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ミサトの不思議な冒険(第22話)これがお楽しみとか

 ハワイに着いて六日目の朝にオフィスのスタッフは帰国。残されたのはミサトたち三人だけになったけど、
 
「出かけるぞ」
 
 これもハワイに着いた時から気になってたのだけど、写真技術の世界三大メソドとされる西川流、ロイド流、ミュラー流の学生親善交流大会が開かれてるのよね。別名三大メソド学生世界一決定戦。

 今年で三回目だけど、競技種目はカラー、モノクロ、組み写真の三部門があって、その上に総合優勝があるぐらいのシステム。ツバサ杯がオープン化された時から噂されてたけど、てっきりこれに参加させるつもりと思ってた。でも今日までそんな素振りさえなかったんだよ。
 
「あん、うちは西川流でも、ロイド流でも、ミュラー流でもないぞ。だからそもそも参加資格がない」
 
 そりゃそうだけど、今までの経緯からして、麻吹先生たちがこの大会をかなり気にしていたことだけはミサキにはわかる。でも大会は昨日の表彰式で終了で、今やってるのは参加作品の展示会。

 あれかなぁ、参加も考えてたけど、なにか手違いがあって無くなったとか。それともミサトの指導に時間がかかりすぎて間に合わなかったとか。でもさぁ、でもさぁ、ハワイに来る前の時点で加納アングルと光の写真まで身に付けていたんだから、学生相手なら十分だと思うんだよね。

 やがてクルマは会場に。会場はヒルトン・ハワイアン・ビレッジで金曜の夜にはホテルの前の砂浜から花火が打ち上げられるので有名。さすがに綺麗だった。なんで知ってるかだって、そりゃ、仕事で撮ってたから。

 会場は日本でいうなら大広間とか、宴会場ってやつで良いと思う。いやぁ、豪華なホールだよ。入場無料だけど、入る時に名簿に名前だけ書くシステム。というか、麻吹先生と新田先生の顔を見ただけで受付が飛び上がってた。
 
「わざわざご来場ありがとうございます。光栄に存じます」
 
 そこから作品を見て歩いてたんだけど、上手いのは上手いと思う。学生とはいえ、さすが世界一決定戦といわれるだけのことはある。でもここら辺は荒いよな。
 
「尾崎はそう思うか。だがな、こういう荒削りな作品にも参考にすべき部分はある。こういう力強さは変に上達すると失われてしまうものだ」
 
 麻吹先生のエライのは写真に関してはひたすら前向きで貪欲なこと。どんな作品にも自分の参考になる点を探し、それを取り入れようとされるんだよね。そのせいか入賞作品より選外の作品に興味を持ってるみたい。
 
「マドカ、これはおもしろいぞ」
「仰る通りです。これはなかなか撮れないですね」
 
 お二人が注目する作品がどんなものかもミサトにわかってきた。選外だから欠点は多いのだけど、目を引くところがあると思うもの。そういう見方だったら、
 
「麻吹先生、これも味があると思います」
「ほほう、イイところを見てるぞ。こういうのは大いに参考にしなくちゃならん」
 
 そっか、それを見に来てたのか。なんかミサトもリラックスして、三人で、あ~だ、こ~だと話していたら。十人ほどの集団が、
 
「これは麻吹先生、わざわざの御来場ありがとうございます」
 
 知ってる。ロイド先生だ。今回は大会委員長だったっけ。後ろにいるのはミュラー先生と辰巳先生。やっぱり来てるよね。
 
「麻吹先生、少しお話が」
「なんだい」
「立ち話もどうかと思いますから、どうぞこちらへ」
 
 案内されたのはホテルのレストラン。昼食を食べながらってことみたい。さすがに一流ホテルのレストランで見るからにリッチだよ。そうそう食事もハワイに来てから定宿の朝夕食と昼は取材先で適当に買ってきたものばっかり。

 麻吹先生も食い物にはうるさそうだから、味は問題なかったけどハワイだよ、ハワイ。一度ぐらいリッチな食事がしたかったんだ。でもこんなリッチなレストランに来るのならちゃんとした服を着てくれば良かった。見るからに浮いてる気がする。だってTシャツにジーパンだものね。靴だってスニーカーだし汚れてるし。

 その辺は麻吹先生も新田先生も似たり寄ったりだったのだけど、そのせいか入る時にレストランの案内係みたいな人に言われちゃったもの。
 
「失礼ですが、ここに入って頂くには・・・」
 
 いわゆるドレス・コードって奴で良さそう。そしたら、すかさずミュラー先生が、
 
「こちらは麻吹つばさ先生と新田まどか先生です。私たちが招待しております」
 
 あって顔してたけど、今度はミサトの方をじろじろと、ここもミュラー先生が、
 
「こちらのお嬢さんは日本の写真甲子園のチャンピオン・チームのメンバーだ。失礼のないように」
 
 覚えてくれてて助かった。ただ六人掛けのテーブルに座ってビビった。だってだよ対面は辰巳先生、ロイド先生、ミュラー先生だし。こっちだって麻吹先生と新田先生。そこにミサトはどうみても釣り合いが悪いのが丸わかり。

 しっかし凄いメンバーの会食だね。ミサトは麻雀知らないけど、平田先輩が好きなんだよね。その平田先輩が写真サークル対抗親善麻雀地大会で優勝したことがあるんだよ。平田先輩もあんまり強くないそうだけど、オーラスってところで一発逆転で優勝したんだって。

 その時に上がったのが清一色、四暗刻、メンゼン・リーチ一発ツモで、ドラと裏ドラが十二枚とか言ってた。それがどれだけ凄いかイマイチわからないところがあるけど平田先輩に言わせると、
 
『盆と正月とクリスマスと誕生日が一緒に来て、初恋の人と結ばれて、スカイツリーからバンジージャンプするぐらいや』
 
 この喩えも意味不明だけど、今日みたいなメンバーが会食しているような感じかもしんない。四人の話はいつしか二年前の写真甲子園になってた。あの時も清一色、四暗刻、メンゼン・リーチ一発ツモ・・・長いからやめよう。あの時も新田先生こそいなかったけど四人が顔を合わせたもんね。
 
「我々は三大メソドの面子にかけて再戦を希望します」
「また写真甲子園かい」
「いえ今度は学生で」
 
 麻吹先生は笑いながら、
 
「あんたらも好きだねぇ」
「ですから来年はぜひ参加してもらいたい」
 
 そうだよね。今年は終ってるし。
 
「わたしも忙しい。来年と言われても、応じることは難しい」
 
 麻吹先生は渋ってた。いや、渋りまくってた。渋りまくった末に、
 
「来年は無理だが今年なら考えない事もない。ここの出場選手は、明後日までいるのだろう。だったら明日やれば良い」
 
 顔を見合わせたロイド先生たちだったけど、
 
「明日ですか」
「アテにならん来年よりイイだろう」
 
 ロイド先生たちは
 
「少し失礼させて頂きます」
 
 席を外して、どこかで相談をしていたみたい。戻ってくると、
 
「了解しました。ただしこちらも条件があります。種目は組み写真、それも三人で行う団体戦です」
「それって写真甲子園方式かい」
「同じ条件でリベンジさせてもらいます」
 
 えっ、えっ、えっ。明日いきなりやるのもどうかと思うけど、団体戦って三人いるじゃない。ミサトは学生だから参加資格はあるけど、後の二人はどうするの。影も形もありゃしない。日本でなら他の選手を明日までに呼ぶのも出来ると思うけど、ここはハワイだよ。

 わかったぞ。ミュラー先生たちも明日やるのは嫌なんだ。だから麻吹先生が絶対に応じられない条件をわざと出してるに違いない。そりゃ、リベンジって言ってるから万全の準備をして臨みたいだろうから、いわゆる遁辞ってやつ。麻吹先生は当然断ると思ってたら、
 
「了解した」
 
 待ってよ、待ってよ、ミュラー先生たちの顔にも動揺がアリアリ。それ以上にミサトも動揺してるかも。
 
「ルールを詰めておこう」
 
 麻吹先生はルールを確認していったんだよ。写真甲子園方式をそのまま明日やるのは無理だから、カメラは各自のものになり、編集、プリントは学生大会で使ったものになった。それと監督の付き添いはなし。
 
「じゃあ、明日な」
 
 帰りのクルマで、
 
「麻吹先生、団体戦なんて無理です」
「あん、尾崎は経験者だろう」
 
 そこじゃなくて。
 
「ミュラーたちはまさか明日になると思っていなかったから、まずはワン・ポイント稼いだぞ。今ごろ、遊びに行ってる選手を呼び集めてチーム編成に大慌てだろう」
 
 そりゃそうなるだろうけど、こっちだって、
 
「一人じゃ無理です」
「それもそうだ」
 
 それもそうだじゃないでしょうが。
 
「それと団体戦ならチームワークが勝敗のカギを握ります。初顔合わせの三人ではバラバラになります」
「よくわかってるじゃないか。その点でもミュラーたちは不利だ。あいつらも団体戦のトレーニングはしていないはずだ」
 
 だ か ら、こっちにはそもそもチームが無いじゃない。そこに新田先生が、
 
「ツバサ先生。団体戦を持ちだして来ましたね」
「それも計算の内の一つだったが・・・まあ、なんとか、なるだろう」
 
 だから、ならないって。
 
「やはり、あそこまで勝負にこだわっていたと」
「ロイドもミュラーも、いや辰巳だってあの敗北は痛かったってことだ」
 
 世界三大メソドの優劣はこれまでも色々されてきたらしいけど、地盤とする地域も違うから間接的な比較しか出来なかったみたい。それが高校レベルとはいえ直接対決することになって、世界中から注目されたで良さそう。
 
「いや高校生レベルだからなおさらの部分があったとしてよい」
 
 前評判はロイド・チームとミュラー・チームの一騎打ちで、選抜チームが組めていない西川流は不利だろうぐらいかな。ミサトたちの摩耶学園は得体の知れないダークホースって扱いだったみたいで、
 
『麻吹つばさと言えども、アマチュアの指導力には疑問符が付けられる』
 
 蓋を開ければ摩耶学園の圧勝劇。さらにロイド流とミュラー流は八位以下の敢闘賞に沈んじゃったんだ。ミサトたちは優勝して嬉しかったけど、ロイド流とミュラー流の評価は一遍に下がってしまったで良さそう。
 
「あいつらも商売だからな」
 
 落ちかけた人気を取り戻すために作られたのが学生世界一決定戦で良さそう。
 
「あれで辰巳も必死にならざるを得なくなったってしまったのさ」
 
 ロイド先生のUS写真学校も、ミュラー先生のミュラー・カメラ技術学校も、日本なら中学から大学までカバーするスケールの学校なんだって。そう、高卒資格も、大卒資格も手に入るってこと。だから質の高い学生選手を選んで送り込めるらしいけど、
 
「辰巳の西川流にはそこまでの教育施設はないからな」
 
 去年も一昨年もパッとしない成績で、今度は西川流の評価が落ち始めたぐらいかな。今年はだいぶ頑張ったらしいけど。それはともかく、学生世界一決定戦のお蔭で三大メソドの人気はだいぶ持ち直したみたいだけど、それでも残る評判は、
 
『世界一のメソドは麻吹流である』
 
 これをなんとかしたいぐらいで良さそう。でもさぁ、麻吹流といっても門下生と言えるのは元摩耶学園の三人しかいなじゃない。というか、麻吹先生がアマチュアを本気で指導したのもミサトたち三人だけ。もう少し加えても藤堂副部長とアキコの五人まで。
 
「だからツバサ杯をオープン化してまで集めてみたんだよ」
「でもオフィス加納は写真教室を展開する予定なんてないはずですから、無視すれば良いだけじゃ」
「それも考えた上だ」
 
 なに考えてるんだろ。定宿のホテルに戻った麻吹先生にどこかから電話、
 
「例の話だが急で悪いが頼む」
「・・・」
「そういう事になってしまってな」
「・・・」
「あははは、じゃあよろしく」
 
 なんの電話だろう。選手を頼んでる感じだけど、どこから呼ぶって言うのだろ。そりゃ、日本の学生もハワイに来てるけどあれは西川流だから無理じゃない。ハワイ大学の写真部とか写真学科系にコネでもあるのかな。
 
「ハワイの学生に頼んだのですか」
「あんなヘタクソは論外だ」
 
 また出た、誰でもヘタクソ麻吹節。
 
「じゃあじゃあ」
「わたしはこの勝負に負ける気はない。明日のお楽しみだ。今夜はゆっくり寝ろ」
 
 ずっと気になってたお楽しみが世界三大メソドとの対戦なのはわかったけど、このままじゃ不戦敗だし、明日の朝に集まった急造メンバーでまともに戦えるわけないじゃない。ええい、明日は明日の風が・・・きっと吹くはず。

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