目指せ! 写真甲子園(第15話)遥かなる北海道
馬に乗るエミの写真を使う話になってむくれてるエミに野川君は、
「馬は北海道とか九州ならまだ見ることはあるけど、近畿では少ないんだよ」
まあそうだろうけど、
「近畿で馬術部がある学校は全部で六校しかない。そのうち写真甲子園の初戦審査会に参加しているのは三校だ。ただ馬術部があるからといって、必ずしも題材に選ぶかどうかはわからないし、選んだとしても馬術部の協力をどれほど得られるかどうかは未知数だ。これを活かさない手はないと思う」
でも、でも、でも、
「写真甲子園は初戦審査会だけどブロック毎に行われる。うちは近畿ブロックになるけど五百校以上の参加が予想されている」
多いんだね。
「初戦審査合格枠は決勝進出枠と連動している。全国大会の切符は十八枚だけど、これはまず全国十一のブロックに割り振られる」
近畿にもまず一枚ね。
「次の五枚は参加校数の多いブロックにドント式で割り振られる。近畿ブロックに二枚割り当てられるのは確実だ」
「もう一枚増える可能性は?」
「最終エントリー数によるけど、まず取れると見て良い」
じゃあ、切符は三枚か。
「ブロック審査会に出場できるのは、全国キップ枚数の五の倍数となっているから十五校だ」
「たったの!」
初戦審査会合格とはイコールでブロック審査会出場だから、
「ここを突破しないと写真部は降格、もちろん北海道もパーだ」
こりゃ、厳しいよ。五百校の上位十五校に入らないといけないとは。
「これも十年ぐらい前なら初戦審査会エントリー校は現在の五分の一ぐらいだったんだけど、最近の写真ブームで参加校数は急増している」
かつてスマホの写真機能の高性能化で、カメラは売れなくなった時期があったらしい。カメラってたとえコンデジサイズでも荷物になるし、ミラーレスやましてやデジイチになると大荷物になるもの。
ところがこれだけの写真ブームになると変わったで良さそう。スマホじゃミラーレスやデジイチにどうしたって敵わないところがあるんだよ。つまり、そんなカメラを持っているのが本格派と一目置かれるだけなく、
『格好イイ』
こうなったで良いと思う。そのために写真小僧や写真女子が世に溢れ、これが高校生にも波及してるぐらいかな。そうなれば必然として、写真甲子園の参加校も急増って結果になってるぐらいだろうけど、
「参加者が増えればレベルも上がるから厳しくなってる」
参加校が増えたと言ってもレベルはまちまちで、単なる写真好きが三人集まって出てるだけのところもあるけど、本格的にやってるところも増えるのよね。
「初戦審査会を突破できるのは十五校だけど、十五校のレベルは以前より格段に上がっていると麻吹先生も仰られていた」
そうなるよね。下も増えれば上も当たり前だけど増える。突破枠は変わらないから椅子取りゲームも激しくなってるのよね。だから宗像君チームと校内予選を戦うために、二学期全部を使ってトレーニングさせたぐらいだと思ってる。
大会としては盛り上がるだろうけど、初戦審査会突破が最低目標の写真部にとっては条件が厳し過ぎる気がする。ひょいと三人集まっても、宗像君たちみたいに写真教室とかでビシバシに頑張ってる連中の可能性だってあるものね。
「それと大事なことだけど、初戦審査会はブロック審査会と連動してるのだよ」
そうだった、そうだった。初戦審査会は非公開で審査員だけで行われるけど、ブロック審査会に使われるのも初戦と同じ写真。初戦審査会と違うのは公開で行われて、製作意図とか狙いをプレゼンした上で審査されるんだよね。
「プレゼンの比重はそれなりにあると思うけど、やはり作品の質が一番じゃないか。決勝大会に進むためには初戦審査会を三位までに突破していないと厳しくなる」
そうだよね。十五位滑り込みじゃ、プレゼンで少々頑張ったぐらいじゃ追いつけるとは思えないもの。そういう言えば決勝大会への切符はまだ二枚あったはずだけど、
「あれは特別枠と見たら良いと思う。ブロック審査会の出場校は八十校で、そのうち十五校がブロック枠で決まるだろ。残りの六十五校から二校を選ぶ方式なんだ」
えっと、えっと、そうなると特別枠に入るためには、ブロック審査会出場校全体の十七位以内に入っていないとダメってことか。近畿ブロックなら四位に入っていないと話にならないだろうな。
なんか北海道が果てしなく遠く思えて来ちゃった。高校野球の県予選が百六十校ぐらいで代表枠が一つだけど、写真甲子園の近畿ブロック予選だって同じぐらいの競争率じゃない。
それにうちの写真部も伝統だけはそれなりにあるけど、野川君が二年になる時は部員が二人になってたぐらいの弱小部。二人と言っても藤堂君は一年の終りに友情にかられて入ってくれたようなものだし。
今だって部員こそ増えたけど、殆どはニワカ部員。エミだって他人のことを言えないぐらいニワカ部員だけど、こんな急ごしらえの写真部で勝つなんて夢としか思えないものね。
「小林君、それほど悲観的になることないよ。これが運動部なら積み重ねた体力とか技術の差は埋めようがないけど、勝負は写真だよ」
「でもエミだって始めたばっかりだし」
野川君は静かに笑いながら、
「うちの顧問を誰だと思っているのだよ。全国に強豪、名門とされる写真部はあるけど、うちの写真部の顧問より優れた指導者がいるとは思えない」
最近だいぶ見慣れたけど、なんてたって顧問はあの麻吹先生。こんな豪華、いいやウルトラ豪華な指導者がいる写真部なんてこの世に存在しないかも。
「麻吹先生は決勝大会に行くつもりでトレーニングしてくれている。つもりじゃない、行くことしか考えてないぐらいだ。そのためにオフィス加納から可能な限りの応援もして頂いている」
そうだった。応援に新田先生とか、アカネさんも来てくれるんだ。夏休みの強化合宿の時には星野先生やタケシさんまで来て、付き切りで指導してくれたもの。こんな夢のような体制があるなんて信じられないぐらい。
「実力だって、校内予選の時に宗像君たちは失格になったけど、実力でも勝っていたと辰巳先生も講評してくれたし、麻吹先生も認めてくれていたじゃないか」
そうだ、そうだ。校内予選の相手は宗像君ですらなく村井プロだったんだ。エミたちはプロにも勝ってるんだ。
「じゃあ、勝てる」
「勝利は油断なく努力と精進を重ねた者にのみ輝く。使える手段があれば躊躇なく使わないといけないんだよ」
「インチキしても」
「それはダメだ。勝負はあくまでもフェアじゃないといけない。自らに有利な材料を利用するのと、インチキでは根本的に違うよ」
なんか野川君に上手く言いくるめられた気もするけど、エミがモデルになって馬に乗る件は了解した。それで北海道の夢が少しでも近くなるなら協力しなきゃ。ヌードモデルになるわけじゃないものね。