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純情ラプソディ(第13話)梅園先輩と雛野先輩
新歓コンパの醜態こそあったけど、梅園先輩は格好の良い人。背も高くて一六五センチぐらいは余裕である。髪はショートにしてるけど、しゃべりさえしなければ知的美人なんだよね。試合の時なんかそうだけど、冴え冴えして冷たいほど綺麗って感じ。ありゃ、ホントに美人だよ。
もうちょっと印象を付け加えると、スタイルはスリムでボインではない。そこらあたりが知的な雰囲気をより強くしている感じもあるかな。全体の雰囲気は、どちらかと言えばボーイッシュなところもあるんだよ。
カルタ会の隣はコスプレ研究会なんだけど、こことはお隣さんなのもあって仲がイイんだよね。雛野先輩から聞いた話だけど、頼まれてコスプレやったそう。これもちゃんと化粧して、ズラつけて衣装つけての本格的なもの。
「誰のコスプレやったのですか?」
「エバの綾波レイ」
ちょっと無理がある気もするけど梅園先輩のリクエストだったらしい。出来上がったら、
「凛々しくなりすぎて・・・」
梅園先輩の顔立ちはシャープなんだけど、これが強調され過ぎて、
「格好の良い男の子になっちゃんたのよ」
あれこれ手を加えてもどうにもならず。
「あの写真ですか?」
「そうよ」
うん、たしかにきりっとした顔立ちの男の子だ。これなら女からキャーキャー言われそうだけど、こんなもの部室に飾るなよな。だからレズ疑惑が膨らむのじゃない。
「ところでどうしてムイムイなのですか」
「それはね・・・」
梅園先輩の小学生時代に中国人の同級生がいたそう。梅園先輩も友だちだったそうだけど、
「梅を中国語でムイって言うんだよ」
ここで中国人の女の子の呼び名だけど、名前の一文字に「小」を付けたり、二つ繰り返すパターンが多いんだって。たとえば明美、アケミじゃないよ、これは中国語でミンメイぐらいに発音するのだけど、呼び名にするときには、
・小明(シャオミン)
・明明(ミンミン)
こんな感じかな。そこからなぜかムイムイになったかだけど、
「名前がひらがなで『まさみ』だったから苗字にしたんだって」
小学生だからムイムイの方が受けただろうし、それを梅園先輩が笑って受け入れたからだと思ってる。そう問題はこの性格。とにかく天然なんだよな。イイように言えば無邪気だけど、間違っても上品には程遠いところが多いんだ。
カルタ会でも稽古試合をやるんだけど、負けようものなら、大股開きで後ろに大の字なってぶっ倒れるのだもの。稽古の時にはジャージに着替えてやるのだけど、スカートの時にもやらかして、こっちがヒヤヒヤしたもの。
着替えと言えば、長いこと女性会員ばっかりだったからもあるけど、早瀬君や片岡君もいるのに、いきなり脱ぎだして慌てたもの。雛野先輩と二人で立ち塞がって見せないようにするのに必死だった。
「そっか男もいたんだ」
今はコーナンに行ってカーテンを付けたけど、油断すると脱ぎだすから、早瀬君も片岡君も背中を向けて見ないようにしてるし、ヒロコと雛野先輩はカーテンを閉めるように注意してる。
それととにかくゲラ。それも大ゲラも良いところ。この年代なら箸が転んでも笑ってもおかしくないとはいえ、笑いだすとホントに止まらない感じ。それもだよ、大口開けて、これまたそっくり返って笑うんだもの。もう笑いだすと、これはしばらくお手上げだと会員があきらめてるぐらいかな。
そんな梅園先輩だけどカルタは筋金入り。出身は静岡で、カルタ好きなら知られてるけど、とにかくカルタの盛んなところ。かつては、
『静岡を制する者は全国を征す』
こう言われてたぐらいだそう。県内予選も熾烈だったようなの。そうそう梅園先輩もA級五段なんだ。そりゃ、もうホントに強かった。でもそんな梅園先輩でも静岡県予選は突破できなかったんだって。
「サウスポーに弱くてね」
競技カルタは札を取る手が決まっていて、反対側の腕は使ってはならないルールなんだ。
「いたのですか」
「あの年にはね・・・」
なぜかライバル校にいて、ここ一番で苦杯を余儀なくされたで良さそう。サウスポーは日常生活では不便なこともあると思うけど、スポーツになると変わってくるところがあるのよね。
理由もある程度単純で、右利きが多いからサウスポーとの対戦経験が乏しいからで良いと思う。野球でも左投手を苦手にする打者が多いし、ボクシングでもサウスポーは苦手とする選手は多いって聞いたことがあるものね。
競技カルタもそうで、サウスポーを相手にするとやりにくいと思う。とにかく瞬間のダッシュ力が必要な競技だから、相手の腕の動きが変則なだけでもコンマ何秒の反応が遅れるって感じだもの。
ちなみにだけどサウスポーが苦手とするのもサウスポーだって。もっともこの場合は両者とも不慣れだからプラマイ・ゼロぐらいで良さそう。さすがA級五段で強いのだけど、
「梅園先輩は彼氏はいないのですか」
「募集中よ」
だ か ら、脚広げて大の字になってひっくり返るのはやめて下さい。そのバカ笑いも。あれさえ直せば、梅園先輩狙いだけでも入会者は増えるはずなのに。とにかくそんな人。
雛野先輩はA級四段。チビじゃないけど小柄な方で髪はセミロング。チャームポイントは何と言っても目。つぶらな瞳と言うか、リスのようにクリっとした目が本当に可愛い。スタイルは巨乳じゃないけどかなりボインの印象が強い感じかな。
これも部室に飾ってあるのだけど雛野先輩のコスプレ姿。キャラクターものじゃなくて、花柄の浴衣姿。これが本当に素敵。綺麗と言うより、ホントに可愛いとしか言いようがないぐらい。そうだね、コケティッシュと言えばピッタリかもしれない。
もっともボーイッシュな梅園先輩とコケティッシュな雛野先輩にレズ疑惑を立てられたら、タチの梅園先輩とネコの雛野先輩ではまりすぎるところもある気がする。二人ともレズっ気はなさそうだけどね。さて出身は京都だけど、
「京都と言っても丹後の舞鶴だよ。陰険な京都人じゃないから安心して」
ヒロコは京都人が陰険とは思ってないけど、梅園先輩は静岡の人だから頭からそう思い込んでたみたい。だいぶ言われたみたいで、ヒロコも釘刺されたぐらい。そう言えば早瀬君も片岡君も、
『雛野先輩は京都なのですか』
こう言ってたものね。京都出身ってなんとなく良さげな気もするけど、そんなことも言われるんだと思ったぐらい。雛野先輩に言わせると、みんなが思い浮かべる京都人は洛内のほんの一角ぐらいとしてたし、そんなにイケズじゃないって。
キャラは世話好きというより人情家の感じがする。ヒロコも他人の事を言えないけど、カルタ会には悪評がベッタリ付いてるじゃない。去年なんかなおさらで、これでもかの仕打ちを受けてるもの。
それでも困っている梅園先輩を見捨てず支え続けてるし、カルタだってB級だったのを努力してA級になってるんだよ。そうそう雛野先輩が学年が上の梅園先輩をムイムイと呼ぶのは歳が同じだから。つまりは一浪なんだ。
「一年目は京大狙ってたけど、さすがに二浪は避けたかったから安全運転」
雛野先輩とも稽古試合やったけど負けちゃった。
「サウスポーなのですね」
「ムイムイもヒナを苦手にしてるよ」
とにかく梅園先輩も雛野先輩も嬉しそう。A級だけで三人いるから去年の雪辱が出来るのじゃないと勇んでるもの。早瀬君だってB級だし、A級狙ってるものね。これだけA級がそろったらかなり強力なんじゃないかな。