目指せ! 写真甲子園(第26話)作品提出
南さんと藤堂君嬉しそうだった。あんな恋の結ばれ方もあるんだね。南さんも頑張ってたもの。ずっと居残りで個人レッスンして、
「これじゃあ、ダメ。これでは・・・」
本番の時には見事なダンスだったし、告白も立派だった。今ではホント、幸せそうなカップルだもの。南さんもちょっと地味だけどイイ子だし、藤堂君も気は優しくて力持ちを地で行くような人だから、まさにお似合いだよね。
エミも彼氏欲しいな。野川君はエミのこと、どう思ってるのだろう。エミにもあんなパフォーマンスしてくれないかな。ここはエミがすべきなのかなぁ。あれだけ一緒にいるのに、もどかしい気がする。
でも、今は写真甲子園。こっちも恋に負けないぐらい大事。この一年、こればっかりやってたようなものだもの。ここまで来たら、なんとかして北海道に行きたいよ。今日も野川君とミサトさんの三人で写真選び。こうなってくると七枚なのがまず問題。七枚で南さんのドラマチックな告白を表現しないといけないのよね。一枚目は、
「これだろうな」
「これしかないと思います」
物語のスタートになる重要な一枚。ダンスの稽古の初日で上手く踊れずにへたりこんで、半分ぐらい泣き顔になっている南さんを撮ったもの。たしかにこれなら、これから何が始まるだろうの興味がかきたてられるはず。問題は二枚目以降で、
「ラストへの布石が必要だと思うんだ」
「ミサトもそう思います」
そうエミが馬に乗ってジャンプしているラストの一枚。これは単品として良いのだけど、パフォーマンスから告発の後になると場違い感が出るのはたしか。いっそ外そうかの案も出て組んで見たのだけど。
「これはこれで良いけど、弱いんじゃないか」
「そうですね。なんかサラッと見て終わられそう」
練習風景から本番に進んでハッピーエンドでは、物語としては良いのだけど、なんか弱い気がするのはエミも同じ。それだけじゃなく、
「単調な気がする」
「心に残るものが少ないような」
エミも同じ意見だけど、パフォーマンスの写真の組み合わせをいくら捻っても、イマイチ感が。原因はなんだろ、一枚一枚はおもしろいけど、並べると死んでしまう気がする。何かが足りない、足りないものは、
「わかった。この組み写真にはリズムが無いんだ。麻吹先生も組み写真から聞こえてくる音を聞けって言ってたもの」
「でも、どうするの」
「これだけしかないし、あのパフォーマンスは撮り直し出来ないし」
エミの頭の中に今まで三人が撮ってきた写真が渦巻きだしている気がする。たしかに南さんのパフォーマンスは題材として面白いけど、あれはすべて動の躍動。
「ボレロになっていない。エミたちが撮ろうとしていたのはボレロの組み写真、AとBのメロディーが最後にCになるボレロじゃないといけないのよ」
あのパフォーマンスの練習の最中でも麻吹先生は、
『文化部の写真も撮っておけ』
あの理由がわかった気がするの。文化部の練習風景はいくら撮っても静の躍動。あれだけで組み写真を作るのは難しすぎたんだよ。あのパフォーマンスを麻吹先生があれだけ乗り気だったのは、動の躍動を撮らせるためだった気がしてきた。
「たとえばだけど・・・」
「なるほど!」
「さすがはエミ先輩」
パフォーマンスの動の躍動と、文化部の静の躍動を組みあわせてボレロになるんだ。とにかく五月十五日必着だから、そこからは必死。
「ダメ、それじゃ三枚目が浮いちゃう」
「六枚目が不協和音になってる」
「それを入れると七枚目と二枚目のバランスが」
エミには聞こえてる。あのボレロのリズムが。これを響かせるんだ。もっと強く、もっと高らかに。最高のミュージックになるように最善の組み合わせを。もっと響くはず、もっと心に響く音になるはず。
「小林君、これぐらいで良いと思うけど」
「これ以上は無理な気が」
アカネさんが言ってた。工夫は終りと思ったら出なくなるって。それと自分が満足できないところがあるのは、それは失敗作だって。エミにはこれが完成作品に思えないの。
「野川君、ミサトさん。撮ったものをもう一度すべて見せて」
絶対にあるはず。ピッタリとパズルのように組み合わさる写真が。これじゃない、これでもない、ないのかなぁ、いや野川君なら必ず撮ってるはず。
「これ、これだ」
ついに見つけたぞ。ミサトさんの写真にもあるはずなんだ。エミが欲しいあの写真が。絶対に見つけてやる。日曜日は徹夜になり、翌日に麻吹先生の最終チェック。
「どれどれ」
一枚、一枚を確かめるように見て。
「良く組み上げたな。わたしの狙いをちゃんと読み取っている。それだけでも大したものだが、出来栄えは想像以上だ。出して来い。これで勝負だ」
野川君が応募要領に従ってレターパックに必要なものを入れて郵便局に。ミサトさんも一緒に行ったけどエミは麻吹先生に呼び止められて、
「わたしでもあそこまで出来たかと言われたら、もっと前の段階で妥協していたかもしれない。見えたのか」
「見えたかと言われると自信がありませんが、野川君やミサトさんなら必ず撮っていると信じていました」
エミには見えていたのかもしれない。ずっと積み重ねていた何かが。麻吹先生が楽しそうに、
「写真は好きか」
「もちろんです」
「それだけじゃ、なさそうだな。でも、それでイイ。大きな武器になる」
なにが言いたいのだろう。なんでもイイか。とにかく写真甲子園。運命の写真はついに送られたのよね。
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