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ミサトの不思議な冒険(第11話)極星真理会

「シオリちゃん、いらっしゃい」
 
 今日は三十階の女神の集まる日だ。ユッキーが怪鳥事件で宿主代わりに入ったから、コトリちゃんが今はトップになっている。
 
「ちゃうで、トップは主女神のシオリちゃんや」
「君臨すれども統治せずだがな」
 
 エレギオンの五女神のうち四人はエレギオンHDだが、わたしはフォトグラファーで別。
 
「好きなものやりながら、時間つぶしをやるのが女神やさかい」
 
 別に不満はない。わたしにとって写真こそが生きることのすべてみたいなものだ。エレギオンHDの経営など興味もない。
 
「ところで神はどれぐらい現存しているのだ」
「はっきりせんとこが多いんやけど・・・」
 
 コトリちゃんも殆どいないと考えていた時期があったようだ。かつて魔王やデイオルタスを倒した時には、エレギオンの五女神ぐらいしか生き残っていないとまで考えていたようだが、
 
「ユッキーは案外残ってる見方をしとったし、コトリもそんな気がする」
「日本にもか」
「浦島夫妻は最低おるしな」
 
 ただし古代のような覇権欲剥きだしの神は絶滅したで良さそうだ。神の性格は厄介だが、それなりに人の世界に順応した者だけが生き残ってるぐらいとユッキーとコトリちゃんは見ている。
 
「そうはいうが、ゲシュティンアンナみたいな奴もいたぞ」
「あんなん平和なもんやで」
 
 この辺の感覚が経験の差だが、男を無理やり女に性転換させて、マゾ奴隷に仕立て上げる程度は神の所業としては穏やかな部類に入るようだ。あの時はマドカが関わっていて大変だったのだが。
 
「そういうたら西宮学院のツバサ杯をオープン化したんやってな」
 
 これにはコトリちゃんたちにも協力してもらっている。あの大学はサトルのせいで中退させられてしまったが、名誉博士を贈られたから後進のためにツバサ杯を作ってやった。モチベーションを高めるために豪華副賞も付けたが、学内では宝の持ち腐れ状態になっていた。

 だからオープン化という刺激を与えてやった。なんでもそうだが、切磋琢磨してこそ腕は上がる。井の中の蛙、お山の大将では進歩はしないのだ。ツバサ杯の学外流出を防ぐためにメディア創造学科の連中も死に物狂いになるはずだ。
 
「ちょっと嫌な噂が耳に入ってな」
「なんだそれは」
 
 宗像とは摩耶学園の校内予選でインチキした野郎か。高校生があそこまでやるか。それに宗像の親っさんの厚顔無知にも往生した。その宗像が西宮学院に入学しているのか。あのインチキ野郎の事だから裏口かもな。

 それに写真をやりたいならメディア創造学科に入れば良さそうなものなのに、写真サークルでお山の大将やっているとはな。その程度の男と言えばそれまでだが、
 
「さっきの神の話やけど、怪しいのがおるんや」
「ほほう」
 
 どうも新興宗教の教祖をやってるらしいが、
 
「とにかく予言がよく当たるから、社長連中で熱狂的なのも多いようや」
 
 浦島夫妻もそうらしいから、教祖も神のシノギの一つなんだろう。そう言えばユッキーも大聖歓喜天家時代に教祖やってたからな。
 
「それだけやなくて神通力も使えるって話や」
「アテにならんだろう」
「いや案外みたいや」
 
 コトリちゃんの見るところ、もし神であっても予見能力は低いとしてた。だが予見能力が低いのに予言が当たるとはどういうことだ。
 
「簡単なこっちゃ、予言が実現するようにしてるだけやろ」
 
 妙に良く知ってると思ったのだが、エレギオン・グループの仕事にも絡んだ事があり、調査部が動いたようだ。
 
「企業活動とは競争みたいなもんやから、ライバルの足を引っ張るのもそうや。それ自体は競争のうちやけど、起る事が不自然過ぎるんや」
 
 相手のトップが大怪我したり、不自然な事故に巻き込まれたりらしいが、
 
「それなら警察が動くだろう」
「それがな・・・」
 
 ある事件では、屋外の広場で大勢のゲストの目の前で、どこからか飛んできた木の杭が足に突き刺さるなんてことまで起ったとしている。会場外から投げたとすれば、余裕で二百メートルは必要な距離だったそうだ。
 
「大型のボーガンでも使ったのではないか」
「そう見られてるけど、迷宮入りや」
 
 さらにがあって、この社長にはある種の脅迫状が届けられていたらしい。もしかして、
 
「そうや、ライバル企業社長が極星真理会の信者や」
 
 全貌は、はっきりしない点は残るとしていたが、そうやって予言を実現させて予言料をもらうだけでなく、予言が実現した時の利益の何割かをせしめてるようだ。
 
「神の力の悪用だな」
「悪さ程度やけど、エレギオンに本気で絡んで来るなら神の仕事になる」
 
 神は出会えば争い、生死を賭けるってやつだろうが。
 
「その極星真理会の教祖やけど神戸に仕事で来る情報がある」
 
 エレギオン調査部があると言うのなら精度の高い情報だろうが、
 
「コトリちゃんに挑戦するとか」
「それやったら話は簡単や。ターゲットはシオリちゃんみたいや」
 
 わたしが! まさか辰巳が依頼したとか。他にもロイドやミュラーもいるが、あいつらはライバル関係ではあるが、業界的には棲み分けているし、対抗心はともかくプライドの高い連中だが。
 
「その辺は関係無いとしてエエ。もっとレベルの低い話や」
 
 アホらしくて笑ってしまったが、西宮学院の写真サークルの内輪もめみたいなものではないか。それに極星真理会がなぜ、
 
「宗像の親っさんが信者や。予言を利用して、かなり儲けてるらしいで」
 
 宗像の親っさんはデベロッパーのエクア開発の社長。二年前は関西の中堅ぐらいだったが、いまや日本の準大手になってるそうだ。それとあの親バカ。宗像のあの性格の原因は、親っさんの影響も確実にある。それにしても、いつまでも親離れ出来ない奴だ。それは他人の家の話だからどうでも良いが、
 
「その木の杭がわたしに飛んでくると言うのか」
「可能性はあるから、護身術を覚えてといてもらおうと思うんや」
 
 ほう、神の力ってこんな事も出来るのか。こりゃ、便利だ。
 
「本番までに練習しといた方がエエで。とにかくシオリちゃんの力は強いから、加減せんと相手が死んでまうからな」
 
 そういう点では信用が無いな。まあ、写真と違うからしかたがないか。
 
「ところで極星真理会の教祖が神であるとして、どれぐらい強いのだ」
「せいぜい使徒の祓魔師程度や」
 
 なんだそれは?
 
「説明はまたヒマがあったらするけど、シオリちゃんなら余裕で対応出来るぐらいに思といたらエエは」
 
 コトリちゃんがそういうなら、大丈夫だろう。それにしても、主女神になってから、この手のトラブルが増えただけではなく、スケールが大きくなっている気がしてならない。
 
「シオリちゃん。それでも、一瞬でも気を抜いたら木の杭が突き刺さるかもしれへんから、気つけといてや」
 
 それって生死に直結するほどの事だと思うが、コトリちゃんにとっては座興みたいに思えてならん。

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