流星セレナーデ(第12話)料亭密談
今日は例の料亭での密談です。彗星騒ぎのドサクサで手に入れた資産の活用方針が中心で、とくに今後の海外事業部のあり方について話合っていました。その辺が一段落したあたりでシノブ専務が、
「フィリップ・スミスとカバーキ村とは直接の関係はありません」
「そうなんだ」
「でも、彗星が落ちた頃にはカバーキ村にいたと見て良さそうです」
カバーキ村とは彗星から分離したカプセルが見つかりマスコミに報道されたところです。フィルの学生時代の友人がカバーキ村の出身で、彗星騒ぎの時に沿岸部の津波を避けるために、そこに招待されて身を寄せていたとなっています。
「成績は」
「明らかに良くなっています」
フィルが通っていたのが西オーストラリア大学。オーストラリアの名門大学で『グループ・オブ・エイト』に含まれています。シノブ専務はフィルの大学時代の成績の変動を調べ上げています。
「たしかに、明らかに成績は良くなってるわ。でも、ダントツってほどじゃないね。言葉や態度は?」
「とくに変化はないようです。これについては、香坂常務が詳しいと思います」
まさかフィルが、
「社長、見えるのですか?」
「そういうこと」
そうなると、
「フィルの神は母星の神なんですか」
「可能性があるから本社にいてもらってる」
「フィルの力は」
「見えている範囲ではミニチュア神に毛が生えた程度。もっとも、これは強大な神ならそうできるからね。でもね」
「でも、なんですか?」
「強大な神が力を隠す時は意識してやってるの。意識してやってるということは、神として目覚めてることになるから、地球の神なら必ず敵対行動を起こすのよ」
「ではまだ眠ってるとか」
「眠っていても力の大きさは見えるのよ。むしろ眠っている時の方がわかりやすいぐらい」
なんか微妙な言い回しだなぁ、
「わかんないところが多すぎるのだけど、地球の神で記憶を継承できる能力を持つ神は少ないの」
それ以前に神自体がほとんどいませんが、
「これはあまり聞いて欲しくない話だけど、記憶を継承できる神は基本的に相手の人格を乗っ取るの」
「でも、ミサキやシノブ専務は」
「あなたたちは特別設計なの。宿主の人格に融合しながら、やがて神の人格に変わって行くの。途中から宿主にされた人間は自分でも気づかないけど、今のミサキちゃんも、シノブちゃんも間違いなく三座・四座の女神そのものなのよ」
ミサキはそうなってたんだ。自分は変わっていないって思ってるけど、やはり女神が宿ってから変わってしまってるんだ。でも、それほど悪い気はしないわ。記憶の中ではちゃんと一人のミサキだもの。
「ではフィルは記憶を継承しない神とか」
「ミサキちゃん、こんな芸当がユッキーの他に出来る神がいるかどうかが疑問やけど、棲んでるだけって可能性もあるんや」
そんな芸当をユッキー社長が出来るのは知ってる。山本先生に棲んでる時も、相本准教授に棲んでる時もそうしてた。
「フィルの神は棲んでるだけとか」
「まずね、フィルには神がいるのは間違いない。これはわたしもコトリも確認した。でも、フィルの人格に変化が見られないのはミサキちゃんもわかるよね」
「はい」
「単に棲んでるだけで地球の言葉や習慣とかをフィルを通して学習中の可能性がある」
「それじゃ、学習が終わったら」
「フィルを乗っ取る可能性がある。棲んでるだけの傍証として、フィルの学生時代の成績、クレイエールに来てからの成績もそれなりに優秀だが、神としての優秀さには程遠いよ。融合中ならもっと良くなる」
融合例としてシノブ専務がいます。シノブ専務はユッキー社長から四座の女神を移されてからクレイエール流に言えば天使となり、たった三ヶ月でヒラ社員から部長まで駆け上がっています。ミサキも実感はないですが、イタリアで目覚めてから対魔王戦でコトリ副社長と『鉄人コンビ』を組めるほどになっています。フィルはどうかなんですが、本社ジュエリー事業部に勤務してから優秀ではありますが、格段に優秀って訳じゃありません。ん、ん、ん、ちょっと待った。
「ミサキがフィルの担当なのは、フィルが攻撃するかしないかのテストだったとか」
「そうよ。それと見えてるかどうかもテストしてたの」
「それって」
「フィルが地球型の神で見えていたら必ずミサキちゃんを襲うわ。襲わなかったから、見えてないか、見えてても襲わなかったのどちらかが考えられる」
「ちょっと待ってくださいよ。もし襲われてたら」
「ミサキちゃんに攻撃する力はないけど、フィル程度の力ならなんとかなるわ。シノブちゃんにやらせると一撃で本社ビル壊しかねないから」
ミサキはぷんぷん怒ったのですが、適当に宥められてしまいました。
「どうするのですか」
「これから決める」
そこに料亭の女将の声で、
「お連れ様をご案内しました」
見るとフィルが来ています。フィルもさすがに社長や副社長、さらには専務のことを知ってますから丁重に挨拶をし、席を勧められて座ります。そうそう、今日は佐竹本部長が欠席です。理由は出張中ですが、おそらく神の戦いに巻き込まれるのを避けたためだと見て良さそうです。
「フィル、お久しぶりね。わたしとコトリのどっちを選ぶか決めた?」
「えっ、なんのお話でしょうか」
「誤魔化してもダメよ、ミサキちゃんから聞いてるんだから」
フィルの顔が見る見る真っ赤になります。こういう所は学生の時から同じですから、ミサキの隣に座ってるフィルは人の人格と見て良い気がします。でも、これからどうやってフィルの中の神と話をする気だろうです。かつて山本先生のところにユッキー社長が宿られていた時に、これを呼び出すのにさんざん苦労させられたことが思い出されます。
「フィル、日本語もだいぶ上手になったけど、やはり英語の方が話しやすいかしら」
「まあ、どうしても」
「じゃあ、こっちならどうかしら」
この言葉って、えっ、フィルの様子が明らかに変わっています。
「やはり英語にしましょう」
「そっちも勉強中じゃないの」
「その言葉も古すぎて、今ではだいぶ変わってるもんでね」
これはフィルの話し方じゃない。別人だ。
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