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シノブの恋(第16話)技能検定

 小林社長が勧めるから、全国乗馬倶楽部振興協会の技能認定試験を受けたんだ。これは五級から始まるんだよね。五級はおおよそで言えば常歩と速歩が出来れば合格ぐらいで、英検の五級程度ぐらいのもの。

 四級はこれに駆歩が加わるぐらい。この程度は三人に取ってラクラクってところ。純趣味でやってる人はとりあえず四級ぐらいまで取る感じと言えば良さそう。

 三級は難度がグッと上がる感じ。どう言えば良いのかな、馬の速度をコントロール出来て、巻乗りとかの基本的な馬場馬術をマスターしているぐらいが合格条件。三級取れれば上級者って感じかもしれない。

 ここから上は認定コースが別れて、馬場馬術コースと、障害飛越コースを選ぶことになるけど、シノブたちは障害飛越三級を目指したんだ。障害飛越と言っても九十センチが最高ぐらいだったけど、どんどん昔を思い出して来て合格。

 障害二級になると難度は競技会並みになり、障害の高さも一一〇センチまで上がるけど、これも三人とも難なくクリア。障害二級を取るのは大きな意味があって、日本馬術連盟B級が取得できちゃうんだよ。B級取れれば国内の殆どの競技会の参加資格が出来るんだ。小林社長は、
 
「ここまで、こんなアッサリ。もうビックリさせられますわ。この際やからA認定目指しまっか」
「もうイイよ。オリンピックに行くわけじゃないし」
「そうや、社長が勧めるから、ついでついでで取ったけど、趣味やったら十分すぎるやろ」
 
 馬が終わるとレストランで食事。お二人もこのレストランが大のお気に入りで、
 
「粕汁も旨いけど、この豚汁も絶品やで」
「こっちの生姜焼きも絶妙じゃない」
「ナスとひき肉と味噌の取り合わせがたまらん」
 
 シノブも他人のことを言えませんが、この二人がどんだけ味にうるさいか良く知ってます。もっともミサキちゃんも呆れてましたが、どんなに不味くても平気で食べてしまうのにも驚かされます。コトリ先輩に言わせると、
 
「そりゃ、五千年も生きとったら舌は肥えるで。ほいでも腹空かしとった時代が長かったから、メシ食えるのは無条件に嬉しいんや」
 
 お二人に取って味の評価と食欲は別物と思うぐらい分離してるようです。だからなんでも平気で食べるのは食べるのですが、滅多なことでは美味しいと評価する店はありません。シノブが知ってる範囲では神戸でも両手に足りないぐらいです。

 そんな二人がここまで評価するのですから繁盛するはずです。シノブも伊集院さんと来る時には遠慮しがちに食べてますが、お二人と一緒の時は、
 
「今日のサービス定食を大盛りで。えっとそれから・・・」
 
 うら若く見える三人娘がモリモリ食べる光景はすぐに話題になり、
 
「お嬢ちゃん、あれも美味しいで」
「じゃあ、それ一つ」
「実はな、裏メニューがあって・・・」
「それ是非」
「今日は季節の特別メニューがあるんや」
「それも食べる」
 
 バカスカ飲んで、食べて、最後は社長のクルマで最寄りの駅まで送ってもらうのが定番コースになっちゃってます。それだけじゃなく、近所の農家の常連のお客さんからも、
 
「良かったら持って帰って食べてみて」
 
 新鮮な野菜をそれこそテンコモリ。まあ、売り物にならないものだそうだけど、ユッキー社長もコトリ副社長も翌日は嬉々としながら、
 
「これは新鮮でエエもんやわ」
「ホント、甘くて美味しい」
「こっちは漬物にしとくな」
「こっちは・・・」
 
 野菜のフルコースが並ぶ寸法です。そうそう伊集院さんの馬術ですが、これは結構なものです。だってB認定取ってるのです。
 
「ホントは自慢だったんだけど、結崎さんがあんなにアッサリ取っちゃうと値打ち下がるよ」
 
 悪いことしたかな。でも馬術の腕の差がなくなると、一緒に走らせることが出来るので楽しみも増えるのよね。例のトレッキング・コースにも挑戦したんだけど、たしかにあれはアドベンチャー・コース。

 途中で大きな木が倒れていて道を完全に塞いでいたから、ポンと飛び越えてみたんだ。そしたら台風被害で荒れ放題って感じで、崖崩れはあるは、橋は壊れてるは、倒木が道を塞いでるはで、道なき道を懸命になって駈け抜けた。

 これはあまりにもヒドイと思って、後ろに続いてるはずの伊集院さんに声をかけようとしたらいないのよね。とにかくコースを走破してクラブハウスに戻ると、
 
「ゴメン、ボクにはついていけないよ。結崎さんを止めようと思ったんだけど、あっと思ったら飛び越えて行っちゃって・・・」
 
 社長も、
 
「あの倒木のところを飛び越えたって聞いて心配してたんですわ。あれ飛び越えるのも大変やけど、あの先の道が崩れてるところを、よく通れたもんですわ。まさかあの先に行く人がいるなんて・・・」
 
 だったらコースを閉鎖しておけよ。通れるって聞いたから、通ったのに。翌日には通行禁止の立て看板が出来てた。最近は障害コースで楽しんでます。中障害程度なんだけど、飛び越えて行くのが楽しくて。そうそう小林社長から、
 
「ここまで乗れるんやから馬買ったらどうでっか」
 
 これに対してユッキー社長もコトリ先輩も、
 
「趣味で乗ってるだけやから、レンタルで十分」
 
 そうよね、馬は買うだけで高いし、厩舎料もエサ代もバカにならないから、あの二人は買わないよね。だって未だにヘルメットも、プロテクターも、ブーツもレンタルのままだし。

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