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流星セレナーデ(第33話)アラとコトリ

 宇宙船団が帰ってからミサキが耳にした個人的な大ニュースは、コトリ副社長がアラとまた引っ付いちゃったのです。一時はアラを殺しかけ、その後も社史編纂室に監禁状態、お茶室会談の後でさえ軟禁状態だったアラとですよ。ビックリしてユッキー社長のところに駆けこんだのですが、

「お互いの恋愛に口出ししないのが二人のルール」
「それは前にお聞きしましたが、それでも相手はアラですよ」
「うふふふ、コトリはね、昔から有名人に弱いのよ」
「有名と言っても地球では無名ですし、エランでだって今は極悪人じゃあ」
「今はそうかもね」

 後は何を言っても取り合ってもらえませんでした。たく女神の考えてる事は訳が分かりません。もっともミサキも女神ですから、女神というよりユッキー社長やコトリ副社長の考えてることがわからないとした方が良いかもしれません。

 コトリ副社長は突っ走られるとコソコソしたりしませんから、見せつけるというより、ありゃ開けっぴろげと言った方が良いのですが、見るからにお幸せそうです。かつて似たようなシチュエーションでデイオルタスとの熱狂的な逢瀬がありましたが、なにか違う感じがミサキにはします。シノブ専務にも相談したのですが、

「あの感じはデイオルタスの時とは違うわ」
「ミサキもそう感じます」
「あれは柴川君の時か山本先生の時に近い気がするけど・・・」
「近いけど違うと思いませんか」
「ミサキちゃん、あれはもっと深い気がする」

 コトリ副社長は色情狂のような情熱的な恋も、気が狂いそうなじれったい純愛も出来ますが、シノブ専務の言う通り、もっと違うタイプに見えます。なんていうか、見るからに深いって感じがしてならないのです。どう言えば良いのでしょうか、相手にすべてを捧げ尽くす愛であるのがビンビン伝わって来ます。ユッキー社長にも聞いてみたのですが、

「ああなったコトリを見るのは久しぶりよ」
「久しぶりって」
「前のは二千年ぐらい前だったわ」
「それってエレギオン王国時代」
「あの頃はわたしもコトリもあんな恋をしていたわ」

 これ以上は口出しできない世界なのだけはわかった気がしました。やがてコトリ副社長とアラのカップルは社内でも公認というか、いつゴール・インするんだろうに関心が向くようになっています。ミサキも式を挙げるなら微笑む天使、いやそのバージョンアップ版になるんじゃないかと思ってたぐらいです。そんな時にコトリ副社長から、

「悪いけど、ちょっと付き合ってくれる」

 連れて行かれたのは病院です。はて、誰か入院してたっけと思って病室まで行くと、

『フィリップ・スミス』

 ベッドにはやつれ果てたアラがいました。そう言えば、最近アラの顔を見ないと思っていたら入院してたようです。でもどうしてミサキも一緒なの、

「アラ、具合はどう。やはり死ぬの?」
「どうも私にはそんな能力は無いようだ。それ以前にある方が今でも驚異だ」
「アラさえ希望すれば移れるよ。ユッキーなら出来るし」
「コトリ、もうイイ気がする」

 アラは重症。いや死病とした方が良さそう。でも神にとって肉体の死は神の死を意味しませんが、お二人の会話の『死』は神の死を意味しているのは明瞭です。

「私は出来るだけの事をしたつもりだ。でも誰も理解してくれなかった。理解してくれたのはコトリや社長だけだった」
「長過ぎたのよ」
「その通りだ。意識分離技術の封殺にのみ全力を傾けるあまり、他の事はほとんど無視した」
「でも、アラがいなければ一万年前にエランは滅んでた」
「そうかもしれないが、だが生き延びさせただけだった」

 ベッドサイドのコトリ副社長は、

「無駄じゃなかったわ。一万年よ」
「一万年もあったのに修正できなかった。それだけが心残りだ」
「アラのせいじゃないわ」
「悔しいが力不足だった。流れを堰き止める事しかできなかった。流れを変えなければいけなかったのに」

 コトリ副社長は床頭台の傍に歩み寄り

「エランにも花は咲いてたのよね」
「ああ、綺麗だった」
「どうして恋をしなかったの」
「途中から誰も信じられなくなった」

 コトリ社長は花瓶の花を入れ替えながら、

「一人は辛かったんじゃない」
「コトリが羨ましい。でも、最後だけでも二人なのは嬉しい」

 コトリ社長はアラの方に向き直り、

「どうしても死ぬの?」
「ああ、もう十分すぎるほど生きた。やることも無くなった上に、守り続けていたものも水泡と来した。コトリはまだまだ生きるのか」
「自力で宿主を移れる能力を獲得した神は死ぬことも出来ないみたいなの。だからアラが死ぬのは悲しいけど、同時に羨ましいと思ってるわ。コトリも守るべきものがあったし、それも失っちゃった。でも生きつづけなければならないの」
「守るべきものとはエレギオンか」
「そうだった。アラの半分も守れなかった。あんなに小さいのにね」
「クレイエールはどうなんだ」
「わからない、まだ始めたばっかりだし。どうもエレギオンみたいに懸命になれないの」

 アラはなにか考えてるようだったけど、

「コトリはクレイエールを守るべきだと思う。短い間だったがクレイエールを見てそう感じてる。誰もがコトリを愛してる。誰も怖がったりしていない。誰もがコトリを慕い、コトリのために何かしたいと思ってる」
「言い過ぎよ、アラ」
「言い過ぎではない、私だって一万年も独裁者やってたんだ、それぐらいは見える」
「そうすれば良かったのに」
「出来なかったから私がここにいる」
「アラの遺言なら守るわ」

 アラはそこから苦しそうに咳込んだ後、

「最後の扉は無重力だ」
「放射能じゃないの?」
「それならエランに溢れてる」
「だから長距離宇宙旅行技術を封じたの」
「そうだ。誰にも等しくではないが、長ければ長いほど効果は高くなる」

 また激しく咳き込むアラの背中をコトリ副社長はさすりながら、

「アラはどうだったの」
「強くなったのは実感した。笑っても良い、本当の神になった気さえした」
「そんなにエランの神々は弱いの」
「そうだ、人としての能力の向上効果もコトリや社長を見ていたら笑うほどだ。ただ、覇権欲、猜疑心はおそらく同じぐらい強い」
「だから千年戦争」
「コトリがいたら一年もかからなかったかもしれない」

 アラの話を聞きながら、原初の神は五十年以上の宇宙旅行を続けた末に地球にたどり着いた話を思い出しました。

「アラ、やはり五十年は長い方?」
「桁外れに長い。せいぜい十年ぐらいが次の記録だ」
「アラもしたの」
「その時に神になった」

 やっとわかった気がします。アラは宇宙飛行士だったんだ。おそらく十年の宇宙飛行を行ったのはアラで、アラはその時にエラン最強の神になり、新たな強力な神の出現を防ぐために長距離宇宙技術を封じ込んでしまったんだ。

「次も来る?」
「おそらく。もう信じてくれるだろう、人類滅亡兵器もエランの荒廃も本当だ。あの星の寿命は尽きようとしている。テクノロジーの発達は兵器の破壊力のアップに等しいからだ。そのすべての封印は解き放たれてしまった」

 アラの呼吸はますます苦しそうに見えます。

「アラ、もうお話はこの辺にしましょ。少し休むべきだわ」
「ありがとうコトリ、でも自分の体の事はわかる。一万年もやってたからな。おそらく明日はない。勝機は持久戦だ」
「どういうこと」
「エランの武器は携帯兵器が中心になるだろうが強力だ。しかしエネルギーは無限ではない。使えなくなればタダの人だ」
「アラ、もうイイって」
「神もコトリが予想しているように一人で間違いない。武器さえ使えなければ、コトリの前では話にもならない」
「だから、アラ」
「最後だけでも幸せだった。ありがとう・・・コ、ト・・・」
「アラ、アラ・・・」

 アラの最後でした。バタバタと医師や看護師が駆けつけましたが、死亡確認だけのお儀式でした。コトリ副社長は毅然と、

「アラは女神の男に相応しかった」

 こう言った後に涙一つ流さずに、

「ミサキちゃん、総務部に連絡して後はお願い」
「かしこまりました」

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