恵梨香の幸せ(第26話)マッハ婚の謎
恵梨香は康太の妻。もちろん戸籍でも正式の妻だし、妻として文句の付けようのないぐらい愛してもらってる。これ以上は望むものはないはずだけど、夫である康太のすべてを知りたいと思ってしまう。
そうそう恵梨香が再婚相手として選ばれる時に最後の障壁になったのは恵梨香の不倫の過去。もちろん結婚する前日にあらいざらい話してる。それも許してくれて結婚したんだけど、恵梨香の不倫の過去を知った時の康太の反応を良く覚えてる。
まさに天を仰ぐとは、あの事かと思ったぐらい。康太が元嫁と離婚したのは元嫁の不倫だから、恵梨香は絶対にダメとしか思えなかったのよね。康太はかなり長い時間考えてたけど、あれはなにを考えてたんだろう。
シンプルには恵梨香の不倫の過去を許すか許さないかだろうし、許してくれたから結婚できたんだけど、その後も異様だった。あの夜に結ばれたのは流れとして順当。あそこまでになれば他にやることないものね。
異様なのは結ばれた翌日。あまりの事で恵梨香も驚くしかなかったのだけど、赤い紙に震える手でサインして区役所に届けてるのよ。それも午前中だよ。そりゃ、もう、夢見心地で幸せではち切れそうだったけど変じゃない。
そりゃ、プロポーズして、結ばれて、次が入籍になるのは順番と言えば順番だけど、いくらなんでも早すぎるよ。ありゃ、スピード婚というよりマッハ婚だもの。それに恵梨香は不満がある訳じゃないけど、普通なら結婚までのステップをもうちょっと踏むはずなんだ。
そうなんだ、抜けてるステップがあるんだ。あの時の恵梨香は舞い上がり過ぎて、恵梨香への愛の深さとしか感じなかったけど、あの場ならまず愛の告白だろ。せいぜい進んで結婚を前提としての交際の申し込みになるはず。
そこから結ばれて、恵梨香と康太の場合なら同棲に進むのが順当なステップだよ。同棲生活でお互いに一生を託せる相手と認め合ったら、そこでプロポーズになる。期間はいくらアラフォーでも短くて三か月、一年でも長いとは言えないもの。
恵梨香もそうだけど、康太なんてなおさらで再婚を急ぐ理由がないのよね。康太がその気なら、初恋人の由佳、初恋の智子、憧れのリサリサを順番に味見するのも可能だったもの。ついで恵梨香もね。
味見したら、したらで厄介事になったかもしれないけど、これまたその気なら、全部断ってもOKなのが康太の立ち位置なんだよ。地位も名誉もある男のアラフォーと、バツイチ女のアラフォーではそれぐらい差がある。
そうなるとあれだけのマッハ婚を恵梨香と挙げたのは、信じられないけど恵梨香とマッハ婚をしたかったからにしか考えられないことになるのよね。そう、一分一秒でも早く恵梨香を正式の妻に康太はしたかったってことになる。
その意志は恵梨香の不倫の過去さえ吹き飛ばすほど強固なものだったとしか言いようがないじゃない。そりゃ、恵梨香は嬉しかったし、今だって夢じゃないかと頬をつねる時があるぐらい。
それとだけど、康太は恵梨香とマッハ婚をしたかっただけでなく、恵梨香に妻としての幸せを、いかに満喫させるかに懸命の気さえしてる。恵梨香の嬉しそうな顔、幸せそうな顔を見るためならなんでもしてくれる感じ。
どうして、そこまで知ってるのって思うほど、恵梨香のそういうツボみたいなところを押しまくってくれるんだよ。ただね、いくら夫婦でも康太はツボを知り過ぎてる気がするんだ。下手すれば、恵梨香さえ気づいていないツボを押されちゃうんだもの。それも言ったことあるけど、
「恵梨香ならきっと喜ぶはずと思ったから」
結果はそうなんだけど、ある時に思ったんだ。康太はかつてやった事があるんじゃないかって。そうあの最後の恋人相手に。恵梨香にやってもらってることは、かつて康太が最後の恋人に対してやったこと、やろうとしたかった事をやってるんじゃないかって。
恵梨香が最後の恋人にどこか似てるのは理恵先生の話で間違いない。それだけじゃない、康太は最後の恋人と結婚を決めていたはずなんだよ。康太がプロポーズの時に恵梨香の不倫の過去に苦悩はしたけど、それでも許し受け入れたのは、最後の恋人と結婚できなかった事の後悔がある気さえする。
康太はなんらかの理由で最後の恋人との結婚のタイミングを逃したんじゃないかな。あれこれステップを踏んで時間を過ごしているうちに関係が醒めちゃったとか。今の時点では理由はわからないけど、この事を康太はすっごく後悔したのが恵梨香とのマッハ婚になったぐらい。
「お~い、恵梨香。なに考えてる」
「康太と結婚できて幸せだなって」
こんな夜は康太が欲しいけど、一昨夜も昨夜も蕩けてるのよね。というか、日が経つにつれて頻度が多くなってる。普通は新婚当初は燃え盛っても、段々とそれなりのペースになってくるはずだよね。
それが激しくなってる気がする。あのラブホの時から、康太は必ずあそこまで恵梨香を追い込むんだよ。追い込まれると満たされるんだけど、翌日の午後には欲しくなる。あの狂乱の時間を体が求めてるとして良い。自分の体が怖くなってる。
「たまには休まないと、康太も辛いでしょ」
「おかしいな。恵梨香はそうじゃなくってるはずだよ」
バレてる。一緒に暮らしてるからバレても不思議ないけど。そしたら康太は恵梨香を後ろから抱きしめるんだよ。ギュッと力強く。そして恵梨香を振り向かせて熱い口づけまでしてくれる。いや、口づけなんてもんじゃない、むさぼり合うような激しいもの。
康太は左腕で抱きしめてくれるのだけど、熱い口づけを続けたまま右手の指は恵梨香を愛してくれる。恵梨香のすべてを知り尽くしている指に反応せずにはいられない。恵梨香は康太に身を委ねるだけ。最後に指は恵梨香の反応を優しく確かめる。
「恵梨香、素直に欲しい物を言ってごらん」
こんなもの我慢できるわけないじゃない。これだけは、はっきりわかる。康太は恵梨香を目的をもって導いてる。そうしたいのが康太の願いなら、そうなるのが恵梨香の喜び。
「今夜もお願い」
とりあえずわかるのは、近いうちに毎晩になる。いや、もう殆どそうなってる。そう求めるように恵梨香の体は完全になってる。それと康太にも変化を感じてる。恵梨香の体がそうなるのを見極めて、次に進もうとしてるのを。
この次はある。間違いなくある。とにかく康太は慎重に丹念に恵梨香を開発してる。もう開発の余地なんて無いと思ってた恵梨香が確実に開発されているのはわかる。次のステップに必要な開発は十分すぎるほどの時間をかけて行われる。
今晩行くのかもしれない、明日かもしれない。また前のようにラブホを使うのかもしれない。それは、まだわからないけど、今から狂乱の時間で恵梨香を満たしてくれるのだけは確実。
愛してる。そうなって欲しいのなら必ず恵梨香はなる。それこそが恵梨香が選ばれた理由のはず。康太に行きたい世界があるのなら恵梨香はついて行く。なにがあっても離れない。どこまでも二人は一緒。
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