目指せ! 写真甲子園(第6話)オフィス加納のプロ
エミは写真に詳しいとは言えないのだけど、そんなエミでも聞いたことがある豪華スタッフがコーチなんだよ。だってだよ、
『光の魔術師』麻吹つばさ
『渋茶のアカネ』泉茜
『白鳥の貴婦人』新田まどか
この三先生が入れ替わり立ち代わりで指導をビッチリしてくれてテンションが上がる上がる。さらに夏休みの強化合宿の時には、
『和の美の探求者』星野サトル
『慈愛の伝道者』青野健
この五人に付き切りで指導してもらえたんだもの。もう写真部のモチベーションは天まで舞い上がった気がする。あれはまさに感動、夢のような時間だった。後で野川君に聞いたんだけど、
「あんまりおカネの話にすると良くないけど。五人の先生にまともにコーチを頼んだらどれぐらい要るの?」
「まずオフィス加納のプロはアマチュアの指導はやらないよ。あれだけの売れっ子だから写真教室みたいなものをやっている時間がないもの」
だろうね。日本だけじゃなく、世界を飛び回ってる感じだもの。
「強化合宿の時は四泊五日だったじゃない。あのコーチ料をもし支払ってたら?」
「あの五人の先生を、あれだけ長期に拘束するのがあり得ないよ。小林君にわかるように言えば、スティンガー・ファイブの五人を歌と踊りのレッスンのために拘束するようなものだよ」
スティンガー・ファイブは人気絶頂の男性アイドル・グループ。エミの同級生にも熱狂的なファンがわんさかって感じ。エミも・・・えへへ、好きなんだ。
「じゃあ、一日一人当たり十万円じゃ無理よね」
野川君が悪戯っぽく笑って、
「スティンガー・ファイブでも桁が一つ違うよ。あの五人の先生方ならもう一桁違ってもおかしくない」
ひぇぇぇぇ、
「それよりだよ、もう一桁出したって、まずやってくれないよ。麻吹先生がコーチに来られたのが、今でも信じられないもの。合宿なんて五人全員だよ」
エミが一番わかってなかったみたいだけど、日本だけじゃなく世界写真界の頂点に君臨するような大先生方だそう。そんな大先生方に、エミみたいなド素人に、それこそ手とり足とりで朝から晩まで付き合ってくれたんだと思うとジワッと来た。
「ところで今後の予定は」
「うん。夏休みは週三回の予定で考えている。暑いから自主トレ重視かな。それぐらいの段階に来てると考えてる」
「校内予選はいつ?」
「二学期に入ったら宗像君と調製する。二学期中に対決になると思う」
写真甲子園のスケジュールは二月末か三月初めに初戦審査会のエントリーが始まり、締め切りはおおよそ五月半ばぐらい。そこから一週間後ぐらいに初戦審査会があり、六月の中頃にブロック審査会があるでよさそう。
「初戦審査会は非公開で写真のみの審査で、ブロック審査会は同じ応募作品で各代表がプレゼンも行って審査されるんだ」
「決勝は」
「七月末ぐらいに北海道の東川町で行われる」
「じゃあ、決勝まで進めば北海道に行けるの?」
「その前の校内予選で負けたら終わりだよ」
でも夢が広がる感じ。自慢じゃないけど、生れてこの方、兵庫県から出たのは小学校と中学の修学旅行だけ。北海道っていえば毛ガニにジンギスカンかな。北海道の夢を校内予選で散らしてなるものか。
エミは強化合宿の時にアカネさんに指導してもらったのだけど、エミが写真を見せた時の評価がちょっと変わってる気がする。だって気に入った写真を見つけたら、
「これはおもしろい♪」
撮った場所に一緒に見に行って、
「なるほど、そう見えるのか!」
そこから撮り方の指導に入っちゃうの。そしたら、エミが本当は撮りたかった写真にドンドン近づいて行く感じ。他の写真の評価もそんな感じで、
「こういうセンスが好きだな。こっちも。写真はね、自己表現なんだよ。そのためには、目に見える光景をどうアピールしたいかの発想力が大事なんだよね。そういう時に一番邪魔するのが、
『写真とはこうである』
この固定概念なんだ。タケシでさえこの殻を叩き破るのに苦労したし、マドカさんも大変だったんだよ。エミさんのこのセンスは大事にしてね」
アカネさんに言わせると下手にテクの習熟に血道をあげてしまうと、綺麗で上手な写真にはなるけど、ありきたりのどこにでもある写真になっちゃうんだって。
「もちろんテクは重要だけど、テクはあくまでも補助手段。もっともエミさんの場合はもうちょっとテクを上げないと話にならないけど」
いやぁ、みっちり鍛え上げられました。最後に、
「アカネはね、こんな写真を撮りたいがずっと胸にあったんだよ。今だってそう。それをカメラで表現するためにテクを取り入れた感じかな。エミさんはイイ伸び方してると思う」
もっとも、そこにヒョイと麻吹先生が顔を出され、
「アカネの言うのは間違っていないが、このクソ頑固な天邪鬼にテクを教えるのがどれだけ大変だったか。穴の開いたバケツで水を汲むというか、ザルで水を掬うというか。あれだったらサルに芸を教える方がよっぽど簡単だ。アカネに較べれば、君らに教える方が百倍ラクだ」
アカネさんって、どんだけ。
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