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浦島夜想曲(第16話)エランの浦島

 アラとはアラルガルとも呼ばれるエラン人。そうあの宇宙船団が来た惑星の人。コトリちゃんたちを信じるしかないのだけど。アラは一万年前にエラン統一政府の政権を握り、現代まで一万年にも渡り長期独裁政府を維持していたとなってる。

 これも教えてもらってビックリしたのだけど、コトリちゃんとアラは付き合ってた時期もあったのよ。コトリちゃん曰く、
 
「アラは男の中の漢よ。女神の男として相応しかった」
 
 アラは十一年前に亡くなってるんだけど、そんなアラから聞いた話で良いみたい。エランは一万五千年前に時空トンネルを利用して地球に植民団を送るぐらい発達していたのだけど、一万二千~三千年前に時空トンネルの位置が、エランから地球まで二年が五十年に伸びて交通が途切れたのはもう聞いてる。
 
「あの時空トンネルやねんけど、今はまた二年ぐらいやけど、これがいつから二年になったのか聞いてんよ」
 
 そしたら香坂さんが、
 
「例の手で聞きだしたのですか?」
「せんでも話してくれた」
 
 例の手ってなんだろ? 聞かない方が良さそうな雰囲気。それはともかく、エラン史なんだけど、一万年前に千年戦争と呼ばれる長期の内乱があり、これをアラが勝ち抜いて独裁者になったで良さそう。

 エランの宇宙開発は地球に植民団を送り込んでいた頃がピークで、他に植民できる惑星が見つからなかったこと、さらに高度の文明を維持するための資源不足問題があり、地球との連絡路が遠くなった時点で醒めて行ったぐらいの理解で良さそう。千年戦争後はとくにそうなっていたみたいだけど、
 
「二千年前ぐらいに再調査したら、地球への時空トンネルがまた近くなってるのがわかったそうや」
 
 その頃のエランは長すぎるアラの強権独裁政治は飽きられ、またアラも長期政治に倦み疲れ享楽に走っていたらしい。ブルボン王朝末期みたいにも感じるけど、とにかく八千年は長いものね。そこでアラは民衆の不満を逸らすために宇宙開発の再開を命じたみたいなの。
 
「そういう時は戦争を使うのが常套手段やけど、なにせ統一政府やったからな」
 
 この宇宙開発は期待以上に民衆の関心を引き、またアラも享楽欲をかなり自制して政権は延命したんだけど、
 
「来たみたいやねん」
「地球に?」
「そうや」
 
 エラン人にとっても地球は植民団を送るぐらいだから、政治的アピールとして選ばれたで良さそう。子孫が残ってるかももあったんだろうな。
 
「それでな、サンプル持って帰ったって」
「サンプルって」
「動物や植物持って帰って動植物園みたいなものも作ったみたいで、大人気やったらしいで」
 
 これはわかる。逆だったら地球でどれだけ人気を呼ぶかわからないもの。
 
「ジュラシック・パークみたいな感じ」
「たぶんそうやないかな。エランは動物自体がかなり減ってたみたいやから、なおさらやったみたい」
「もしかしてサンプルは人も対象だったとか」
「やっぱり一番興味深いんやろ」
 
 さすがに人は見世物にされなかったそうですが、それなりの人数が捕獲されたで良さそうです。
 
「もしかして浦島伝説につながるとか」
「コトリもアラから話を聞いた時にはなんも思わんかってんけど、調べるとね」
 
 アラの話を信じるしかないのですが、サンプルにされた人はかなり鄭重に扱われたみたい。
 
「種として近いと言うより、ほぼ同じなのは一万五千年前にわかってたんやけど、実際にやってみたのがこの時みたいや」
「実際って?」
「エラン人も変わってるって思たわ」
 
 なんと実際に生殖活動が行われたんだって。それも志望者多数で大変な騒ぎになったみたい。やれば子どもも出来る訳だけど、このハーフも大人気だったみたい。
 
「やり方は?」
「コトリも知ってるけど一緒やった」
 
 ここで宇宙船団の派遣ですが当時のエランでもかなり重い負担だったみたいで、結局のところ二回程度で終わったみたいだけど、
 
「思わぬ世論が巻き起こったそうやねん」
「どんな」
「地球人愛護運動みたいな感じ」
 
 地球人も寿命が来れば死ぬけど、これを死なないようにする特別の処置を望むみたいな大運動だったみたい。でも死なないっていっても、
 
「アラも悩んだらしいけど、世論に押されて意識分離と他人への意識移動を地球人に認めざるを得なくなったで良さそうや。十人ぐらいやったから許可したそうや」
「なんか話がつながってきた」
「そやろ」
「次に一度は地球に帰りたい望郷の念が起った」
「そうなったってこと」
 
 地球への帰還運動も世論的に大きくなってしまい、アラももう一度宇宙船の派遣をせざるを得なくなったみたい。でもそれは実に二百年後の話になったとなれば、
 
「浦島伝説にほぼピッタリだけど、浦島は三百年だったけど」
「三百年は無理あるねん。馬養の原作を一番忠実に引用してるんは日本書紀でエエと思うけど、浦島が失踪したのは雄略天皇二十二年七月としてる。百済の武寧王墓誌を基準に取ると四七九年になるんや。そこから三百年後は七七九年になってまうから馬養はもう死んでるんよ」
 
 そうだ、そうだ、馬養は帰ってきた浦島の伝承をまとめてるんだ。
 
「えっ、ちょっと待ってよ。アラの話の通りに二百年後だったら、六八〇年頃になるから、馬養は浦島に直接会った可能性もあるじゃない」
「会ったと考えてる。おそらく雄略天皇の頃に失踪した人が突然帰ってきたで話題沸騰やったんちゃうかな。それに興味を持った国宰の馬養が引見したぐらいや。ここも想像を広げると、都でも評判になっていた浦島の話を聞くために、馬養が国宰として派遣された可能性さえあると考えてる」
 
 こんなに馬養と浦島伝説の時代が近いなんて、
 
「じゃあ、玉手箱は」
「意識移動装置を持たせていた可能性がある。浦島太郎は一瞬に老人になったとなってるけど、あれは宿主を移動したと見れば説明可能や」
 
 これが本当かどうかは検証不能だけど、エランの話と合わせると不思議に辻褄が合うのも確か。ここで疑問が、
 
「コトリちゃん、たしかエラン人は装置を使わないと意識移動出来なかったよね」
「そうやアラさえ出来へんかった」
「エランから帰ってきた浦島は最初は装置で移動したとしても、千三百年以上経ってるじゃない。その装置とやらが今でも動いてるとは思えないよ」
「そうやねん。アラもせいぜい動いて百年ぐらいとしてた。だから浦島が生きている可能性はないはずやねんけど」
 
 コトリちゃんはぐっとビールを飲み干し、
 
「地球の神は自力での意識移動が可能になったから生き残ってるのは事実や。でもなぜ出来るようになったかは不明やねん。これは神の能力の強弱とも関係あらへんねん。ミニチュア神でも可能やからな」
 
 ミニチュア神ってなんだろう? 力の弱い神って意味みたいだけど、
 
「まさか浦島は装置が動かなくなっても自力で移動して今も生き残ってるとか」
「その、まさかを調べとる最中やねん」
 
 浦島太郎が千三百年の時を越えて現代に生きているのはロマンだけど、これと加納賞が関係するのかな。
 
「なにかわかったの?」
「そんな簡単にいくかいな」
 
 そりゃそうだ。わたしもビールをお代わりしたんだけどユッキーが、
 
「今日は泊って行って」
「イイの」
「シオリも独身に戻ってるようなものだから、気にするものないでしょ」
「未亡人の隠居だし」
「そうよね、御老公様だもんね」
「それはやめてよ」
 
 そしたら二人で、
 
『♪人生、楽ありゃ苦もあるさ
涙の後には虹も出る』
 
 おまえら助さん、格さんか。それはともかく話はひたすら長くなりそう。この調子じゃ徹夜かな。

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