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流星セレナーデ(第27話)第二回会談

 なんだかんだで二週間ぐらいかかりましたが、第二回会談が空港ビルで行われました。どんなことが話合われるのか興味津々でしたが、ユッキー社長がいきなり冒頭に持ちだしたのが、

『宇宙船の移動』

 宇宙船のサイズは長さが千五百メートル、幅が二百メートルぐらいある巨大なもので、とくに幅なんて滑走路からエプロンまで塞いでいます。当然ですがこんな巨大なものが鎮座していると空港の利用なんて不可能です。ユッキー社長は空港再開のために、空港北側の空地への移動を要請したのです。

「飛べるか」
「可能だがなんのためだ」
「邪魔だからだ。ここは宇宙空港ではない」

 たしかに航空会社が悲鳴あげてたものね。

「わたしも忙しい」

 こんなことをいう全権代表なんかいないと思うのですが、

「だから話はシンプルにしよう」
「賛成だ」
「何が欲しい」

 ここはちょっと話が長くなるのですが、やはり対アラルガル戦の後遺症は深刻なようです。とくに末期にアラが使った大量破壊兵器の影響は大きいようです。

「我々もアラルガルが保持している可能性を懸念していたが、まさか使うとは予想外だった。もう十発もあればエランごと滅亡していたかもしれない」
「残留放射能か」
「それもあるが、他にもある。いずれも技術的には除去は可能だが」
「だから十隻か」
「そうだ」

 この除去装置を作る原料がエランでは決定的に不足しているようです。エランが資源不足に苦しんでいるのはアラの情報通りで、テクノロジーでカバーしてるといっても、やはり限界があるようです。アラの使った大量破壊兵器の後遺症は深刻だそうですが、

「ちなみに放射能以外の影響とはなんだ」
「人類滅亡兵器だ」
「なんだそれは」
「ある種のガスというか・・・」

 ここは解釈するのが大変だったのですが、毒ガスというより化学兵器の一種ぐらいが近そうな印象です。ものものしい名前ですが、一瞬にして滅亡する訳ではなく、短期的には使われた事さえ気づかないようです。しかし、長期では女性人口が減り、さらに不妊率が上がって行くぐらいの効果でしょうか。

「これが使用されたことを知って、我々は驚いた。遥か昔に廃棄され、技術も滅び去っていたと思っていたからだ」
「それほど脅威か」
「この兵器は相手に感知されずに攻撃することを目的として作られた。ただ影響が深刻過ぎてエランごと破滅しかねないと厳重に廃棄されていたはずだった」
「もう影響は出ているのか」
「まだ目に見えてはない。この兵器の影響は世代を経るごとに深刻となり、気づいた時には手の施しようがなくなるというものだ」

 ん、ん、ん。そっか、アラの作り話はこの兵器の影響が広がっている世界の描写だったんだ。

「具体的には何が必要か」
「地球の言葉で言うシリコンだ。エランと地球は良く似た惑星だが、エランにはシリコンが少ない。それも殆ど使い尽くしている。これが地球では豊富にあるとの古記録を見つけ、我々は派遣された」
「だからあれだけ執拗に調査してたのだな」
「そうだ、地球には途轍もない量のシリコンがあることは確認出来た」
「具体的にどこからを考えてる」
「砂漠からだ」

 砂漠の風化作用は強力で、最終的にはシリコンが残ります。シリコンの含有率が高い砂漠ほど成熟した砂漠とも呼ばれますが、リビア砂漠や、オーストラリア砂漠、カラハリ砂漠などでは含有率が九〇%以上になり、ところによっては一〇〇%近くなります。

「他には」

 エラン代表が少し悩んでいます。

「話は早く進めよう」
「そうなんだが」
「燃料に何が必要なんだ」
「えっ」
「それもアラルガルに聞いた」

 唖然とするエラン代表でしたが、

「地球でいうところのプルトニウムだ」
「再処理は宇宙船で出来るか」
「再処理とはなんだ・・・」

 ここも『再処理』の概念の理解が難しかったようですが、

「・・・そういう意味か。それは十分可能だ」
「なんとかなると思う。わたしは全権代表ではあるが、知っての通り地球は単一政府の形態に至っていない。そのために、あなたがたの要求を諸政府に呑ませる手間と時間がかかる。御了解頂きたい」
「了解する」

 そのあとに雑談になったのですが、

「これも各国政府、いや日本政府の了解が必要なのだが地球観光の希望はあるか」
「それは・・・」
「アラルガルの感想ではエラン人も地球食が口に合うそうだ。エランでいう贅沢食に該当するとしてた。酒もある」
「酒とは、伝記に書いてある発酵食品か」
「アラルガルと取り巻き貴族が飲んでたものだ」

 おいおい、こんなところで食い物の話かよ。

「ところで時空トンネルの位置は現在どうなってる」

 もう呆れ顔のエラン代表ですが、

「母星から一年ぐらいだ」
「片道は?」
「二年だ」

 まさか社長、宇宙旅行に行くとか。

「次の会談は追って連絡としたい」
「お任せする」

 この会談後にユッキー社長が持ち帰ったエラン側からの要求の検討が行われました。とりあえず宇宙船の移動のための造成地の整備が急ピッチで進められているのが見えます。エラン側の要求受け入れについても好意的なようです。そりゃ、砂漠の砂なら少々持って行かれても痛くも痒くもありませんし、プルトニウムの原料として放射性廃棄物で間に合うのなら、

『全部持って行ってくれ』

 とくに日本ではそんな感じで厄介者のプルトニウムの問題も解消できるとあって、早くもどうやって神戸に運び込むかの議論が盛り上がって来ています。それより何より、宇宙船団の目的が地球侵略とかではなく、平和的なものだとわかって、逆に歓迎ムード一色になっています。それと、それだけの交渉をたった二回でまとめあげたユッキー社長の名前は全世界に轟いたってところです。気の早い話ならノーベル平和賞の噂さえ出ています。ただですが、

「コトリどう思う」
「食わせ者だね」
「わたしもそう」

 なんの話かと思って聞いてみたのですが、

「話がすんなり進み過ぎてる気がするのよ」
「すんなり進んだら何か拙いのですか」

 コトリ副社長が、

「時間がかかり過ぎてるってこと」
「交渉はまだ二回ですよ」
「そうじゃなくて、交渉に入るまでの調査期間よ。たかがシリコンのありかや、放射能廃棄物を調べるのに、あれだけ時間がかかる訳ないじゃないの」

 そう言われれば、

「それと、あのブッサイクな通訳機」
「それは言語統一による通訳機能の退化じゃ」
「じゃあ、どうして船団組んで宇宙船が飛んでくるのよ。長距離宇宙航海技術も長いこと使ってないはずやで。それに時空トンネルの探査技術も健在やんか。通訳機能が落ちすぎてると思わへん」

 たしかに、

「ユッキー、なにかあるね」
「それが何かを知るのは一人だけ」

 それってアラのこと?

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