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ミサトの不思議な冒険(第24話)三枚そろった

「こういう勝負はどこかで危ない橋を渡らないと勝てない事が多い。これで有利になったぞ」
 
 よく言うよ。ただミサトに一つ懸念が、エミ先輩と野川部長の技量。とにかくこの夏休みにミサトはトンデモなく伸ばされたから、
 
「それは心配ない。ちゃんと考えてある」
 
 どうも摩耶学園卒業後も麻吹先生とエミ先輩たちの交流は続いていて、
 
「まさかエミ先輩もオフィスのアシスタントをやらされたとか」
「ボクもやったよ」
 
 去年の夏休みだったらしいけど野川部長は、
 
「去年の夏休みはエミとオフィス加納に缶詰め。エミはそれで終わったけど、ボクは、夏休みが延長戦、それだけじゃなく冬休みと春休みも拉致されて監禁されたよ」
「拉致監禁ではない、招待体験だ。人聞きの悪いことを言うな」
 
 なんと夏休みだけで一ヶ月以上もビッチリだったそう。うん、うん、うん、ちょっと待て、去年にエミ先輩と野川部長を先に鍛えていたということは、
 
「麻吹先生、エミ先輩たちも麻吹アングルを!」
「だから尾崎も合わせる必要があった。小林が伸び過ぎるものだから、野川には辛かったかもしれん」
 
 麻吹先生が『辛かった』と言うからには・・・野川部長がまだ生きているのが不思議だ。どうも麻吹先生は三大メソドとのリベンジ・マッチを予想して選手を準備していたで良さそう。
 
「小林と野川はキープしていたのだが、尾崎がどこに行ったのかわからなかったから、三人目に困ってな。だからツバサ杯をオープン化して人材を探したのだ。尾崎が西宮学院にいてくれてラッキーだった」
「そこまで準備されてたのなら、最初からエミ先輩たちを連れて来ていたら良かったじゃないですか」
「そこが戦術だ」
 
 まったく、どんな戦術だよ。
 
「わからんか・・・」
 
 麻吹先生のもとには去年から学生世界一大会への審査員の要請が来てたんだって。
 
「行けば挑発されて勝負に持ち込まれるのがミエミエだったからな」
 
 ここからは狐と狸の化かし合い見たいな駆け引きで、麻吹先生はいかに有利な時点で勝負に持ち込むかをあれこれ策を巡らしたぐらいで良さそう。まず三大メソド学生世界一決定戦に合わせてツバサ杯の副賞のハワイ旅行にしたのも一つみたいだけど。
 
「もし、途中で挑発されて勝負に持ち込まれたら」
「あん、個人戦なら尾崎で楽勝だ。でもあいつらは挑発しなかった。向こうも予想が外れたのだろう」
 
 どういうこと、
 
「例年のツバサ杯は三人だと言う事だ」
「それって団体戦」
 
 三大メソド側には西川流も入っているから、ツバサ杯の情報も良く知ってるはずだって。麻吹先生が例年通り、グランプリ・準グランプリの三人を連れてハワイに来ていたら、麻吹先生の弟子と見なして団体戦の勝負にまず持ち込もうとしたはずだって。
 
「でも今年のミサトはたまたま」
「ああ、無駄な手間が省けた」
 
 そっか、そっか、今年のツバサ杯はオフィス加納の地獄の体験生特典があったから、あそこで振い落す予定だったんだ。つうか、自然に脱落するというか、誰かが残るかどうかも疑問だけど。
 
「その辺は不確定要素だったが、結果は尾崎だけがハワイに来た。後はいかに有利な時点で勝負を始めるかになる」
 
 麻吹先生が三大メソド学生世界一決定戦に顔を出したのは、閉会式の翌日の展示会。参加選手は御褒美タイムでハワイを満喫中。ようやく現われた麻吹先生にロイド先生たちは勝負を持ちかけたのだけど、
 
「あいつらも、今年は出来ないのは知っていた。知っていたのは、それだけじゃない」
 
 エミ先輩や野川部長もマークされていたって言うのよね。マークと言っても日本に居ることの確認ぐらいだろうけど。
 
「パスポートの取得も念のためにさせなかった」
 
 そういう状況でロイド先生たちが持ちだしたのが来年の勝負。そりゃ、ミサトしか学生がいないから、勝負のしようがないもの。でも、麻吹先生は来年の勝負を渋ったのよね。その末に今日の勝負を麻吹先生は持ちだすのだけど、
 
「この勝負のミソは、わたしが受けないと成立しないところにある。あの時に重要なのは、たとえ翌日にしろわたしが受けた点だ」
「どういうことですか?」
「だからあいつらは中座した」
 
 このクラスの連中の考えてることはわかんないよ。ここでロイド先生たちが明日は無理だと断れば、勝負の話はそれで終りだってさ。中座して三人が話し合ってたのは、いかに麻吹先生に断らすかだったって言うのよね。

 そうなれば受けた勝負を断る事になり、今度は来年の勝負を麻吹先生が受けざるを得なくなるって事らしい。こいつらのプライド高すぎるんじゃない。
 
「そういうことだ、わたしが受けられないはずの条件を出してきたのだ」
 
 それをあっさり了承されて、どっちのサイドもドタバタ騒動ってことか。それでも絶対有利になったのはこちらの方。麻吹先生がこの日のために鍛え上げた三枚のカードがそろったのだから。それにしても学生の写真勝負にここまで手間を掛けるものだよね。
 
「そうまでして勝ちたいのは?」
 
 麻吹先生の顔がマジだ。
 
「明日の写真界のためだ。そのためにここまで準備を重ねた。ただ勝つだけでは意味がない。ブッチギリで勝って来い。それがお前らの使命だ」
 
 写真甲子園の時もそうだったけど、麻吹先生は勝負にこだわるんだよね。だから勝つための準備は万全なんて甘いものではないんだもの。今回の準備にあれだけのレベルを求めた理由はすべて『ブッチギリ』の勝利を得るためで良さそう。それになんの意味があるかわからいけど・・・その時に、
 
「麻吹先生、選手の皆様、開会式が始まりますので宜しくお願いします」
 
 ミサトたち三枚がそろったんだ。必ずブッチギリで勝つ。

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