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ツーリング日和(第19話)謎のエンジン音
超が付くほどの軽量化と、この世に存在するとは思えない超小型の高出力エンジンだが、エンジンだけはかすかだが手がかりがある。加藤も言っていたが、
「なんかちゃうのやろな」
そうだ、あれは普通のエンジン音ではない。エンジン音が違えば、普通のエンジンと何かが違うはずだ。それが謎のバイクのエンジンの秘密のはずだが、なんのエンジン音かは見当も付かなかった。
「ガス・タービン・エンジンじゃないものな」
そんなバイクも存在する。ヘリに搭載するガス・タービン・エンジンをバイクに載せたもので、その加速力はスタートから三百六十五キロに達するのに十五秒と言う化物だ。加速力ならそれで説明も可能だが、
「アメリカじゃ市販もされているようやけど、あれは扱いにくすぎるで」
ガス・タービンは小型で高出力を得る点では謎のバイクのエンジンに相応しいところがあるが、エンジン特性として回転数の増減のレスポンスが普通のエンジンに比べて極めて悪く扱いにくいそうだ。それより何より音が違う。
「ガス・タービン車は爆音やもんな。謎のバイクのエンジン音とは根本的にちゃうわ」
加藤とはモト・ブロガー仲間だし家も隣町だ。オレが東京で加藤が大阪だから不思議がるのも多いがなぜか馬が合う。ユーチューブでも何度もコラボ企画をやっているし、コラボだけじゃなく撮影協力もコンビのようにやっている。
モト・ブロガーも一人で撮影するのも多いが、二人で撮影した方が幅が広がるからな。その加藤だが、二輪も好きだが四輪も好きなんだよな。二輪オンリーのオレとのちょっとした差だ。
そんな加藤と飲む行きつけの店がある。財布に優しい居酒屋で大将とも親しくさせてもらっている。常連も良いところだからな。その居酒屋の大将だが、かなりのクルマ・マニアだ。
もっともコレクターではない。クルマのコレクターなど余程の金持ちじゃないと出来るものじゃないからな。大将が凝りまくっているのは旧車だ。どれぐらい凝っているかだが、自宅のガレージが整備工場並みになっているぐらいだ。
「大したものじゃない。とにかく旧車は故障しやすいけん、整備のためにああなってしもうただけじゃ」
そこまでディープな大将でも手に負えない故障も発生するし、ましてやレストアとなると無理だの話だ。
「レストア言えば神戸の尾崎自動車じゃ」
親父が言うには日本一だそうだが、
「前に行った時にビックリするようなクルマがあって、なんでも欲しゅうなった」
それから探し回ったそうだが、
「ありゃレアじゃけん」
レストアするにもやはり最初のクルマの状態でレストア費用は変わるので、少しでも良いものを財布と相談しながら探し回ったそうだ。
「そんなに売れなかったのですか」
「それないに売れたが、残ってないんじゃ」
どれぐらい前のクルマかと聞いたら呆れた。八十年ぐらい前じゃないか。そんなもの残ってる方が奇跡だと思った。しばらくしてから、また行ったら、ついに入手して尾崎自動車に預けたそうだ。
「カミさんに怒られた」
カネがかかる趣味だからな。この話に飛びついたのが加藤だ。ユーチューバーの職業病みたいなもので、ネタが見つかれば食らいつく。オレもその点は変わらない。ただオレも今回はそのクルマを見たくなったので、加藤と一緒に神戸の尾崎自動車まで行くことにした。
尾崎自動車は神戸と言っても北区で、六甲山の北側にある。加藤とナビを頼りに探し当てたのだが、
「これは立派なものだな」
「火事に遭って建て替えたそうや」
見て驚いたが、よくある自動車整備工場とは桁が違うものだった。居酒屋の大将からの連絡もあったのでスムーズに取材許可を取れたのだが、レストアされているクルマを見て加藤のテンションは上がりまくりだった。
オレのクルマの知識はそれほどじゃないが、そんなオレでも画像でのみ知っている名車がゴロゴロあったから、加藤の興奮はわからないでもない。社長が自ら案内してくれていたのだが、
「これです」
レストア中で、ボンネットも、ドアもシートとかも外されていたが、
「こういうクルマは今どきはないな」
「でも恰好エエやんか。大将が一目惚れした気がわかるで」
加藤は撮影に熱中していたが社長に、
「エンジンはかかる段階まで来てますわ。聞いてみまっか」
もちろん大歓迎だ、
『ブルルルルルル』
このエンジン音は普通のエンジンとは違うぞ。
「杉田、この音は・・・」
「そうだ、探し求めていた音だ!」
まさかこんなところで巡り合えるなんて。オレも加藤も勢い込んでここの社長に、
「このエンジンは?」
「そっか、若い人なら知らんやろな。いやワシかってレストアやってるから知ってるようなもんやけど、これが幻のロータリー・サウンドや」
ロータリーってなんだ。加藤が顔色を変えて、
「こ、これがあのロータリーの音・・・」
取材を終えて、帰り道に、
「これで謎のバイクのエンジンがロータリーって判明したな」
「音はな。そやけど、そんな事はありえへんのや。あって、たまるか」
詳細は長くなるかから帰ってからと加藤はしたが、何かずっと考え込んでるようだった。