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ミサトの不思議な冒険(第6話)居酒屋タイガー堂

 ここは店の前に虎の置物もあるけど、それよりなにより阪神ファンが集まるところとして有名かな。店内にはタイガース・グッズとか、選手のサインの色紙、ブロマイドがところ狭しと飾られてるし。店員も当然のようにタイガースの法被でお出迎え、
 
「いらっしゃいませ」
 
 一階はカウンターとテーブルだけど、二階は座敷になってて、そこで集合。西宮学院の未公認写真サークルは十五個ぐらいあるんだけど、
 
「ピーチです」
「スナップ・ショットです」
「ハッピーです」
 
 一番大きいフラッシュが二十人ぐらいで、十人前後のところが多いかな。集まったのは代表か副代表、両方来ているところや他の部員も連れて来てるところもるから、三十人ぐらいが集まってる。フラッシュの尾形代表が司会進行役になり、
 
「予備予選問題の緊急会議を開きます。その前に阪神の勝利を祈ってカンパイ」
 
 これは今夜の試合に阪神が勝てば割引になるからだそう。そこからうちの加茂先輩から宗像が高校時代にやらかしたこと、今度の予備予選でやらかしそうなことを説明。これを受けて尾形代表が、
 
「各サークルごとに目指す目的は違うにしろ、ツバサ杯への参加は西学写真サークルにとって大きな目標になっているかと思います。加茂の話が本当であれば、尾崎君だけではなく未公認の写真サークルがすべて排除されかねません」
 
 色んな意見が出たけど、問題なのはまだ宗像がやると決まってないこと。もちろん証拠なんてどこにもないのよね。抗議をしたって、知らぬ存ぜぬ、言いがかりだ、濡れ衣だと言われたら終わっちゃうってこと。
 
「話は戻るけど、そもそも公認写真サークルは正式の部活やないやんか」
「そこは予備予選を持ちだされた時にもめたけど、学生課じゃ無理で、やるなら大学理事会まで持ち上げて喧嘩せんとならんで」
 
 どうも学生課にも宗像の手が回ってる気がする。
 
「ボイコットしても意味ないよな」
「むしろ、むこうの思う壺やろ」
 
 宗像も問題だけど、もっと問題のなのは宗像の親っさん。子が子なら、親も親というか、子は親を映す鏡というか、すぐに狡からい手を使うのよね。そのうえ厚かましいみたいで、辰巳先生と麻吹先生があれだけハッキリと不正の証明をしたのに大会委員長の小豆田先生のところに怒鳴り込み、審査のやり直しを要求したっていうもの。どうやって退けたか麻吹先生に聞いたんだけど、
 
『あん、蛇の道はヘビで片付けておいた』
 
 どうやったんだろう。議論の方は続いていて、
 
「予備予選に参加して、不正を暴くのはどうやろ」
「それも無理やろ。買収の証拠でも突きつけんと水掛け論でチョンや」
 
 調べると言っても警察じゃないから出来ることはしれてるし。やはり麻吹先生に連絡を取るしかないと考えだしていたんだけど。プーさんの水田代表が、
 
「やはりボイコットが一番良いと思います」
「それやったらツバサ杯は」
「そちらはもちろん出場します」
「そんなのしたら、後が大変じゃ」
 
 水田代表の提案は大胆なものだった。未公認サークルが正式の部活の支配下にあるのを建前として押し出されると辛いところがあるって。その問題を協議してるのだけど、
 
「ツバサ杯に参加出来るのはサークルだけではありません。個人の資格でも参加出来ます。プーさん・フォト・サークルは未公認を取り下げます。非公認となれば公認写真サークルとは無関係になります」
 
 なるほど。その手があったか。ここから先はサークルの温度差の違いになったんだ。たとえばフラッシュは実績を積み上げることによって、公認サークルを目指してるんだよね。他にも将来的に考えているところはありそう。

 ここも慣例みたいなものらしいけど、未公認から公認になる時に正式の部活からの承認というか推薦が必要みたいなの。写真の場合は複雑だけど、準部活の公認写真サークルに正面から喧嘩を売ると、公認を貰う時に不利になるぐらいかな。公認で先頭を走っているのはフラッシュだから、どうするかと思ってたけど、
 
「水田代表の提案はおもしろいと思います。御存じの通り、フラッシュは公認サークルを目指していますが、今回の蛮行は許し難いと考えています。そこで水田代表の案にヒネリを加えてはいかがでしょうか」
 
 話の要は未公認サークルに所属しているから、公認写真サークルの横車が発生していると見れば良いだけだろうって。そこからあれこれ意見が出たんだけど、
 
「最後は各サークルの判断ですが、今日の協議会の結論と方針として決定でよろしいでしょうか」
「異議なし」
「異議なし」
 
 ありゃ、まあ、さすが学生だよ。そこまでやるかって感じ。そこからはタダのコンパ。そこに、
 
『阪神連敗脱出、サヨナラ勝ちです』
 
 どよめく店内で、高らかに六甲おろしが鳴り響き、誰もが肩を組んでの大合唱。もちろん三番までのフルコーラス。さすがは虎党の巣窟で当たり前のように歌ってた。ミサトも阪神ファンだからもちろん歌える。割引も付いて加茂先輩も喜んでた。

 
 翌日になってサークルのアジトじゃなかった喫茶北斗星で加茂先輩たちと、
 
「尾崎さんは、あの作戦で行くからね」
「了解です」
 
 そうそうボイコット案も、未承認クラブ辞退案もなくなって、とりあえず普通に予備予選に出場することになってるんだよ。あれこれ話し合った末に、ミサトも含めて一年の三人は不出場で先輩五人が参加することになったんだ。
 
「そこで尾崎君に頼みがある。尾形とも話していたのだが、参加するには質を少しでも上げておきたい。そうすることで不正をあぶりだせる可能性が出て来るかもしれない。だからコーチを頼む」
 
 コーチはちょっと、
 
「麻吹流をお願いしたい」
「あれは麻吹先生じゃないと・・・」
 
 先輩たちの腕は正直なところ趣味レベル。そうだね、ミサトが写真部に入った時ぐらいかな。それとミサトのコーチも上手いとは言えない。これは部長をやって良くわかったもの。もっとも比較対象が麻吹先生や新田先生だから本当のところはわからないけどね。

 でも公認写真サークルのレベル程度だったらミサトでも持って行けそうな気がする。それぐらいツマラナイ写真だもの。そう型に嵌ったつまらない写真。そういえば入部した頃の野川部長の写真があんな感じだったものね。

 ミサトが入部した時に技量は野川部長に敵わなかったけど、麻吹先生の見方は違ったのよね。選手に選ばれた時点でテクニックだけなら、
 
 野川部長 〉 ミサト 〉 エミ先輩
 
 こうだったけど麻吹先生の評価は、
 
 エミ先輩 〉 ミサト 〉 野川部長
 
 写真を撮る時の発想の自由さって言ってたっけ。この評価がいかに正しくて、重要なポイントかを叩きこまれ続けたようなものだった気がする。摩耶学園の部長時代も田淵先生ともめた点でもあるのよね。

 田淵先生も西川流師範資格保有者だけど、ド素人をある水準にするにはイイんだけど、どういえば良いのかなぁ、同じ写真になっちゃうのよ。それをヨシとする田淵先生と、それは良くないとするミサトは批評会でぶつかったもの。

 そういう目で見ると加茂先輩たちの写真は面白味がある気がする。問題はミサトが麻吹先生じゃない点だろうな。やるだけやってみるか、見よう見真似の麻吹流を。

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