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魔王襲来(第10話)舞子公園の決闘

 これも気になる瀕死の重傷負わされた舞子公園の決闘の様子ですが、

「懇親会のコトリ部長の顔色が悪かったのは、やはり魔王への恐怖ですか」
「まあ、それもゼロとは言わへんけど、九九・九九%は生理的な嫌悪感。またクソ魔王とやりあわなアカンと思うと吐き気が止まらかった」

 よほどコトリ部長はアングマールの魔王がお嫌いのようです。そうそう、あの時に言葉を変えたのは、

「あははは、ミサキちゃんに小汚い罵りあいを聞かせたくなかっただけよ。ただ今回は嵌められた。ついつい挑発に乗ってもたんや。これも後から言い訳しとけば、シノブちゃんだって、あの頃みたいな一発を撃てるわけやないし、ユッキーだってカズ君の中にいるやんか。コトリ一人でケリつけなしゃ~ないと思てもたんや」

 たしかにミサキが一緒に行ったところで戦力どころか足手まといになっただけで、下手すりゃミサキの女神も殺されたかもしれません。

「クソ魔王と対峙してまず『しもた』と思たんは、タイマンでやるのは無理があったんよ。いやな、宿ってるのが原口社長やから舐めとってん。いくら男でもジジイやから、むしろ有利やと予想しとったぐらい」

 さすがは魔王と呼ばれるだけの力はあったようです。

「そやねん。全身からエロ・パワー剥き出しやねんよ。思い出しただけで蕁麻疹が出そうや」

 ちょっとコトリ部長。いくらなんでもエロ・パワーは無いと思います。

「コトリの武器は例の一撃やし、あれの問題は、外れたらオシマイの点やねん。それにやな、前の時みたいに言いやがるのよね。小憎たらしそうに、助平そうにニタニタしやがりながら、

『知恵の女神。いくら頑張っても当たらんよ』

 とにかく当たらんことには話にならんから、確実に当てる作戦が必要なのよ。それとコトリが不利なのは組み合ったら不利もあるけど、クソ魔王のエロ・ジジイと組み合たくないのよね。誰だってあんなエロ・ジジイと組みたいなんて思うもんか」

 あの、その、えっと、武神である魔王攻撃にあの一撃を使いたいのはわかりますし、当てないと絶対的に不利な状況に陥るのもわかります。だから、確実に当てる作戦が必要なのもわかりますが、それは戦う前からわかっていたはずです。

 それでしたら、別にあの日に無理して決闘しなくてもとは思いましたが、やってしまったものは仕方ありません。

「そしたらクソ魔王の奴、いきなり組み付いてくるのよ。ホンマに昔から変わらんけど助平根性丸出しのエロ・ジジイと思たわ」

 えっと、えっと、それは神々の戦いの基本だったはず。

「ほいでも組み合った瞬間にわかってもたんよ。やっぱりまともにやったら勝てんて。そこで考えたんよ」
「なにを考えたのですか?」
「とりあえずエロ・ジジイを振り払おうって」

 それは考えるほどのものじゃない気が、

「なんとか振り払ったんやけど、あのクソ魔王のエロ・ジジイは何度でも迫ってくるのよね。ホンマ、どこまで底なしの助平エロ・ジジイなのよ。振り払っても、振り払っても、ニタニタと助平エロエロ顔でだよ。気色悪いったらありゃしない。その時にパッと思い出したの」

 さすがは知恵の女神、この攻防の間になにか勝利のヒントになるものを思いついたようです。勢い込んで、

「なにをですか」

 こう聞いたのですが、

「うちの副社長時代にもセクハラ野郎で嫌がれていたって。コトリもやられかけたことあるからね。あのクソ魔王はエロ・ジジイを選んでエロ・パワーを増幅させるのよ」

 あのねぇ、命をかける決闘の最中にそんな事を思い出してどうするのかと呆れそうになりました。どうも正攻法で組み合ってコトリ部長を消耗させようとする魔王と、組み合っては不利と逃げ回るコトリ部長の攻防がしばらく続いたようです。

「なんとか振り払い続けたけど、組み合っている間に確実に消耗させられるんよ。そうそう組み合ういうても、ユッキーとの時みたいに離れて組み合うのもあるけど。より効果が強いのは直接組み合う事やねん。クソ魔王は直接組むのが昔から好きやねん、ホンマに信じられんぐらいのエロ・ジジイやで」

 それはエロというより単なる戦術の好みの気が、

「離れている時はともかく、直接組み合ってる時はどうやって振り払ったのですか?」
「キンタマ蹴ったった」

 それは効果的だと思いますが、せめて『急所』と言われた方が。いつもオシャレなコトリ部長のイメージが台無しになります

「キンタマ蹴飛ばしてなんとか振り払ったけど、その時にコトリの怒りに火が着いたのよ」

 不謹慎ですが、やっと決闘らしく盛り上がりそうです。

「あのクソ魔王のエロ・ジジイ、直接組んだ時にコトリのオッパイとお尻を触ったんや。服の上からやけどな。その時にコトリの怒りは頂点に達したんや」

 そりゃ、服の上からでもオッパイやお尻を触られたら腹が立ちますが、そんな些細な事を気にしている場合ではないと思います。

「あのクソ魔王のエロ・ジジイの野郎、コトリを弱らせといて、触りまくって、いやらしい事をやりまくった挙句にレイプする気マンマンなのがミエミエなのよ。そんなことさせるものかと闘志に火が着いたと言い換えても良いかもしれへん」

 どうも怒りとか闘志の方向性が、ずれてる気がするのですが、

「そこで、新たな必殺技で勝負に出ることにしたんや」
「作戦を思いついたのですね」
「そうや、クソ魔王のエロ・ジジイの目的がコトリに、いやらしい事をしまくってからのレイプやったら、それを逆手に取ったれってな」

 これ、わからないのですが、魔王というか原口社長はホントにコトリ部長をレイプしたかったのでしょうか。神同士の一戦ならまだしも、コトリ部長をレイプすれば人間社会の犯罪者になってしまいます。

「そこで一発撃ったった」
「当たったのですか」
「うん、外れてもて松の木が折れた。公園の木は小枝を折っても良くないのに、幹ごと折ってもたから、バレたらタダじゃすまへんと、すっごく心配になった」

 公園の松の木を折ったのは良くないとしても、生死をかけた決闘中に心配する事ではないと思うのですが、

「コトリの力がガクンと落ちて、そこにクソ魔王が襲ってきやがったの。人の弱みに付け込むやなんて、頭の中がエロしかないクソ魔王にしか出来へん所業と思うやろ」

 『思うやろ』と言われても返事に困るのですが、とりあえずやってるのは生死をかけた決闘ですし、相手が弱ったところに攻撃に出るのは卑怯とかじゃなくて、定石のはずです。

「それだけやないで、クソ魔王の奴、コトリを押し倒したのよ。もう助平ジジイの本性剥きだしやで」

 相手を倒してマウントを取るのは、こういう時のポピュラーな戦術ですし、その前に直接組み合った時に急所を蹴られているので、それを防ぐ意味もあったと思います。

「その時にクソ魔王と視線が合ってしもたんや」

 こういう時って、視線に火花が飛び散るとか、相手の動きを読み取るとか、魔王ですからなんらかの術をかけるとかありそうな展開です、ここも勢い込んで、

「どんな目をしてました」
「そんなもん決まってるやろ、一点の曇りもない変質者の目や」

 『一点の曇りもない』の表現の使い方を間違ってる気がしますが。状況としては魔王がコトリ部長に馬乗りになったと見て良さそうです。

「エロ・パワーにグイグイ消耗させられていくのが良くわかったんや」
「そのままじゃ」
「そうなのよ、必殺技を出すだけの余裕さえなかったの。その時なの」

 どうしても決闘と言うより、痴漢ともみあっているようなイメージしか浮かばないのですが、今度こそ颯爽とした武勇譚になりそう。

「なんとか体を捻って逃げようとしたコトリを・・・」

 コトリ部長の顔に怒りというか、いまいましそうな表情がありありと浮かんでいます。

「どうなったのですか」
「あのクソ魔王のエロ・ジジイが調子に乗ってコトリのオッパイを鷲掴みにしやがったのよ。服越しでもこのコトリのオッパイをよ。絶対にこのエロ・ジジイをぶち殺してやると殺意がメラメラと燃え上がって来たのよ」

 ここまで殺意がなかったのかと確認しようと思いましたがやめました。それと魔王はコトリ部長のオッパイを鷲掴みにするのが目的ではなく、逃げようとするコトリ部長を抑えつけようとしただけの気もします。まあ、そういう時は肩を押さえそうなものですが、乱闘中ですから胸に手が伸びることもありそうに思います。

「残っていたすべてのパワーをかき集めて、死ぬ気でもう一発撃ったってん。密着状態やから直撃よ、キンタマからズドンと入ったわ。あんなもん避けられるかいな。ほいでも近すぎてコトリもタダでは済まへんかってん。あんな痛いもんと初めて知ったわ。死ぬかと思た」

 そのキンタマからの表現はチト下品すぎる気が。それと『死ぬかと思た』じゃなくて、ほとんど死んでおられたのですが。

「仕留めたんですか」
「いいや、それなりに傷を負わせたと思うけど、致命傷には程遠いわ。当たったとはいえ、無理やり出した二発目やし、パワーもかなり弱かったからな。それでもキンタマ直撃は効果あったで、クソ魔王のエロ・ジジイの野郎、悶絶して泡吹いてぶっ倒れよった」

 だからキンタマは・・・もうあきらめましたが、男性の急所への一撃は、とにかく強烈らしいですから魔王の宿主である原口社長も失神するほど痛かったと思います。

「あれでクソ魔王のエロ・ジジイのアレは当分使い物にならんやろ。二度と使えんかもしれん。ザマァ見ろやわ。そんでも、この、このコトリのオッパイを鷲掴みにした代償としては全然足りんけど」
「で、どうなったんですが」
「そこまで見えたけど気絶した」

 コトリ部長が繰り出した作戦とは二つの要素が絡み合ったものだったようです。コトリ部長の離れたところからの一撃は相当パワーを消耗するみたいで、連発どころか二発目を撃つのは無理なのが戦術的な常識だったようです。一発撃っただけでフラフラになるぐらいの感じです。

 さらに近すぎると被害が自分にも及ぶため、ある程度の距離が必要で、密着状態からの一撃も戦術的にはあり得ないぐらいでしょうか。現実に弱り切ったところでコトリ部長が放った密着状態からの一撃は、コトリ部長にも瀕死の重傷を負わせています。

 二つの常識の裏を掻かれた魔王は手痛い一撃を喰らい、あと一歩まで追い詰めていたコトリ部長のトドメをさせなかったぐらいのようです。こうやって冷静に分析しようと思うのですが、生死を賭けた決闘のシーンのイメージが描きにくくて難儀します。

「あの決闘の勝負の分かれ目は、クソ魔王がエロ・ジジイの本性を剥きだしやったところやろな」
「どういうところですか?」
「コトリの一発が外れて勝ったと思たんやろな。後はコトリのパワーを絞り尽くしてトドメを刺せばエエものを、助平ジジイの本性が出て、焦ってコトリのオッパイ揉むのを優先にしてもたんや」

 そんな感じの戦いの流れとは思えないのですが、

「それだけやないで、その次に生乳揉んで、パンティ脱がしての段取りしかクソ魔王のエロ・ジジイの頭の中になかったはずや。それにしても今から思ても腹が立つ、あの勝負の瀬戸際でもエロ攻撃しやがって、今度会った時には宇宙の塵にして消滅させたんねん」

 あの瀬戸際ってコトリ部長は言われますが、そんな時に魔王がエロ攻撃を考えていたのかどうかはミサキには相当どころでなく疑問です。というか、なんでもかんでも、そっちの方に発想が結びつけて、闘志を燃やされたコトリ部長の思考回路の方に妙に感心してしまいました。

 結果を見るとギリギリどころか限界を超えた攻防戦が行われたのはわかりましたが、どうもコトリ部長の話を聞いてると緊迫感に欠けてしまいます。どうしたって痴漢に襲われて撃退した話に思えて仕方がないのです。ただ決闘の内容がいかに凄まじかったのは、コトリ部長の女神が生死をあれだけさまよったことでよくわかります。

「でも参ったな。今さら思い出したんやけど、前にユッキーとコトリでモロの直撃弾二発喰らわせても甦ってるやんか。松の木折ってもた最初の一撃が当たっていてもトドメは刺せんかったやろな」

 ちょっと、ちょっと、コトリ部長、それを忘れてて決闘に臨んだとか、

「それでもクソ魔王に密着状態からの一撃があるのを教え込んどいたから、次から直接組んでこおへんやろ。それよりキンタマが潰れてくれとったら、もう死ぬまでアレできへんやろし。これでエロ攻撃は防いだも同然。これだけでも成果は十分あった。あれさえ防げれば策はいくらでも立てられる」

 あれだけの犠牲を払って得たのがエロ攻撃の予防だけとは、成果としては乏しすぎるような気がしますが、コトリ部長の価値観的には違うようです。

「ところでコトリ部長は知恵の女神ですよね」
「そう呼ばれてた」
「知恵の女神なら、もっと慎重に策を練られて準備してから戦いに臨まれると思ったのですが」
「ああそれ、そういうのはユッキーが得意。コトリはデタトコ勝負のギリギリで知恵が湧いてくる感じ。動きながら考えるタイプかな」

 前にコトリ部長と首座の女神が互いに『相性悪い』と言いあっていたのはコレかと実感した次第です。よほど暴走するコトリ部長に首座の女神は手を焼いた気がします。

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