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アカネ奮戦記(第23話)シンエー・スタジオ

 ここは東京のシンエー・スタジオの会議室。
 
「・・・次の議題は赤壁市の城下町フォト・コンテストです」
「今年も築田君が出るのかね」
「もう若いのにやらせようと考えています」
 
 社長の辰巳はさして興味はなさそうに、
 
「そうだな。どうせ内輪のコンテストみたいなものだから、わざわざ築田君が出ることもないだろう」
 
 この議題はこの程度で終りそうだったのですが、
 
「実はですが、今年は市内からの応募が一件あります」
 
 辰巳社長は意外そうに、
 
「そこはどこかね」
「立木写真館です」
 
 社長はしばらく思いあぐねていましたが、
 
「やっと思い出した。あそこの爺さんが出てくると言うのかね」
「いえ、去年から入った若いのが出てきます」
 
 少し興味を示した辰巳社長が、
 
「若い奴の腕試しだろうが、調べているだろうな」
「はい。名前は青島健。関東芸術大学卒業。コンクール受賞歴は・・・卒業後は独立するもこれを閉じて、オフィス加納に入門。ただ二年で逃げ出しています。たいした事はないかと」
 
 辰巳社長はピクッと眉毛を動かし。
 
「オフィス加納に入門を許されているのか。しかも二年もいたということは、アシスタントはクリアしている事になる」
「あ、はぁ」
 
 辰巳社長の意外な反応に築田は驚きながら、
 
「でも逃げてるのですよ」
「じゃあ、君に聞く。君ならオフィス加納に入門できるかね」
 
 築田の痛いところで、かつて入門志願者を出したことがありましたが、まったく返事がなかったのです。
 
「青島の写真は」
「赤壁に来てから集められるものは集めています」
「見せてみろ」
 
 スクリーンに写真が映しだされます。
 
「こ、これは」
「悪くない」
「いや、良く撮れてるとしてイイのじゃないか」
「これは甘くないぞ」
 
 辰巳社長は、
 
「築田君、これを見ても若手にやらせようと思ったのかね」
「いや、その、まあ・・・」
「資料は集めるだけでなく見ないと意味がない」
 
 引き続いて辰巳社長は写真のチェックを続け、
 
「上手いな。それも最近になるほど進歩しておる。もっと最近の物はないのか」
「最近は店にも出ていない様子です。おそらくコンテストに備えて準備中かと」
「う~む。化けると怖いな・・・」
 
 ここで築田が、
 
「青島健の調査に不備があったのは申し訳ありませんでした。例年通りに私が出ます」
 
 辰巳社長は、
 
「この写真だけなら築田君の方が上だが、赤壁市に来てから青島の写真は伸びておる」
「でもこの程度なら」
「負けてはならんのだ」
 
 築田は社長の声に心外そうに、
 
「私では勝てないとか」
「だから負けてはならないと言っておる!」
 
 声を荒げた社長に会議室に緊張が走ります。
 
「城下町フォト・コンテストは支社のために作られたようなコンテストだ。だからシンエー・スタジオは必ず勝たねばならない。そういう風に築田君は位置づけた」
「そうですが」
「シンエー・スタジオの相手は誰だ」
「立木写真館です」
「一介の町の写真館に負けることなど許されないということだ」
 
 社長の言いたいことが会議室の出席者にわかってきました。
 
「赤壁市のコンテストは個人のためのコンテストではない、実態はスタジオ対抗戦になっておるのだ。築田君の敗北はシンエー・スタジオの敗北になる」
 
 辰巳社長はじっと考えこみ。
 
「万全を期すべきだ」
「では、どうされると」
「築田君にはもちろん出てもらう。だがそれだけでは不安が残る」
「では誰を?」
 
 辰巳社長は決然と、
 
「私が出る」
 
 会議室にどよめきが、
 
「ちょっと待ってください」
「そうですよ、わざわざ社長が出られなくとも」
「社長が出られるようなコンテストではありません」
「いや、社長が審査員ならともかく、今さらコンテストに出ること自体がおかしすぎます」
 
 口々に反対意見が唱えられます。
 
「私は築田君の意見を認めた。シンエー・スタジオの看板を許し、コンテストにシンエー・スタジオの看板での参加も認めた。この責任は取らねばならぬ。獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くすという。今がその時だと判断する」
 
 粛然とする会議室。
 
「諸君にも言っておく。青島健を舐めるな。今度のコンテストはシンエー・スタジオだけではなく西川流の名誉もかかっておる。これは総力戦だ。是が非でも勝たねばならない」
 
 赤壁市のローカル・コンテストでこんな事態に陥るとは誰もが意外でした。
 
「心配するな。青島健は強敵だし、伸び盛りではあるが、まだ私には及ばぬ。怖いのは油断だけだ。諸君も心してかかるように」

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