはず。
「あの弁護士は表向きこそ綺麗にしてるけど、裏は暴力団とズブズブやねん。暴力団がエクア開発に食い込んだ時にホワイト・ナイトになる予定やってんよ。そうしといて、裏で手を組みながら甘い汁をすすりまくるつもりや」
「それって放火の件にも」
「ああ、SSKだけじゃ食い込み切れんから、お袋さんをかなり焚き付けとる」
ミサトは事件の構図を、
宗像のお袋さん VS 尾崎家
こう見てたけど、事件全体からすれば、尾崎家は刺身のツマみたいなものだったんだね。もう少し言えばSSK事件でさえオードブルで、怒り狂う宗像のお袋さんを放火にまで走らせる事だったんだ。世の中怖いよ。とばっちりで尾崎家は破滅寸前だったもの。
「コトリに言わせればミエミエの常套手段やけど、それにあっさり乗った宗像のお袋さんの自業自得や」
「暴力団と貞友弁護士は放置ですか」
「そこまでせんでも尾崎自動車は救われるからな」
今回の目的はミサトと尾崎自動車を救うこと。コトリさんがやらせた事はたったの二つで、
・貞友弁護士のSSKのカラクリを暴くこと
・放火事件の真相を知っていると匂わすこと
これで解決してしまったと言えなくもない。頑張ってもエレギオンHDが相手だから勝ち目は薄いから、一億円で手を引いてくれるなら、向こうだって手切れ金みたいなものってことか。
ミサトが焼き殺されそうになった報復は、主犯みたいな山上の家と宗像の家に疫病神が憑りつくことで果たされると見るべきかも。これが稀代の策士のやり方かな。
「あははは、そう見るか。暴力団はしぶといけど、あの弁護士はどっかで転ぶやろ。それとオマケみたいなもんやけど、これで尾崎家は、この手のトラブルに巻き込まれる可能性は減ると思うで」
尾崎家のトラブルにエレギオンHDがここまで乗り出したから、今後はなんらかのつながりがあるって見てくれるって。
「魔除けみたいなもんや」
こんな強力な魔除けが他にあるとは思えないけど、これだけお世話になったのをどうやって返したらイイのだろう。こんなものミサトも尾崎家も、コトリさんに一生かかっても返せない借りを作った様なものだもの。
「借り? なんやそれ。コトリにしたら退屈しのぎに楽しませてもろて、お礼をしたいぐらいや」
「でも、エレギオンHDに動いてもらっただけでも」
「そっちの費用か。エエ宣伝になったから元は十分取れてオツリが出るで」
コトリさんが言うには、時々実力行使をしておく必要があるんだって。それも今回のように人助けになる形が一番望ましいって言うのよね。でもそんな事をすれば駆け込み寺みたいになって、
「だから簡単には会えんようにしとる。これも悪いけど、よっぽど気が向かんと動かへんし」
コトリさんの気が向いてくれて救われた。
「それと借りだけやったらユッキーの分がある」
「そんなものは・・・」
「ユッキーはミサトさんを必ず合格させるって言うてたやろ」
そりゃ、まあ、家庭教師だったから・・・え、それって、
「小山社長は口にした事は必ず実行するって話ですか」
「世間的にはそうなってる。ホンマのとこは、そこまでやないけど、あれもイメージ作りの一環ぐらいのもんや。そんな事より、ユッキーはミサトさんの事をホンマに可愛がっとってんよ。そやから家庭教師が中途半端に終わってまうのを、すっごい気にしとったわ」
ミサトの事をそこまで。
「コトリはユッキーの親友や。ユッキーの願いを叶えるのは当たり前や。今回は軽いトラブルやけど、必要やったらエレギオン・グループの総力を挙げても助けるで」
ユッキーさん・・・