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不思議の国のマドカ(第2話)ウェディング

 へぇ、ここが聖ルチア教会か。立派なもんだな。
 
「アカネ、二人の基本的な立ち位置だけど・・・」
「わかりました、サキ先輩。それじゃあ・・・」
 
 今日のアカネはカメラ係。ちなみに動画担当はサキ先輩。祭壇の前にはサトル先生と牧師さん、そこに参列者が入って来た。参列者が着席したら、教会の扉が開いてツバサ先生が入って来た。

 えっ、えっ、一人じゃない。ツバサ先生は両親が小さい時に離婚してるし、お父さんも高校の時に亡くなってるけど、こういう場合は誰か代理が立つと思ってたのに。

 でもバージン・ロードを歩かれるツバサ先生は綺麗だ。まさしく美の化身、美の女神そのもの。サトル先生のとこまで歩まれて、賛美歌が流れて牧師さんがなにやらお説教。そいでもって、
 
「汝サトルはこの女つばさを妻とし、健やかなる時も、病める時も、常にこの者を愛し、慈しみ、守り、助け、この世より召されるまで固く節操を保つ事を誓いますか」
「はい」
「汝つばさはこの男サトルを夫とし、健やかなる時も、病める時も、常にこの者に従い、共に歩み、助け、固く節操を保つ事を誓いますか」
「はい」
 
 指輪の交換が行われて、ツバサ先生のベールがあげられた。ここから誓いのキス。あれって正真正銘のツバサ先生のファースト・キスかも。う~ん、感動だ。結婚誓約書にサインしてから牧師さんが、
 
「今、この両名は天の父なる神の前に夫婦たる誓いをせり。神の定め給いし者、何人もこれを引き離す事あたわず」
 
 これで二人は夫婦なんだ。教会の前でライスシャワーとブーケ・トス。披露宴はホテルに移動して行われたけど、これも盛大。いわゆる各界の有名人がズラリってやつ。サトル先生も格好良く決めてるけど、悪いけどツバサ先生しか誰も見てない感じ。まあ結婚式は花嫁が主役だから、それでイイか。

 
 翌日は神戸空港までお見送り、ここから成田に飛んで十日間のハネ・ムーンにご出発。ツバサ先生の顔の幸せそうなこと。そういえば昨夜は初夜、それもツバサ先生の本物の初夜。どんだけ燃えたんだろ。
 
「アカネ、留守は任せたよ」
 
 颯爽と行っちゃいました。サキ先輩と、
 
「お二人はお似合いですよね」
「そうね、サトル先生ぐらいじゃないとツバサ先生のお相手なんて無理だものね」
 
 そう見るか。でも、そうかもしれない。
 
「あ~、でも昨日の披露宴の食事、美味しそうでしたね」
「アカネは時々つまんでたみたいだけど、サキなんてカメラ回しっ放しだったから、なんにも食べられなかったよ」
 
 ドライというか、なんと言うかだけど式の前にツバサ先生に呼ばれて、
 
「アカネ、カメラ係頼むぞ」
「任せといてください」
「ついてだが、メシはない」
「えっ」
「二次会もない」
「そ、そんな」
「その代り、お祝儀も、二次会代もいらないから。サンドイッチは用意させとく」
 
 そりゃ、カメラ係やればそうなるけど、ファインダー越しの御馳走が恨めしかった。ツバサ夫妻を見送った後にサキ先輩とランチ。
 
「ねえ、あんたアカネだよね」
「イヤですよサキ先輩、忘れちゃったのですか」
「こうやって話をしてたらアカネってわかるけど・・・」
 
 まあね、ツバサ先生ばりのポヨヨヨ~んに変身させられたものね。
 
「成長期ですよ、成長期」
「遅すぎるだろ。もっとも、以前のアカネは成長期前そのものだったし」
 
 ウルサイわいと言いたいけど、あの頃は骨格標本でペッタンコだったし。
 
「なに食ったら、そこまで急に成長するかねぇ」
 
 そりゃ、犬にさせられそうな試練を耐え抜いたんだ。一歩間違えばマルチーズだったんだぞ。
 
「これだったら男も寄って来るだろうな」
 
 そうなった。グラビアの写真の仕事だったんだけど休憩時間中に、
 
『どう今夜空いてる。メシでも食いに行こうよ』
 
 これがアカネのナンパ初体験。誘ったのは爽やか系がウリのバリバリのイケメン・アイドル。羨ましいだろ、羨ましいだろ。でも断った。だってさ、撮影中は傲慢にふんぞり返る嫌な奴。大事な一発目を食い散らされてたまるかってところかな。

 そうそう、アカネも給料増えたから引っ越したんだ。居ても良かったんだけど、最近引っ越してきたお隣さんが燃えまくるんだよ。安いのが取り柄みたいなところだもんで、壁はペラペラ筒抜け状態。生々しいったらありゃしない。

 頭から布団かぶって頑張ってたんだけど、反対側のお隣さんも彼女が出来たみたいで頑張りだしたんだよね。おかげで左右どちらかが必ずになり、しばしばステレオ状態。そりゃ、愛し合う男女が頑張るのを止める気はないけど、聞かされる方はたまったもんじゃない。

 少しは気遣えよと思ったけど、これじゃ寝不足になるから引っ越した。そのために電車通勤になったんだけど、ここでも初体験。この世に女性専用車両がどうして必要かよくわかった。
 
「ところでアカネのカメラ、ちょっと見せてもらってイイ」
 
 あれこれ触って、
 
「なるほど、これが例のルシエンね。前にツバサ先生のロッコール・ワン・プロを触らせてもらったことあるけど、近い感じがするわ」
「アカネにはもったいないカメラです」
 
 そしたらサキ先輩は朗らかに笑って、
 
「なに言ってるのよ、渋茶のアカネと言えば、押しも押されぬオフィス加納の金看板じゃない」
 
 渋茶は余計だ。でも金看板かどうかはわかんないけど、仕事が忙しいのはたしか。来る仕事、来る仕事、ダボハゼのように請けまくってたんだけど、途中でツバサ先生から、
 
『アカネ、仕事熱心なのは褒めてあげるけど、少しは仕事を選べ。そうしないとスタッフがもたない』
 
 仕事が多いから早く回さないといけないじゃない。だから撮影ペースがどんどん上がってた。五日かかるものを四日、四日のものを三日、三日のものを二日、二日のものを一日・・・そしたらヘルプに来てくれてたカツオ先輩が、
 
『アカネ先生、もう少しだけ御慈悲を・・・」
 
 そう言って泡吹いて倒れた。またアカネを担ごうとしてると思ったんだけど、よく見ると他のスタッフの顔も真っ青で死にそうな顔。
 
『アカネ、セーブするのも覚えろ』
 
 なるほど、ツバサ先生があのペース以上にあえて上げないのがやっとわかった。人を使うって難しい。
 
「アカネ、イイ後輩を持てて嬉しいよ。ほんじゃ、ごちそうさま」
 
 そっか、こういうシチュエーションならアカネが払うものだよな。これも一つ勉強になった。

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