ツーリング日和(第24話)旅行の計画
「奥琵琶湖おもしろかったね」
「帰りに変なんがおったけど」
キャンプ場から出てしばらくしたら、荷物をテンコモリ積んだ大型バイクが追い付いて来たんよ。そしたら後ろに付いたまま抜きよらへんねん。海津大崎回ってるうちはともかく高島のバイパスに入ってもや。
「あんなストーカーがホンマにおるんやな」
「仕方ないよ、わたしが可愛すぎるから」
「メット被っとるのにわかるかい」
小浜まで付いてくるからガソリン・スタンドでやり過ごすことにしたんや。三十分も時間潰したのに待ってやがったのにギョッとしたで。
「仕方ないよ、わたしが可愛すぎるから」
「だ か ら、メット被っとるのにわかるかい」
まさかエレギオンHDの社長と副社長と知っての悪だくみやないかとユッキーと相談しとってん。直接会うて話をしてケリをつけても良かってんけど、メンドクサイから振り切ってやった。
「だいぶマシになってたね」
「石鎚スカイラインの時は死ぬかと思たもんな」
とにかく冗談みたいに軽いのに、アホみたいに馬力があるもんやから、飛ばすと怖いなんてもんやない。あれからも科技研のライダーズ・クラブに手を入れてもうて、だいぶマシにはなってはきてる。
「熱ダレもね」
「尾道行く時は往生させられた」
すぐに油温計が上がって来るんよ。そのたびにユッキーとお茶してた。そんでも、バイクもだいぶとマシになってきたから遠征がしたなって来てるんよ。
「夢の北海道」
「さすがに休みにくい」
北海道まで行こうと思たら、まず舞鶴まで行かなあかん。そこから新日本海フェリーやけど片道二十二時間や。往復せな帰られへんから四十四時間やで。往復だけでなんやかんやで三日は必要や。
「そうなのよね。この辺はクルマで行っても似たようなものだよね。だったらさ、小型輸送機買おうか?」
「ミサキちゃんの許可取ってな」
「やめとく」
原付ツーリングのための専用小型輸送機なんか欲しい言うたら、頭から怒鳴られるわ。どれだけ維持費がかかるんよ。
「ツーリングの聖地はいくつかあるけんど、北が北海道なら南は阿蘇らしいで」
「信州も良さそうだけど」
信州も遠いんよ。高速使えたらマシやけど、一般道でビーナスラインの出発点の茅野まで行くのに四百キロもあるからな。途中で一泊せんとシンド過ぎる。そしたら往復だけで二日は余裕にいる。
「阿蘇も遠いじゃない。関門国道トンネル走れば九州には渡れるけど」
「そのコースはやめとこ」
尾道まででも懲りた。ドライブでもそうやと思うけど、渋滞や信号が多い道はウンザリするんよな。明姫幹線が終わってから岡山ブルーラインに入るまでもゲッソリしたし、広島に入って福山や尾道もそうやった。
「九州やったら往復フェリーが使える。それも神戸からや」
「フェリーはイイよ、絶対イイ」
ユッキーもそうやけどコトリもフェリーが気に入ってもてんよ。出張で全国行くけんど、まずフェリーなんてまず乗らへんからな。そりゃ、仕事やからスピード優先で、飛行機やリニアや新幹線ばっかりや。
そやけどツーリングと考えると話は変わる。フェリーは夜に出航して朝に着くんよね。週末のツーリングやったら、金曜の仕事が終わってからフェリーに乗り込めるし、土曜の朝には九州に着いてるんよ。
「だよね。帰りだって日曜の夜にフェリーに乗って、月曜の朝には神戸に着いて仕事に間に合うものね」
そこから仕事があるのは好かんけど、クタクタになって日曜に帰って来るよりマシやと思う。さらにやで九州のツーリングは土曜の朝から日曜の夜まで目いっぱい時間が使えるんよな。
「それにフェリーに乗ると言うだけでテンション上がるもの」
それはある。旅って普段とちゃうこと起こるから楽しいんよ。普段とちゃうとこ行って、ちゃうとこ泊って、ちゃうもの見てや。これが夜にフェリー乗って、朝に九州やで。これがワクワクせんわけない。
コスパも悪ない。話をシンプルにするけど、原付二台と二人でクルマ一台で行った時で較べてみる。部屋はスタンダード和室とする。
クルマ・・・クルマ運賃二万五千円と乗客運賃七千五百円
バイク・・・原付二台七千円と乗客運賃二入分一万五千円
クルマはドライバー一人分の乗客運賃込みやねん。トータルで、
クルマ・・・三万二千五百円
バイク・・・二万二千円
一人頭で五千円ぐらい安い。
「問題はスタンダード和室なのよね」
昭和の頃の二等船室の雑魚寝部屋やねん。さすがに改良されとって、一人ずつカーテンで仕切れるようになっとるけど、足元は解放でプライバシーが気になる部屋や。
「うら若き乙女が大部屋で寝るのは危険よ」
「ユッキー襲うやつの方が百倍危険や」
「コトリを襲ったら海に放り込まれるじゃない」
ここでやけどデラックス・シングルとの差が五千円なんよね。デラックス・シングルは完全個室の一人部屋や。もちろんカギもかかる。つまりって程やないけど、同じ料金でクルマやったら雑魚寝部屋、原付やったらシングルの差があるねん。
もちろん、この値段の差をどうとらえるかは人によって違う。そやけど到着してからの移動手段がクルマであることのメリットだけは関係あらへん。バイク乗りは、バイクでツーリングしたいからな。
「わたしたちはもう七千五百円ずつ払ってスウィートにしたけどね」
女の子の旅やから、それぐらいオシャレさせてもうた。これは新幹線と較べてもお得感はある。新幹線なら神戸から博多で一万五千円で二人で三万円ぐらいやねんよ。リニアならもっとする。言うまでもないけどバイクは乗らんから人だけの運賃や。
「フェリーは乗ってる時間は長いけど、半分以上は寝てるものね。リニアや新幹線だって夜は走ってないし」
どっちにしても原付じゃ高速も走れんしリニアも新幹線も飛行機も使えんから、フェリー一択や。そいでもって阿蘇やけど、
「ミルクロードとケニーロードよね」
「やまなみハイウェイもや」
他もエエ道あるらしいけど、この三つが代表格で良さそうや。そやけど、ここからが問題や。
「なるほど。新門司から熊本に行かないといけないのか」
この辺のルートの組み方は色々あるけんど、どうせ走るねんやったら最初から走りたいやんか。そうなるとミルクロードとケニーロードは一遍には難しいねんよ。
「帰りは大分からのさんふらあだから、最後はやまなみハイウェイだものね」
土曜日はどこに泊まるかなんよな。
「別府と湯布院はパス。何回も泊ってるし」
大分出張で泊まる時はどっちかやもんな。
「黒川温泉に行きたいけど」
黒川温泉も洞窟風呂とかあって魅力的やけど、阿蘇の北側やねん。
「ミルクロードを走るために大津町に行って北上すれば着くけど、ミルクロードの北側部分がパスになっちゃうね」
温泉優先やったらそれでエエんやが、ツーリング優先やからな。
「阿蘇も入りたい温泉はたくさんあるけど、ツーリングと考えると微妙だねぇ。杖立温泉もここか・・・」
ユッキーはとにかく温泉小娘。秘湯趣味の権化みたいなとこがあるんやけど、しばらく地図とニラメッコした末に、
「ここはどう」
なるほど。さすがユッキーや。
「露天風呂とか岩風呂とか良さそうじゃない。かけ流しだし」
「囲炉裏料理もよさげやな」
距離的には新門司から大津町回っても二百キロぐらいか。これやったら、ゆっくり走って、のんびり観光して、熱ダレ休憩も入れて余裕で三時にはチェックインできるはずや。
「早めにチェックインして、温泉を楽しまなくっちゃ」
「そやな。熊本言うたら馬刺しか」
「阿蘇牛も美味しそうじゃない」
これでだいたい決まりやな。ユッキーが笑いながら、
「三泊二日みたいな旅行ね」
「それも船中泊が二回やもんな」
ほいでも週末だけで行って帰れるのは嬉しいこっちゃ。後は現地に行ってからのお楽しみや。