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ミサトの不思議な冒険(第18話)喫茶北斗星にて

 オフィス加納での二週間が終り、久しぶりに喫茶北斗星に。とりあえずサークルは夏休みだからお休み。ケイコ先輩がいてくれたら嬉しいけど。いたいた、
 
「尾崎美里、オフィス加納から命からがら生還しました」
「それはお勤め御苦労であった」
 
 大笑いになったけど、今から思い出してもゾッとするような体験だった。でもオフィスでの二週間は間違いなくミサトの血となり肉となっているのだけはわかる。ケイコ先輩にせがまれて何枚か撮ったんだけど、
 
「なんなのよこれ・・・」
 
 絶句されちゃった。店もヒマだったからダベってたんだけど、いつしか加茂先輩の話に。
 
「シゲルと知り合ったのも写真が縁でね」
 
 大学の入学式にケイコ先輩の両親も行ったらしいのだけど、家族そろっての記念写真を撮ろうって話になって、たまたま通りがかった加茂先輩に頼んだんだって。加茂先輩は一人で来てたらしいけど、
 
「それがね。どこかで財布を落として困ってたのよね。ドジなやつ」
 
 お昼ごはんも食べられないと聞いて、ケイコ先輩の御両親はわざわざ休んでいた店に招いてご飯食べさせてあげたんだって。ケイコ先輩の御両親もお人よしだと思ったら、
 
「ホント、そう思ったよ」
 
 加茂先輩は土佐清水出身。当然下宿になるのだけど、入学式の時点で下宿先は決まっていたけど、まだ引っ越ししてなかったんだって。つまり入学式が終われば一旦家に帰り、そこから引っ越す予定だったぐらいかな。

 加茂先輩は財布だけじゃなくて、財布を入れてたバッグごと落としたというか、置き引きされたで良さそう。そこには財布だけじゃなくて、高知空港までのチケットや帰りの電車の乗車券も入れてたみたいで。
 
「そういうこと。ホテル代も払えずに困っていたんだよ」
 
 ケイコ先輩の御両親は一切合財、加茂先輩のために立て替えてくれたんだって。なかなかの出会いだけど、
 
「うちでバイトしてたこともあったし」
 
 ケイコ先輩は大柄でガッチリした感じかな。でもゴツゴツじゃなくて、しなやかな感じがあるで良いと思う。それと御両親に似たのか世話好きで働き者。サークルの縁の下の力持ちって言えば怒られるかも。ミサトはこういうタイプの人は好きだな。

 加茂先輩はあれでリーダー肌の人。先頭に立ってグイグイ引っ張る感じじゃないけど、会員が慕ってついて行く感じとして良いと思う。なんか野川部長のことを思い出しちゃった。

 二人は写真好きで趣味が共通してたから話も合ったみたい。そこで喫茶北斗星を根城に写真サークルを作ろうって話になった感じかな。ケイコ先輩の友だちで写真に興味があったヒサヨ先輩も引っ張り込んで作ったんだけど、
 
「シゲルがね、どうせサークルやるなら夢があった方が良いから届出にしたのよ」
 
 とはいえ、写真が好きなだけの素人が三人集まったところで、やっていたのはせいぜい撮影旅行ぐらいまでだったとか。まあどこにでもある写真を楽しむサークルかな。
 
「でもさぁ、やるからには上達したいじゃない」
 
 ケイコ先輩が二年の時にチサト先輩や平田先輩が加わって、それなりに頑張ったらしい。
 
「あの二人は尾崎さんに較べると話にならないけど、西川流のB4級だったから、着実にレベルアップぐらいかな」
「ミサトも西川流ならB4級です」
 
 サークルが出来た頃の話も面白いけど、ミサトが気になるのは加茂先輩とケイコ先輩の関係。
 
「シゲルとは出会いこそドジっぽいけど、イイ奴だよ。それとああ見えても高校の時はサッカー部でキャプテンだったんだよ」
 
 それは知らなかった。
 
「それにアイツもてるんだよ」
「彼女とかいるのですか?」
「それが不思議だけどいないのよね」
 
 加茂先輩とケイコ先輩はサークルの代表と副代表だから一緒にいることが多いのだけど、それこそ喫茶北斗星に行けばいつもいるって感じ。サークルの正式の活動は週に二回程度だけど、それ以外にも適当に集まったらやってる感じ。
 
「ケイコがいるから他の女が寄り付かないって笑ってたよ」
 
 うん、うん、そうじゃない気がする。加茂先輩はケイコ先輩が好きだから喫茶北斗星に通い詰めてるんだよ。それだけじゃない、喫茶北斗星に通い詰める理由を作るためにサークルをわざわざ作ったに違いない。そうなると、
 
「ケイコ先輩は加茂先輩が好きなのですか」
「ケイコが? あははは、対象外だよ。ケイコを選ばなくてもシゲルなら選り取り見取りだもの」
 
 あれっ、ケイコ先輩の声が鼻声に、
 
「尾崎さんが羨ましいよ。ケイコだって、もっと美人に生れたかった。もっともっと可愛い女に生れていたら人生変わってたかもね」
「そんなことはありません。ケイコ先輩はとってもチャーミングな女性です」
「ありがと」
 
 もう間違いない。ケイコ先輩も好きなんだ。ああじれったい。お互い好きになって、こんなに近いところにいるのに友だちの一線を越えられないなんて。それも二年も一緒にいるのにだよ。
 
「今日もね。店番してたのは、シゲルがヒョイと顔出さないかと思ってね。夏休みで高知に帰っているのにバカみたいでしょ」
 
 もうたまんないよ。そうだ、そうだ、今日は来たのは他にも理由があって、
 
「ケイコ先輩、お誕生日おめでとうございます」
「よく覚えてたね」
 
 そりゃケイコ先輩は、たとえばエレギオンの女神たちとか、オフィス加納の麻吹先生や新田先生に較べると可哀想だけど、とってもイイ女だよ。性格だってミサトが太鼓判を押す。それがわかってるから加茂先輩だって好きになったはず。
 
「誕生日がこんな時期でしょ。なかなかお友だちに祝ってくれないから、とっても嬉しい」
 
 こういう時のケイコ先輩の笑顔って可愛いのよね。でもね、でもね、ここでケイコ先輩のお誕生日を祝うのはミサトじゃダメなんだよ。そんなことを考えたらお客さんが入って来たのだけど、テンコモリの赤いバラの花束を抱えてて顔が見えないけど、
 
「ケイコ、ハッピーバースデー」
 
 あの声は加茂先輩。加茂先輩も覚えていて高知からわざわざ駆けつけてくれたんだ。なかなかやるじゃない。
 
「シゲル、ありがとう」
 
 こうなるとミサトはお邪魔虫だね。
 
「ごめんなさい、ついつい長居してしまいました。ハワイの準備もあるから帰ります」
 
 ケイコ先輩もずっと待ってたんだよ。今日だって自分の誕生日を祝いに加茂先輩が来るかもしれないって一日中待ってたんだよ。たぶん去年も一昨年も。そして加茂先輩はついに来てくれたんだよ。二年以上かかって、ついに二人は新しい世界に踏み出すよ。こんな恋も憧れちゃうな。

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