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アカネ奮戦記(第37話)華燭の典

 式場はツバサ先生と同じで聖ルチア教会。ウェディング・プランはクレイエールの微笑む天使にした。動画はサキ先輩で、写真係はマドカさん。さすがにツバサ先生を来賓として外せないじゃない。だいたいツバサ先生に撮らせると、なにやらかすかわかんないじゃない。
 
「アカネにだけは言われたくない」
 
 かもね。でも式では定番をやってしまった。親父とバージンロードを歩いたんだけど、きっちり裾踏まれてひっくり返った。でもこれはアカネが悪いんじゃなく、親父が悪いんだからな。次の定番の誓いの時にも、
 
「汝健はこの女茜を妻とし、健やかなる時も、病める時も、常にこの者を愛し、慈しみ、守り、助け、この世より召されるまで固く節操を保つ事を誓いますか」
「はい」
「汝茜はこの男健を夫とし、健やかなる時も、病める時も、常にこの者に従い、共に歩み、助け、固く節操を保つ事を誓いますか」
「はい」
 
 ここまでは良かったんだよ。問題はその次で、
 
「今、この両名は天の父なる神の前に夫婦たる誓いをせり。神の定め給いし者、何人もこれを引き離す事あたわず」
 
 ここでつい神のところに引っかかってしまい、
 
「神如きに二人の仲は引き裂かせるものか!」
 
 神父さんは困った顔してたけど、まあイイとする。神父さんだってホンモノの神がどれだけ手強い連中か知らないだろうし。だってだよ、アカネにとって神とは、すぐにアカネをマルチーズにしたがり、座興で容貌を別人に変える存在だからね、

 披露宴はこじんまりしたものにした。だってさぁ、呼び出したらゴッソリ来ちゃうんだもの。ツバサ先生たちにもこれは相談してたんだけど、
 
「大賛成だ。後始末が大変になるかな」
「ボクもそう思う。想像しただけでゾッとする」
「マドカも賛成です。アカネ先生がどんな人かよく知っておられる方だけに祝福してもらうべきです」
 
 賛成してくれたのは良かったけど、賛成理由が気に入らなかった。だから式も、披露宴もまったく同じメンバーで動いた。ホントはツバサ先生に来賓祝辞はやらせたくなかったんだ。でも仕方ないじゃない。そしたら、
 
「あのアカネが、ついに、ついに・・・」
 
 そこまで言って絶句しちゃったんだよ。披露宴会場はちょっとした感動に包まれてたし、アカネもそうだった。ツバサ先生は高砂席につかつかと歩いてきて、
 
「後は伏せとく。やりだしたら、明日までかかるからな」
 
 ギャフン。でも助かった。やはり祝辞役はマドカさんか、せいぜいミサキさんぐらいにしておきたい。あの二人以外にやらすと、何を言いだすかわかったもんじゃないし。それでも、スタッフたちの祝辞は嬉しかった。
 
「タケシ、アカネ先生を不幸にしたら珠算一級のオレが許さん」
「それは書道初段のオレの仕事や」
「簿記二級のオレをさしおいて・・・」
「また逃げ出したら英検四級もオレが地の果てまで追いかけて火炙りにしてやる」
 
 心の籠った良い祝辞だった。でもさすがに二次会が終わってホテルの部屋に戻るとグッタリ。よくもまあ、世間の新婚夫婦は、こんなくたびれた状態で新婚初夜なんてやるもんだと感心した。アカネは寝たよ。翌日は神戸空港まで見送りにツバサ先生たちが来てくれたけど、
 
「アカネ、しっかり仕込んでこい」
「タケシ、枯れ果てるまでやってこい」
「アカネ先生も早い方がイイと思います」
 
 たしかに。新婚旅行中に三十七歳の誕生日来ちゃうんだよね。アカネは、四人は欲しいから、年子でも四年がかりになっちゃうんだ。双子二セットもあるけど、それはそれで大変そうだし、一回で済むけど四つ子は論外だ。

 新婚旅行はユッキーさんたちからのプレゼントもあった。例のプライベート・ジェットを使わせてくれたんだ。もっとも成田に行くついでだったけど。タケシは目を丸くしてた。成田でやっと二人にきりになって飛行機に乗り込み席に着いたらホッとした。
 
「タケシ、長かったけどやっとだね」
 
 そう言ったら力強く抱き寄せてくれた。これが幸せだ。やっと手に入れた幸せだ。なにがあっても手放すもんか。

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