目指せ! 写真甲子園(第14話)応募要領
今年の写真甲子園の応募要領を読んでるんだけど、初戦審査会は三月二日から応募作品の受付が始まり、締切が五月十五日必着になってるのだけど、
「応募期間が長いんだね。それと応募は三月からだね」
「エントリー開始日は曜日の関係があるからね。期間については・・・」
注意として、
『応募時点で学校に所属する学生本人が学校入学後に撮影した作品』
これであれば出場取り消しって書いてある。これって、どういう意味? だって、このままじゃ、応募できないじゃない。
「解釈として、過去作品は応募に使えないで良いと思うよ」
「三月二日から約二ヶ月半の間に撮った作品で応募しろってことだね」
だから応募期間がこれだけ長いんだろうって。応募作品の条件も書いてあるのだけど、
『加工【写真の合成、写真に写っているものを消去する】がされていない作品』
ここも以前はレンズのホコリや小さなゴミを消すぐらいはOKだったみたいだけど、これすら不可となってるみたい。多少のトリミングはOKとなってるけど、
「多少と言っても写真の総面積の5%未満に限るとなってるから、ほとんど使えないと思った方が良い」
明暗や、彩度、コントラストの調節も不可なのよね。
「昔は明暗や、彩度、コントラストはOKだったらしいけど、今では厳しくなって、それもダメってなってるよ」
「RAW画像時点で完成してる必要があるってことでイイのかな」
「作戦としては、同じシーンで条件を変えて撮っておくのが良いぐらいだろう」
野川君が言うには、写真でもカメラ重視になってるんじゃないかって。応募の時には八枚の写真をプリントして送るのと同時に、RAW画像もDVDに同封するとなってるんだけど、
「ここも昔はJPEGで良かったみたいだけど、今はRAWで写真をチェックするらしい」
写真部でもそうだけど、撮影後の加工はセットというか必須みたいになってる。プロだってそう。でも写真甲子園はあくまでもシャッターを切った瞬間が勝負みたいなスタイルで良さそう。ちょっと古臭い感じもしたけど麻吹先生も、
『レタッチは否定しないが、いくらレタッチしても元のRAWの質が悪ければ話にならない。カメラを上達したいのなら、安易にレタッチに走らず、RAWを高めるのが本道だ。レタッチ技術に早くから走り過ぎると小手先の写真にしかならない』
麻吹先生の場合は連写すらお好きでないようで、
『写真は一撃で射抜くのが基本』
尾崎さんはレタッチ大好きだったから、新田先生にかなり搾り上げられてたものね。
「ボクもかなりやられたよ。だって連写を使っただけで麻吹先生の顔色が明らかに変わるんだもの。写真は機関銃を乱射して、タマタマの当りを狙うものじゃないって」
それでも彩度、明暗、コントラストも調節できないのなら、そういう意味での連写は必要かもしれないって野川君は考えてた。麻吹先生に相談するのは怖そうだったけど、
『それは必要だろう。組み写真はベストの写真の集合体では必ずしもないからだ。場合によってはあえてベターを選ぶことによって全体の効果を狙うケースも出て来ないとは限らない』
麻吹先生は連写の条件を考えて下さり。
『これがスムーズに撮れるように練習。条件にもよるが可能な限り同じに撮れないと意味がないぞ』
問題は何を撮るか。
「テーマの設定は自由なのよね」
「地域による有利不利を少なくするためだと思うけど」
応募のための撮影が始まるのは三月だけど、神戸だって寒いけど北の方になると雪。屋外の撮影に制限がどうしてもかかっちゃうものね。だからテーマによっては不利になり過ぎる事もあるだろうって。だからと言ってどこでもOKの、
『情熱』
こんな漠然としすぎたものなら、テーマを設定する意味がなくなっちゃうぐらいかな。自分の学校、自分の住んでいる地域に一番マッチしたテーマのベストの写真を出せぐらいだと思うけど。
「なんにしよう」
ここは尾崎さんだけじゃなくて、藤堂君や、南さんも加わって相談したんだけど、
「神戸らしさだったら、港とか、異人館だけど」
「でもあれは同じ神戸でも表六甲じゃない」
「だからと言って有馬温泉じゃあ」
せっかく自由に選べるのだから、少しでも有利なものにしたいからみんな知恵を絞るけど議論は堂々巡り。やがて野川君が、
「まずテーマだけど、書かれていないけど決まっている部分はあると思うんだ」
「なに?」
「それは青春だ。これを欠かしたら評価が下がる気がする」
なるほど高校生の大会だものね。なんだかんだと言っても『高校生らしい』はポイントを取れる気がする。
「だからタダの名所案内じゃ意味がない。もっと日常的なものに焦点を絞るべきだと思う」
「日常的って、学校生活とか」
「相当使い古されてるけど王道だろう。でも狭く考えてはいけない」
これまでにやってたところも多いだろうし、今年だって、それこそモロ『青春』のテーマで出して来るところは多そうな気がする。
「初戦審査は非公開だけど、審査員の目を引く工夫は必要だと考えてる。審査員も数を見るから、最初に『おっ』と思わせる作戦は必要だろう」
なるほど、応募は組み写真をプリントしてナンバーつけて送るのだけど、当たり前だけど一枚目から見て行くわけよね。その時の第一印象、関西人ならわかるけどツカミが必要ってところね。
これも今までは広い会場に机を並べて、応募作品をすべて並べてたらしいけど、これだけ参加校が増えると無理になるだろうって。どれだけ参加校があるっていうのよ。
「一校当たりの審査時間がそれほど長いとは思えないから、一枚目の第一印象は全体の印象をかなり左右すると思うんだ。ここにサプライズが欲しい」
「野川、言いたい事はわかるけど、なんかプランがあるんか」
「被写体自体にインパクトを持たせたい」
「部長、それもわかりますけど、そこら辺に転がってないですよ」
たしかに。野川君は名所案内的なものを否定して、日常に密着したものを撮るべきだとしたじゃない。そうなると校内風景とか、近所の風景とかになるけど、そんな隠し玉みたいなスポットがあるとは思えないけど。
「日常ではあるけど、非日常的なものがイイと思うんだ」
「だから野川、そんなもんがあるんか」
「ある」
なんだろ?
「一枚目はモデルを使いたい。それも飛び切りのモデルだ」
「誰なの」
「摩耶学園のシンデレラだ」
えっ、エミ! ちょっと待ってよ。エミも選手であって、撮る方なのよ。
「別に選手がモデルになって問題はない。これもチーム制として認められている。写真部の最大の秘密兵器は小林君だ。ここで使わずにどこで使う」
「なるほど、小林君を使えばインパクトは申し分なしやな」
「私もそう思う」
「それ絶対にイイと思う」
ちょっと待って、ちょっと待ってよ。
「小林君をモデルに使ったうえで、さらなるインパクトを加えたい」
「さらなるって、水着とか言い出すんじゃないでしょうね」
「それは邪道だ。でも小林君しか出来ないものだ。馬を使いたい」
馬って、
「馬に乗る小林君を一枚目に持ってきたい」
そりゃ、家業だから乗れるけど。
「テーマもストーリーも、馬に乗る小林君から紡いで行くのはどうだろう」
「さすが野川は部長や。オレは賛成」
「わたしも。なんとなくストーリーが広がりそうな気がする」
「あれですね、テーマに合わせてストーリーを作るのじゃなくて、ストーリーに合わせてテーマを付けるですよね」
こらぁ、勝手に決めるな。
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