流星セレナーデ(第31話)女神の享楽欲
あれから何回かユッキー全権代表とエラン代表との会談が行われ、エラン船は日本の放射性廃棄物をゴッソリ積み込んで砂漠の砂の採取に飛び立っていきました。他のエラン船も諸国の放射性廃棄物をゴッソリ積み込んだ上で砂漠で砂採取です。これも短期間で終了したようで、やがて次々に飛び立っていきました。
クレイエールも大阪支社に移していた本社機能を神戸本社に戻しています。やっとポートアイランドが平穏を取り戻してくれたからです。ただこの時に一悶着。ユッキー社長はエラン宇宙船対策のためにクレイエールの経営をシノブ専務と佐竹本部長に委ねていましたが、これが上手く回っていたので、
「このままシノブちゃんに社長になってもらおう。わたしは相談役になる」
コトリ副社長まで、
「佐竹君が副社長で決まりね。コトリも相談役でよろしく」
こう同調されたので、ミサキもシノブ専務も佐竹本部長も大慌てになりました。スッタモンダの末に出された交換条件が、
「社長室、副社長室にカーペットを敷く」
これは問題の次元が別と女神懲罰官として頑張ったのですが、シノブ専務と佐竹本部長までが、
「それだけで社長と副社長を続けて頂けるなら。ミサキちゃんお願い」
なにかしてやれた気がしますが、こうなってしまってはシブシブ認めざるを得なくなりました。もちろんホームセンターで買ってきた一番安いのにしときましたけど。どうせ使ってないんだから、あれだけカーペットにこだわるのは不思議な気がしています。
宇宙船団騒ぎでもユッキー社長やコトリ副社長はキッチリ便乗していました。宇宙船団騒ぎでも軍事警戒態勢の長期化による不況で、株式も証券も下落していましたし、経営が苦しくなって倒産する企業も数知れずありました。そこから選び放題って感じで、ゴッソリ買い集めています。それらが本業の不振分を鼻息で吹き飛ばすぐらいの利益を上げています。
エラン代表との交渉で一躍世界的な有名人になられたユッキー社長ですが、叙勲だとか、皇室の園遊会への招待とか、政府有識者会議への出席要請とかすべて断られています。マスコミ取材もすべてシャットアウトで、国民栄誉賞どころかノーベル平和賞も辞退しています。ノーベル賞ぐらいもらったらと言ったのですが、
「政治に関わるのはコリゴリなの。あの手の賞の舞台裏も知り過ぎちゃってるのもあるし」
ミサキは国民栄誉賞の時はセットでって話もあったので少々残念です。その代り、ひたすら、さらに大きくなったクレイエールの発展に没頭されておられます。コトリ副社長も同様なもので、見る見るクレイエールは大きくなり、ミサキでもグループ企業がどれだけの広がりをもっているのか見当が付かない事があります。
一連の宇宙船騒動でミサキが最後まで気になっていることがあります。アラが言っていた神の享楽欲です。これがアラの直接の没落の始まりにも見えますし、地球の神にないのは不自然です。これについてお二人は、
「あるのかなぁ」
「地球の神でアラみたいに覇者になって長期で政権維持したのは誰やろ」
「エンメルカルも近かったかもしれへんけど、アラに較べりゃ小規模すぎるし」
「デイオルタスだって、たかがガラティア王やし、クソエロ魔王だって、たかがアングマール王に過ぎへんし」
お二人の見解として、地球の神は宿主を装置に頼らずに移動できる能力を獲得した代わりに、記憶の継承能力を失ったんじゃないかとやはり考えておられようです。
「一生分じゃ、世界征服するには短すぎるのよ。一番成功したチンギス・ハーンだってあれぐらいやんか」
チンギス・ハーンが神だったかどうかはお二人とも会ったことがないから知らないとしていましたが、たとえそうであっても、
「自分の息子なり後継者に神が宿るかは運みたいなものやし」
わからない話でもなくて、おそらく、
『覇権欲 >> 享楽欲』
この関係があって、覇権欲が満たされつくされるまで享楽欲は表面化しないのかもしれません。それにしても意識分離で生み出される神はどこまで行っても厄介というか、滅びの種にしかならないのがわかります。地球の神に記憶継承能力がなかったのと、神々が覇権を争った時代が遥か古代であったのをラッキーと思って良いようです。
「ユダが再び覇権欲に燃える可能性はどうですか」
「そりゃ、わからん。でも生き残った神は、結果的には覇権欲を欠いた者だけが生き残ったんが地球の気がする。欠いたというか他に向かった可能性はあるかもしれへん」
「他とは」
「ユダなら富かな。ほいでも富なら、世界中の富をかき集めるまで満足できへんやろから、享楽欲は出えへんかもしれへん」
そう言われればそうかもしれません。ではでは、最大の問題は目の前のお二人です。この二人はどうなのでしょうか。
「お二人の覇権欲はどこに向かわれているのですか」
お二人は顔を見合わせて、うんうん唸り始めました。
「どこやろ、ユッキー」
「わからないねぇ、コトリ」
そんなに難問?
「クレイエールを大きくすることはどうなんですか」
「ヒマ潰し」
「女神も生きていくためには稼がないといけないのよ。霞を食べては生きていけないの」
そりゃ神とは言えベースは人ですから、食べなきゃいけませんし、食べるためには生活費が必要です。仕事のやりがいはどうかと思ったのですが、
「クレイエールの経営とコンビニ・バイトでは違いますよね」
「そりゃ、違う。クレイエールの経営の方がコンビニ・バイトよりちょっとは刺激的や」
「そうねぇ、それぐらいの差は絶対にあるわよ」
お二人にとってはその程度の差なんだ、
「では給料増やして、贅沢したいとか」
「コトリ、いくらもらってるの」
「さあ、振り込みやからようしらん」
「わたしも通帳なんて見たことないし」
「食べてくのにそんなゼニいらへんし」
給料明細ぐらい見ろよと思いますが、お二人にとって贅沢とはなんだろうと思ってしまうことがあります。贅沢として思いつくものに住居がありますが、全権代表になって有名人となったユッキー社長は、コトリ副社長を誘って三十階仮眠室に引っ越してしまっています。
「ここだったら、家賃も、光熱費も、水道代も、電話代も、ネット代もいらないから助かるわ」
そうなんです。正式にはあくまで仮眠室ですから会社の経費で落ちます。じゃあ、飲み食いとかはどうかですが、
『女神の審査』
お二人の審査の厳しさと公平性は世界に轟いていまして、自社系列製品でもクレームが付くと内容によっては倒産するぐらいのダメージを喰らいます。それでもサンプルを提供するのは、三十階仮眠室にサンプルを提供しているというだけでブランド価値が跳ね上がるからです。
「もう少しサンプル制限しないと部屋が狭くなって困るわ」
飲食費から日常品までほとんどタダです。一事が万事その調子で、クルマだって社用車ですし、服だって、アクセサリーだって、どうしてもの時は、微笑む天使・輝く天使・雅の天使のレンタルを利用されますし、これも交際費なりの経費で落ちます。
美術品とか骨董品の類も買うのではなく鑑定やってます。これも女神の審査の一環で、どうしても鑑定して欲しいものがあれば、部屋の飾りとしてしばらく預けられます。国宝とか重文クラスがあったりもしますが、
「趣味が合わないのが多いから、なんとかならないかと思うのだけど『どうしても』って置いていくから困ってるの」
どうも感覚がおかしくなるのですが、お二人がされているのは贅沢三昧というより、究極の節約生活に見えて仕方ありません。それを楽しんでおられるのかもしれませんが、これを享楽欲とするには、ずれてる気がします。
「なにか楽しみはないのですか」
「宇宙船襲来」
「彗星衝突」
「クソエロ魔王の処刑」
「デイオルタス退治」
「最近やったら、これぐらいね」
「ユダは退いてもたし」
「でも、こんなんより」
「そうよ、そうよ」
あっ、やっぱり最後はアレしかないか、
「イイ男が欲しい」
ホンマに他はないのかと思いますが、こんな平和な神が地球の神で本当に良かったと思います。もちろん女神の喧嘩はミサキが許しませんけど。
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