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黄昏交差点(第24話)プチ同窓会

 実家に帰ってからはブラブラさせてもらってる。家事手伝いってところかな。この先どうするかも考えないといけないけど、今すぐはね。ちょっとノンビリする時間が必要だと思ってる。

 智子が未亡人になって実家に舞い戻って来てるのもボツボツ知られてるで良さそう。だから時々旧友から連絡が入ったりする。みんな結婚して幸せそうかな。もっとも旦那の愚痴はこぼす子もいるけど。

 そうそう、晩御飯の材料を買いに行ったらカノリにあったんだ。カノリは加乃里で、ホントはカオリって読むのだけど、そうは読めないからカノリって呼んでたんだよ。フル・ネームは樫本加乃里。

 加乃里も小学校から同じだったけど高校は別。ブラバン仲間ででクラリネット吹いてたんだ。ブラバン時代は仲良かったし、よく話もしてた。加乃里は智子が未亡人になってたのに驚いたけど、智子は加乃里が独身だったのに驚いた。ちなみに中学校の先生やってるよ。

 加乃里とは、それからちょくちょく会ってる。ファミレスでお昼食べて、お茶するぐらいだけど、あれこれ友だちの消息とか聞けて楽しかった。さすがに色々あると思ったもの。あれから二十年だものね。これも驚かされたけど、

「藤田正幸と古野彰って覚えてる」

 小学校のイジメっ子。あの頃は今のイジメはなかったけど、その代わりにイジメっ子がいた感じかな。さすがに女子まで手を出すことは少なかったけど男子は相当やられてた。

「藤田君の方は本職になったみたいだけど、クスリをやり過ぎて死んじゃったのよ」

 イジメっ子だけど、あの二人はタイプが違って、藤田君はやたらと暴力を揮う方だったけど、古野君は昔ながらのガキ大将ぐらいかな。藤田君はあのまま本職になっちゃって二十歳過ぎぐらいに亡くなったらしい。

「古野君は転校したでしょ」

 五年の時だったかな。男子連中が快哉を挙げてたのを覚えてる。転校したと言っても市内だけど、転校先で逆に〆られたんだって。そのせいか中学では目立たなかったけど、

「最後がね・・・」

 二十七歳の時に結婚式を挙げたそうだけど、式の真っ最中に古野君が倒れて大騒ぎになったんだって。原因は智子の死んだ旦那と同じ脳出血。その頃は寄ると触ると、その話題で持ちきりになったそう。だって古野君もそのままになったもの。

 そんな加乃里が持ち出してきたのが、ブラバン仲間の集いみたいなもの。あの頃の仲間もさすがに散り散りになってるけど、何人かが定期的に会ってるらしい。それぞれが住んでる場所の関係で三宮でやることが多いみたいだけど、

「女子の出席者が欲しいのよ」

 子育て世代が多いから、家が空けにくくて、集まらないそう。とくに夜の集まりとなるとサッパリらしい。この辺はブラバン仲間の散らばり方もあるみたいで、集まりやすい男子は三宮が都合がよいみたいだけど、女子は故郷に残ってるのが多くて、三宮までの往復時間もネックになってるぐらいかな。

「智子なら独身みたいなものだから出れるでしょ」

 みたいというか、完全に戻ってるけど。でも会ってみたい。死んだ旦那がこの手の会の出席が絶対ダメな人だったから、ホントに卒業以来だもの。加乃里からブラバンの会の場所と時刻の連絡があったから電車で出かけた。

 加乃里は神戸で買い物を済ませて現地集合になってるから、智子は一人で電車に乗ったんだ。そして思い出してた。神保君をめぐって智子にはライバルがいた。そう西村由佳。悔しかったな。

 神保君は智子に気があったはずなんだ。でも由佳が現れたら、あっという間にさらわれちゃった。悔しいけど、由佳は綺麗だし、愛嬌もあって、敵わないと思ったもの。あの頃の噂にもなってたものね。あの二人の仲。

 あの塾時代の帰り道で神保君と由佳は会ってたんだよね。それもだよ、自転車下りて、話しながら歩いて帰ってたんだよ。見た人もいたけど、そりゃ、仲睦まじそうに見えたって。あの時はショックだった。そう智子の初失恋。

 高校に入った時に智子も見たもの。神保君と由佳が一緒に駅までくるのを。あの時に智子は初めて嫉妬を覚えた気がする。どうして、智子じゃなくて由佳が神保君の隣にいるんだって。思わず睨んじゃった。

 だから神保君は由佳とずっと付き合ってると思ってた。笑っちゃうけど、このまま結婚しちゃうんじゃないかと思ってたぐらい。悔しいけど、それぐらいお似合いにしか思えなかったもの。

 神保君が智子に声をかけてくれた時に無視しようとしたものね。だって神保君には由佳がいるじゃない。さらにだよ神保君は美佐江とも仲が良くて、プレゼントまでもらってた。あの時にこの二股野郎とまで思ったもの。

 もう話したくもなかったから、駅から家まで逃げて帰った。智子なんている必要もないと思ったもの。ただ逃げて帰るにも信号があるのよね。あそこの赤信号は長いから、ある日に神保君に追いつかれちゃったんだ。

 あの時に智子にわかったんだ。由佳とは終わってるって。ちょっと飛び上がったよ。そうなると問題なのは美佐江。神保君の心を確認するためにあのペンケースを贈ったんだ。そしたら神保君は満点回答してくれた。

 ああいうのを天にも昇る気持ちって言うと思う。神保君が智子のところに戻って来てくれたんだよ。学校の帰り道がバラ色の時間に変わった瞬間だった。時間が短すぎるのが恨めしかったけど。

 智子は決めたんだ。もう神保君は誰にも渡さないって。ホントなら手をつなぐとか、デートするとか、キスするに進みたかったけど、そっちはちゃんと言ってもらうまで怖くて出来なかったのがあの頃の智子だった。

 その代わり、聞かれたら認めてた。智子と神保君の仲は段々と噂になってたから、ホントはどうなのって聞く子も増えてたから恥しかったけど、

「そうだよ。応援してね」

 もう必死の思いで答えてた。でもあの頃の智子に出来たのはそこまでだった。勇気がなかったのもあったけど、自分に自信もなかったんだよね。智子が本当に神保君の彼女として認めてもらってるかって。

 それと進んだ先にあるものにも怖かった。手をつないで、キスまでしたら、次は求められるかもしれないじゃない。あの高校でも初体験を済ませている子もいたけど、智子はとにかく怖かった。

 この辺は自信のなさの延長線上だけど、智子はチビだし、オッパイだって小さいのよね。たとえばボイン、ボインの由佳と比べたら小学生みたいなものとしか思えなかったのよ。もちろん見せるだけで恥しいのだけど、そんな智子の体を知られるのがもっと恥しかった。

 この辺は今だってペッタンコだけど、高校の頃はもうちょっと大きくなるのを期待してた。そう大人になったら恥しくない体になるはずだって。ちょっとはマシになってくれたけど、あははは、こんなもので終わっちゃった。

 でも今は違う。死んだ旦那は智子の体を喜んでくれた。最後はグシャグシャになったけど、智子の体でも男は軽蔑しないし求めるのもわかったもの。今でも胸張ってまでは言えないけど、求められたら応えられるよ。

 それでも高校時代に智子の処女を捧げていたら神保君との関係が変わっていたかと言われると難しいな。お母さんにも言われたけど医学部六年はとにかく長いのよね。高校時代にあれ以上進まなかった原因の一つと思ってる。

 あの頃はそれで仕方がないと思ってたけど、あのままつかまえて結婚していたら、智子の人生は変わっていたはず。それが良かったか、悪かったかは神のみぞ知るだけど、神保君以外を選んだ結果だけは知っている。

 ギリギリかもしれないけど、智子には二度目のチャンスが巡って来てると思うのよ。高校の頃の智子とは違う。そりゃアラフォーになっちゃったし、言うまでもないけどバージンなんてカケラも残ってないよ。

 その代わりに経験を積んだ。これだけが今の智子が頼るもの。あの頃のためらいとか、迷いとかはない。今なら素直に神保君を欲しいと言えるし、もし奪い合いになっても一歩も譲る気はない。奪うためにこの体が必要ならいつでも迎え入れられる。

 高校の時とは違う。見つけたら一直線に迫るだけ。もう智子には待つ時間も残されていないってこと。この恋が智子の人生最後の恋。かならず花咲かせてみせる。それが出来るように智子はなってるはず。

 三宮の待ち合わせの店に行ってみたら。来てたよ。智子なんて中学卒業以来だから大歓迎してくれた。なんかプチ同窓会の気分。そうだそうだ山岸部長も来てくれてた。部長は名古屋に勤務だけど、出張のタイミングがあって顔出してくれたみたい。

「上村さんは変わらないね。昔のままだよ」
「やだぁ、部長。いくらお世辞を言っても何も出ないですよ」

 そこに川辺君が、

「いやいや、ホンマに変わってへんよ。店に入って来た時に娘さんかと思ったぐらいや」
「大げさすぎますよ。智子だってアラフォーです」

 加乃里まで、

「智子が羨ましいよ。カノリなんて独身なのに。ほらこの老けよう」
「カノリだって綺麗だよ」
「そうじゃないからバツイチにさえなれないの」

 今日集まったのはこの三人と石井君と、浦辺君。一次会はこうやって盛り上がったんだけど、二次会は山岸部長と石井君が明日の仕事があるからとホテルに帰り、残りの四人で二次会に。今日の幹事は浦辺君だけど、

「さすがにカラオケってわけにはいかないし、女性軍もいるからスナックとかも良くないやろ」

 そう言って連れて行かれたのが裏通りにあるようなバー。こういう店は来たことがないけど、

『カランカラン』

 ドアを開くとカウベルが鳴るみたい。店内はまるでテレビとか映画のセットのような高級バーそのもの。

「浦辺君は良く来るの」
「時々な。だってやで、アラフォーやからこれぐらい大人の店で飲まんと格好つかへんやろ」

 カウンターに四人並んで、

「今夜は上村さんとの再会を祝してカンパ~イ」

 笑われそうだけど、こうやって昔の仲間と食べて飲んでするだけで冒険してるみたい。旦那が生きてたら、絶対に出来なかったものね。こういう時間はホントに楽しい。川辺君が、

「ところで上村さんは再婚とか考えてる」
「もちよ。まだアラフォーだからもう一花咲かせるつもり」

 そしたら浦辺君が、

「なんか上村さんは変わったな。もちろんエエ方やで。上村さんやったらエエ男がほっといても湧いてくるよ」
「またぁ、アラフォーだから賞味期限ギリギリで焦ってるだけ」

 どうも智子には予感がしてる。この夜の冒険はこれだけで終わらないのじゃないかって。そう、何かが起こりそうなのよ。智子のこういう時の勘ってよく当たるのよね。そんな時に、

『カランカラン』

 新しいお客さんが入ってきた。へぇ、バーなら女性のお一人様でも来れるんだね。でね、空いてる席は智子の隣だけ。急いで智子のバッグを片付けたんだけど。

「ありがとうございます」

 そうだね、美人とは言えないと思うけど、それを感じさせない大人の魅力が溢れてるっていうのかな。こういうタイプの人っていそうで、なかなかいないのよね。

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