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ツーリング日和2(第22話)難儀なバイク

 さて出雲大社のお参りも済んだから、今度こそ三瓶山や。ここから一時間ぐらいのはずやけど、どうやって行くかやな。気持ち遠回りになるけど、県道で山越えにしょっか、国道九号で海岸線から行くのもありやけど、そっちは信号多そうやし。

「コトリ、マイが限界よ」

 ああ、そっか。なんだんだで海岸線のワインディング結構走ったからな。それにやな、コトリたちは浜坂からやけど、マイは大阪からや。いくら若い言うても疲れも出るやろ。

「ぜんぜん、だいじょうぶや。まだ、なんぼでも走れるで」
「ダメよ、かなりふらついてるわよ」

 バイクを運転するときに余計な力を入れへんのは基本やけど、あんだけの超重量級バイクを振り回すと力はいるもんな。直線やったらまだ問題が少ないやろが、今から山登るのは辛いやろ。

 疲れてくると、回れたつもりでも膨らんでまうんよな。思った通りのトレースが出来ようになってくる。山道の急カーブやったら最悪谷に落っこちてまうわ。谷までいかんでもガードレールに衝突や。

 休み、休み走るのもありやけど、時刻も時刻やし、これで日が暮れてきたらもっとヤバイやん。そうなると、

「宿変えよか」
「そんなぁ、マイは温泉に絶対に行くで」

 気だけあっても事故したら、どもならんやろ。

「わたしも温泉に行きたいから、コトリがトライアンフに乗ればどう」
「あかんて、コトリは乗れるけど、マイがこっちのバイクに乗れんやろ」

 マイが疑わしそうに、

「二五〇〇CCやで、それより免許あるんかいな」

 ユッキーもあの温泉楽しみにしとったから、しゃ~ないか。

「コトリでもユッキーでも乗れるで。免許もちゃんとある。それよりマイが乗れるかどうかや」
「原付ぐらい簡単や」

 そうは行かんのよな。

「まあ、乗ってみ。そやそや、キックやからな」
「はぁ!」

 しゃ~ないやん、ユッキーの趣味やねんから。キックに苦戦しとるな。あれはコツがいるんや。やっとかかったか。

「マイ、このバイクはちょっと触ってるんよ。とにかくゆっくり走るのは簡単やないし、飛ばしたら飛ばしたで死にそうになるで。くれぐれも言うとくけどアクセルちょっとでも開け過ぎたらエライ目に遭うからな」

 バイクに跨ったマイは、

「なんやねんこのバイク。自転車みたいに軽いやんか」

 エンストか。発進もクセあり過ぎるもんな。なんであんな神経質なクラッチにしとるんか今でも理解不能やし、なんぼ言うても改善してくれへん。

「あれっ、ニュートラル・ランプがあらへんけど」
「ああ、ウインカー・ランプもハイビーム・ランプもあらへん」
「冗談やろ」

 あれなぁ、ニュートラル・ランプもあらへんねんけど、ニュートラルに入れるのもコツが必要やねん。またキックがかからんか。キリあらへんな。

「マイ、押し掛けにしてみ」
「なんやそれ」

 知らんやろな。今のバイクはインジェクションやねん。そやから押し掛けなんか出来へんけど、これも信じられへんけど、なぜかコトリたちのバイクはキャブレーターやねん。そやからチョークまで付いとる。どうしてそうなったかは、これを作ったキチガイどもに聞いてくれ。

 押し掛けはバイクを勢いよく押して、クラッチをつないでクランクシャフトを回してエンジンをかける方法や。かつてはバイクレースのスタートもそうやってん。ほら、かかったやろ。えらいギクシャクしたけど今度はエンストせんと発進できたか。さすがは若さやな。ボチボチ行こか、

「これ何速やねん」
「八速や」
「はぁ!」

 そやからクラッチもギアも神経質やと思てるわ。せめて六速にしてくれと何回頼んでも知らん顔やねん。あのマッド・サイエンティストの連中のこだわりは、異常言うより変態やで。走り出してからも、

「ぎゃぁ」
「アクセルは慎重に回してや」

 マイはギッコンバッタンしとったけど、段々に慣れてきよったわ。

「このエンジンどうなっとるねん。低速トルクはスッカスカやのに、ちょっとでも回したらドッカンやんか。さっきからウイリーしそうで怖うて、怖うて」
「心配せんでもウイリーはせえへん。その代わりに前にぶっ飛んでいくだけや」

 あれでもだいぶマシになってんけど、マイには難しいやろな。

「コトリはどう」
「苦戦中や」

 小型はともかくとしてもも中型と大型でも別物や。中型の基本は公道でも持ってる能力をフルに発揮して走る感じでエエと思う。ギアをカチャカチャ変えながらエンジンの美味しいとこで走らせるぐらいや。

 大型はちゃう。公道やったらオーバースペックもエエとこやねん。百キロぐらいやったらローで行ってまうからな。感覚的に言うたら、あり余る能力を押さえつけながら走る感じになる。ロケットも思てたより走りやすいけど違和感はバリバリや。

 そりゃ、いきなり目の前にあるドデカイ・タンク。ごっつい圧迫感やもんな。それと直進安定性はドッシリしまくっとるけど、その代わりカーブは得意と言えん。

「コトリはん、真っすぐ走りにくいんやけど」
「そんなバイクや、慣れてくれ」

 マイも苦戦するやろ、コトリらのバイクはまったく逆やねん。カーブはヒラヒラ曲がるんやけど真っすぐ走らせるのにコツがいりまくるんよ。コツ言うより、あそこまで行ったら欠陥やろ。あれでも最初に較べたらマシやねんけど。

 マイの事も言うとれへん。ロケットもちゃんと曲がってはくれるんやが、そやな、真っすぐ走りたがるのを捻じ伏せて曲がっとる感じがあるねん。そやから曲がろうと思たら、今から曲がると気合入れる感じや。

 それと小回りも利かん。二メートル五十もあるからな。バイク運転しとるいうより、クルマ運転しとる感じが近い気がするもんな。とにかく三百キロの重量感が体にヒシヒシ伝わって来とる。

 重量感いうたら停まるのも怖い。とにかく三百キロやから、ちょっとでも重心崩したら立ちごけ一直線や。こんなもん支えられるかいな。さっきも一休みした時にバイクを横に立って引いたけど、怖ろしかったからな。

「なんで原付やのにこんなに熱いんや」
「お互いさまやと思てくれ」
「なんでやねん」

 大型の欠点の一つに熱いのがある。足が熱いんよ。さすがに大型エンジンやからな。ロケットなんか二五〇〇CCもあるからムチャクチャ熱い。コトリたちがライダー・スーツ新調したんも熱対策はあってんけど、さすがに二五〇〇CCは桁外れやな。

 ここが田儀か。この辺から三瓶山目指して県道に入るで。そやけどロケット乗って狭い道は嫌やな。出来たら二車線ぐらいの道であって欲しいし、カーブかって適度なワインディングぐらいで勘弁して欲しい。

 とりあえず最短ルートは県道二八四号やねんけど、県道も怖いんよな。国道かって酷道はあるけど、県道にも険道がある。ちなみに市道のエグイのは死道言うらしい。さらにやけどナビ見てもどんな道幅かの情報なんか出て来おへん。

 調べようと思たらストリート・ビューでも見んとしゃ~ないけど、まさかロケットに乗るなんて思わんかったから、調べとるかい。こうなったら走ってビックリ玉手箱になりませんようにや。

 よっしゃ、二車線あるで・・・ひょぇぇ、やっぱり一車線になるか。ふぅ、なんとか二車線に戻ってくれたけど、なんやまた道が怪しなって来たやんか。センターラインあらへんもんな。

「マイ、ちいとは慣れたか」
「慣れるか! どないなチューンしたら、こないな乗りにくい原付になるんや」

 そんなんやからしゃ~あらへん。さてやけどあの突き当りやな。右に行ったら三瓶ダムで左に行ったら三瓶山となっとるから、

「左行くで」
「らじゃ」
「おう」

 今度は県道五十六号か。道綺麗やん。言うてる間にまた道悪なってきた。二車線あるからかまへんけど。どっかで曲がる道があるはずやねんけど、どこかいな。あれっ、

「ちょっとストップ」
「このまま、まっすぐちゃうんか」

 いやさっきの道路案内には県道二八六号って書いてあった気がする。引き返して確認するとそうやねんけど。これ走るんか。とりあえず一車線半ぐらいはありそうやけど、嫌な予感が走りまくるやんか。

「コトリ、ナビで確認したけど合ってるはずよ」

 ホンマや。根性決めて走るか。

「ぎゃぁ、登りやさかいアクセル開けすぎた」

 こっちが言いたいわ。そりゃ、登るのになんの問題もないトルクはあるけど、こないにカーブが続いたらたまらんやんか。ウンコラショ、ドッコイショ。あ~あ道は一車線になってもたやないか。間違いない険道や。

 ガードレールは草ボウボウやし、ガードレールもあらへんとこテンコモリやん。入る時に大型車通行禁止になっとったけど、普通のクルマが来てもすれ違うのは難儀しそうや。見通しの悪いカーブばっかりやし、完全に山の中やんか。ホンマにこんなとこに温泉あるんかいな。

 こんなとこにあるから秘湯やし値打ちなんはわかるんやが、人家がありそうな気配すらあらへんもんな。あるんやったら、そろそろあってもエエはずやねんけど、どこやねん。宿に入る分かれ道があるはずやねんけど。うん、えっ、あれか。

「ストップ! あの赤い瓦ちゃうか」

 しっかし参ったな。こんな狭い道でロケットのターンなんて出来るかい。

「ユッキー、手貸して」
「あいよ」

 押してバックせなしゃ~あらへんねんけど、三十メートルぐらいで助かったわ。

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