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ミサトの不思議な冒険(第1話)ミサト

 みんな覚えてる? ミサトだよ、尾崎美里。二年前の写真甲子園の優勝メンバーのミサト。翌年はミサトが部長になって頑張ったけど、残念ながらブロック予選で敗退。あれは悔しかった。
 
「ミサト、おかえり」
「今度はなに」
「シルビアのS13だ」
 
 ミサトの家は尾崎自動車なんだけど、クルマの販売やっている訳じゃなくレストアやってる変わり種。爺さんの時は普通に販売・整備・修理やってたらしいけど、親父が手がけたクラシック・カーのレストアが評判を呼んで、今やそれ専門。

 クラシック・カーのレストアはとにかく手間とヒマがかかるんだよね。パーツだって、とっくの昔に売られていないものだから、八方手を尽くして探さないといけないし。それでも手に入らなければ自作までやらなきゃならないみたい。

 傷んでるというか、下手すりゃ鉄くずみたいな状態だってよくあるから、なんかクルマを作っているように見える時さえあるもの。
 
「状態は良さそうじゃない」
「イイや、錆はかなりだ」
 
 そんな状態でもレストアしてしまうのが親父の腕だし、それを見込まれての依頼も多いけど、こなせる仕事の量が限られてるから経営はラクじゃなさそう。
 
「ミサト、おやつは置いてあるからね」
「は~い」
 
 お母ちゃんは事務・会計担当。親父のレストアの腕は確かなものだけど、さすがに一人じゃすべて出来ないんだよね。だから従業員を何人か雇ってるけど、こういう商売だから誰もが専門の職人さん。

 はっきり言わなくても気難しいところがあるみたいだけど、それをまとめているのがお母ちゃん。お母ちゃんも変わっているところがあって、ガチガチのクルマ好きで、親父が手がけたレストア車に感動して結婚したって聞いたことがある。

 だからかもしれないけど、経営がラクじゃないのも苦にしないぐらいかな。レストアが終了するたびに飛びあがって喜んでるぐらいだもの。娘から見ると、うちの商売は完全に道楽で、道楽だからこそあれだけ熱中してるように見えちゃうのよね。そのせいかもしれないけど、ミサトについては基本的には放任教育。口癖のように、
 
「ミサトは好きなこと、やりたいことをやればイイ」
「ただしカネはない」
 
 だからミサトがカメラに熱中しても文句ひとつ言ったことが無い。摩耶学園への進学はさすがに言いだしにくかったけど、
 
「心配するな。ミサトが行きたいのなら、それぐらいはなんとかする」
 
 ちょっと不安だったけど、親父も母ちゃんもレストアしやすい依頼に切り替えてた。そうすると収入は良くなるのだけど、さすがにミサトの心が痛んだよ。親父もお母ちゃんも好きなのは、とにかく手強いクルマ。この尾崎自動車でしか出来ないレストアが趣味みたいなものだったから。
 
「お父ちゃんも、お母ちゃんもレストアが好きで、これさえやってれば文句はないけど、ミサトには迷惑かけてると思ってる。そやから、ミサトが大学出るまでは商売でやる。これでも親やからな」
 
 そうそうミサトは一人娘。エミ先輩のところとちょっと似てるけど、お母ちゃんはミサトを産んだ後に子宮頚癌になっちゃって、子宮を取らざるを得なくなっちゃったんだ。
 
「死なずに良かったわ」
 
 お母ちゃんは笑い飛ばしてるけど、その頃は大変だったって親父に聞いたことはある。
 
「兄弟姉妹がいないのは寂しいと思うが、母無し子にならなかったから良かったとしといて」
 
 ミサトも進学を考えているけど、志望は西宮学院。内部進学で摩耶学園大もありだけど、中学から摩耶学園だから他の世界も見てみたいぐらいかな。ただ内部進学をやらないとなると、受験勉強が必要になるのだよね。

 エミ先輩は港都大を目指していて、家庭教師まで付いてたのよね。そのせいか学年でもトップ・クラスの成績になってるのよ。どんな先生か聞いて見たら、
 
「うちのお客さん。お願いしたらボランティアでやってくれたの」
 
 ミサトも紹介してもらって頼んだら、
 
「ついでだから、やってあげる」
 
 ユッキーさんって言うのだけど、歳の頃なら二十歳過ぎで大学生かと思ったら社会人。それも会社員ではなくて、学生の頃からベンチャーやってて社長さんって聞いてビックリした。

 このユッキーさんの家庭教師だけど、親切で優しいのだけど、そりゃ、もう厳しいのよね。やり方はシンプルで、ミサトの学力に合せた宿題をさせていくのが基本だけど、少しでも手を抜くと全部見抜かれちゃうの。
 
「ミサトさん、手抜きをすると辛くなるのはあなたよ」
 
 その代わり、真面目にやれば見る見る学力が付いてくるのはヒシヒシと実感するぐらい。家庭教師をやってもらっていたのは、エミ先輩の北六甲乗馬クラブだったけど、親父も気を使って、
 
「ボランティアではいくらなんでも」
「これぐらいはお代のいるような仕事ではありませんから」
 
 このユッキーさんの家庭教師だけど、高一の二学期の終りから始まったのだけど時々、
 
「悪いけど、次は仕事があって無理だから・・・」
 
 ボランティアだし本業は社長だからしかたがないと思ってた。もちろん休んだ分の埋め合わせもしてもらってた。これはエミ先輩が卒業して港都大に進学してからも続き、その頃にはミサトの家に変わってたけど、親父とお母ちゃんの会話が耳に入ったんだよ。
 
「どうも似てる気がする」
「他人の空似じゃない。それにあんなに若いし」
「でも、若く見えるって言うし」
「いくらなんでも若過ぎでしょう」
 
 ユッキーさんが誰に似てるって言うのだろう。そりゃ、ユッキーさんはびっくりするほど綺麗な人だけど、芸能人に似てるのはいたっけと思ったぐらいだった、

 
 さてだけどミサトが高二の正月頃から世情は騒然とし始めてた。高二になった頃から興味本位で騒がれていたメキシコの怪鳥の実在が確認されたからなのよ。この怪鳥だけど化物のように巨大化して、今や怪鳥と言うより怪獣みたいなもの。

 別に火を噴いたり、怪光線を発射したり、無暗に街を破壊したりしないけど、とにかく猛烈に食べるし、そのうえ頭が良いらしい。それと人間の食糧ばかり食べ漁るのよね。そうなると退治しようになるけど、これがムチャクチャ強い。メキシコ軍も大損害を受けたし、アメリカもNORADが襲われたりしてた。

 メキシコを食い尽くした怪鳥は南米に移動したけど、そこでも食べる。食べる。ブラジル軍も、アルゼンチン軍も頑張ったけどまったく歯が立たず、このままでは世界の食糧危機が来るのは確実って感じになってた。

 アメリカも南米から北上されたら大変な目に遭うから、核を使ってでも退治しようと東太平洋に艦隊を展開させてたけど、これも怪鳥に襲われて大損害を喫したらいしいって。世界は怪鳥が南米からどこに動くか注目してたけど、これが西に動いたのよね。

 ニュージーランドもオーストラリアもひどい目にあったんだけど、次に怪鳥がどこに動くかで世界はパニック状態になったとしてもイイと思う。タイの米を狙うって説も出てたし、インドのカレーも有力だったし、中国で中華料理を楽しむはずの説もあった。

 というか、あの勢いで食べられたら、いずれは自分の国に飛んできて、食糧を食い尽くされて飢えるのは間違いないもの。日本の順番は遅いのじゃないかと期待する声もあったけど、日本も食糧輸入国だから、この調子だったら日本に怪鳥が来る前に飢え死にしちゃうものね。

 世界中がパニック状態になってたのだけど、怪鳥はオーストラリアでついに倒されたのよ。アメリカは怪鳥退治のためにオーストラリアに大軍を派遣し仕留めちゃったの。この怪鳥派遣軍を率いたのがロジャー・リー将軍。

 リー将軍は世界を救った英雄として称えられた。ニューヨークの凱旋風景は世界中に中継されて、英雄リー将軍を一目見ようとミサトもテレビにかじりついてた。格好良かったし、しびれたよ。これで世界に平和が戻ったはずだったんだけど。

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