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ミサトの不思議な冒険(第21話)麻吹アングルの秘密

 翌日も夜明け前から仕事。麻吹先生の言う通りハワイの名所巡りをやり写真を撮ってるけどガチのお仕事。これってさぁ、オフィスの体験コースの費用をハワイでアシスタントやることで払っているように見えてしかたないんだけど、
 
「そうじゃない。これがオフィスの実戦教育だ」
 
 だからミサトは弟子じゃないし、体験生でもなく、ツバサ杯のグランプリの招待客だって。もっとも麻吹先生のアシスタントには苦戦中。麻吹先生がなにを狙って動いているか読みきれないんだよね。ランチの時に、
 
「尾崎、まだわからんか」
「すみません。頑張って見てるのですが、どうしても」
 
 麻吹先生は笑いながら、
 
「加納アングルは基礎技術だ。オフィスでマドカが尾崎に教えた時は、一番基本的な使い方のお手本を示している」
 
 麻吹先生が言うには、あの時の新田先生の撮り方は故加納先生の時代の使い方だって言うのよ。
 
「マドカだって、あんな撮り方を今はしない。加納アングルを覚えれば誰でも同じ写真になってしまうからな」
「では麻吹先生が撮っているのは加納アングルの応用編」
「そういうことだ」
 
 ふぇぇぇ、
 
「加納アングルだけが撮れるアングルのすべてではない。その発見競争をわたしやアカネ、マドカはやっていると思えば良い」
「それが麻吹アングルですか」
「世間ではそう呼ぶ。アカネの場合は渋茶アングルだし、マドカなら白鳥アングルだ」
 
 そんなものをミサトに覚えろとでも、
 
「あん、覚えるのではない。尾崎のアングルをつかむのだ。ハワイでミサトが身に付けなくてはならないのはそのテクニックだ」
 
 ちょっと、ちょっと、加納アングルだって、世界で使いこなせるのはミサトを入れても四人しかいない超高等テクニックじゃない。それを覚えるだけでも殺されかけたのに、加納アングルを基本にしてさらなるアングルって・・・
 
「尾崎なら出来る。心配はしていない」
 
 心配する、これ以上は無いぐらい心配する。
 
「グランプリの副賞にもってこいだ」
 
 そりゃそうだけど・・・でもそう言われてから麻吹先生の動きが少しだけ読めるようになった感じ。麻吹先生は加納アングルを微妙に外している気がする。もっと言えば無視してるとも感じるものね。だから、
 
「尾崎、それは狙わないよ」
「あははは、ハズレだ」
 
 麻吹先生が加納アングルを外して狙う事だけはわかったけど、どうしてそこを狙うのかがサッパリわからない感じ。その日も、翌日もそんな感じで撮影は進んでいたけど、夕食の時に、
 
「わたしは尾崎の才能を計り損ねていたな」
「マドカもです。高校の時にはここまで成長するとは予想もできませんでした」
「いや、出来たはずだった。まあ結果としては同じだったが」
 
 ミサトの話だ。
 
「麻吹流の効果でしょうか」
「違うな。それであればオフィスの弟子だってそうなれるはずだ」
「ならばやはり天分でしょうか」
 
 麻吹先生はビールをグイッて感じで飲み干して、
 
「天分は必要条件だ。それがなければ話にならん。天分を持つ者は少ないが、前から疑問があったのだ」
「疑問・・・ですか」
「オフィスの弟子教育で潰しているのじゃないかとな」
 
 そりゃ、あんだけ厳しければ潰れない方が不思議じゃないの。
 
「今のシステム自体は悪くないはずだが、弟子たちに合っていないの疑問だ。それを尾崎が証明した」
 
 だからミサトは弟子じゃないし、半分以上潰れそうになってたって。
 
「そうなると摩耶学園の経験からの答えは」
「うむ。経験の差として良いだろう」
 
 あの時の三人で一番伸びたのは初心者同然のエミ先輩、次がミサトで、一番苦労したのが野川部長で良いはず。それって、
 
「加えて若さですね」
「その二つが最大のカギとして良いだろう」
 
 マドカ先生は上品にシャンパン・グラスを傾けてから、
 
「それをツバサ先生は実証されたいのですね」
「ああ、そうだ。見せつけることがどうしても必要だ」
 
 そこからミサトの方に向き直り、
 
「だいぶわかったか」
 
 わかる訳ないでしょ。
 
「加納アングルは光の写真から生み出されたもので、もともとは光の写真を呼び込むアングルだったのだ。だがな、それだけでなく、そのアングルを使うと、これまでの写真常識を覆す作品が撮れることに加納先生は気づかれたのだ」
 
 隠されていたと言うか、誰も気づかなかったベスト・アングルのすべてを見つけるテクニックだものね。
 
「それが間違いだった」
 
 間違いだって!
 
「加納アングルでさえ、ベスト・アングルのすべてを網羅しているわけではないのだ。そうだな、せいぜいベター程度として良いだろう」
「そうですね」
 
 なんちゅうハイ・レベルな会話なのよ。世界の写真家が解明に躍起になっている加納アングルさえベストじゃなくベターだなんて。これが麻吹先生や新田先生が棲む世界なんだ。
 
「尾崎、加納アングルを越えるアングルは、加納アングルを習得しないと見つけられない。明日からは自分で探して撮ってこい」
 
 翌日からはアシスタントからやっと解放になって、ちょっと観光客気分が味わえた感じ。去年までのグランプリや準グランプリの受賞者もこんな風だったのかもしれない。もっともやってるレベルが全然違うけど。

 でもね。でもね、ミサトは怖くなってる。今のミサトがどうなってしまっているかと思うと怖い。今やってるのはミサト・アングルを探しているのだけど、これも出来たら一流のプロどころの話じゃないはず。それこそ麻吹先生や新田先生と肩を並べるレベルになってしまうとか。

 写真が上手くなるのに文句はないけど、麻吹先生たちが連れて行こうとしているレベルはプロ、それも超一流のプロとしか思えない。それを弟子でもないミサトにあれだけ熱心に指導するってどういうこと。

 もっと怖いのはミサト・アングルが見える気がしてること。これは麻吹先生のアシスタントをしている時にそんな感覚が出て来てるんだよ。それもだよ、麻吹先生とちょっと違う気がする。

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