目指せ! 写真甲子園(第31話)北海道へ
終業式が終わって、後は決勝大会を待つばかりだけど、
「ところで野川君、どうやって東川町まで行くの?」
野川君は大会からの招待状を見ながら、
「大会は八月四日の夕方に開会式から始まるのだけど、ボクたちは三日に伊丹から旭川に向かうことになる。搭乗時刻は、早いな、七時十五分発となっているから、六時頃には伊丹に行く必要がある」
野川君も調べたみたいで、神戸三宮から五時二分の阪急に乗れば六時八分にモノレールの大阪空港駅に着くみたいだけど、
「五時二分の阪急にどうやって乗るの」
「自力で行くしかないよ。これはお母さんに頼んでる」
野川君ところのクルマに同乗させてもらうことになりそう。
「麻吹先生は」
「三宮で待ち合わせだ」
「旭川空港には」
「九時十分着となっている」
前日到着か。全国から集まるから、余裕を持ったスケジュールにしてるで良さそう。神戸からだって行くのは大変だけど、もっと大変なところもあるだろうしな。その日はオリエンもあるらしいけど。だいぶ時間があるよね。
「麻吹先生の予定では朝食を機内食で済ませて東川町に移動するってなってるよ」
大会は三日間で行われるのだけど、
・ファースト・ステージ
・セカンド・ステージ
・ファイナル・ステージ
こうなってて、撮影場所は東川町を中心に旭川、美瑛、富良野あたりに設定される事が多いんだって。そしてファイナル・ステージは東川町になることが多いから、まず偵察をするで良さそう。行ったこともないところだから、少しでも土地勘を養うぐらいかな。
「その日の宿は」
「大会期間中はコテージに泊るとなっているけど、開会式の夜だけは民泊となってる。ホスト・ファミリーは開会式の時に紹介されるみたいだ」
えっと、四日が開会式で翌日から競技が始まるけど、閉会式は七日。後はどうするのかな。
「八日に国際写真フェスティバルがあって参加するみたいだよ」
わぉ、それも楽しみ。そして次の日解散して帰るのか。たしかにリッチな大会だ。
「寝坊するなよ」
三日の朝にスーツ・ケースに荷物を詰め込んで待ってたら野川君のところのワゴンが来てくれた。六甲山トンネルを潜って神戸市内に、まだ時間も早いからガラガラ。四時半過ぎには神戸三宮に到着。しばらくしたら麻吹先生も来てくれて、
「みんなそろってるな」
と言っても四人しかいないけどキップを買って大阪空港に。蛍池でモノレールに乗り換えたんだけど、
「モノレールなんて初めて」
「ボクも」
「わたしも」
空港に着くと搭乗手続きなんだけど、さすがは麻吹先生、手慣れたもの。いつも仕事に使ってるんだろうな。そして搭乗なんだけど、ワクワク、ドキドキ。だって飛行機なんて初めてだもの。
時刻がきて飛行機が動き出し滑走路に。そして離陸。飛んでるんだ、エミが飛行機に乗って飛んでるんだ。窓を見ると地面が見る見る小さくなっていく。予定通り機内食で朝食を済ませ二時間足らずで旭川空港に。野川君と、
「あの田んぼの真ん中に見えるのが空港かな」
「この辺は田んぼじゃなくて畑だろ」
空港に着いたところで麻吹先生は総合案内所に、
「東川町に直接行けるバスは無いようだ」
どうするのかと思っていたらタクシーを使うみたい。
「リッチですね」
「あん、田淵先生から軍資金をもらってるからな」
また脅し取ってたんだ。十五分ほどして東川町に到着。まずはメイン会場になる農村環境改善センターに。無事到着したことを報告したら、三時になったらまた来て欲しいだって。そこでオリエンと今日の宿泊場所の案内をするって。メイン会場は開拓記念羽衣公園に隣接していて、この辺が東川町の中心部で良さそう。
「とにかく見て歩こう。地図によればここより北側は畑ばかりのようだから、とりあえず街がありそうな南側に行くか」
とにかく広々としていて、家も立派。でもしばらく歩くと川があり、
「忠別川というらしいが、市街はここまでのようだ」
それでも街にはあちこちに、
『歓迎 写真甲子園』
こんな幟やポスターが貼ってあって盛り上がってる感じかな。麻吹先生は開いている店があると片っ端から入って行き、
「神戸から来た摩耶学園です。よろしくお願いします」
なるほど、少しでもコミュニケーションを取っておく作戦みたいだから、エミたちも一生懸命挨拶してた。考えることは他の学校も同じみたいで、同じようなことをやってるところもあるもんね。
お昼ごはんを食べようと店に入ると、他の代表校もいたんだけど、麻吹先生はそこにも挨拶に行き、なにやら話し込んでおられた。後で聞くと、去年も出場した学校みたいで、大会の様子の情報収集で良さそう。なかなやるな。
三時になってメイン会場に戻って見ると、代表校がゾロゾロと。そこで明日の開会式の要領の説明があり、各校にカメラとレンズが渡された。へぇ、レンズが五本にフラッシュと三脚。今日明日のうちに慣れとけってことだろうな。
他にもプリンターとか印刷用紙もあるけど、セレクト会議。つまり編集場でこれは配布するって。編集ソフトも指定だから、機材で差を付けない方針は徹底してる。ルール説明も一通りあり、ようやく終了。指定のバンガローに移動。
どうするのかと思っていたらバスが来てた。バンガローまで送ってくれたけど、とにかく荷物が多くて。もっとも麻吹先生は、
「カメラマンは力仕事だ。これぐらいでヘコたれてどうする」
バンガローは八人収容。つまりは二校ずつ入るのだけど、なかなかオシャレ。同じ宿になったのは東北代表の陸奥高校。顔合わせをして自己紹介。監督が部屋割りを相談して、荷物を片付けると、夕食は庭でジンギスカンだった。さすがは北海道だ。美味しい、美味しい。たらふく食べた後にお風呂。これも順番に入って、
「疲れただろうが、カメラのチェックとレンズのチェックをやっておけ。三脚の使い方も確認しておけ」
一通りチェックが済んでからおしゃべり、
「来たんだね決勝大会」
「ああ、ついにだ」
「夢みたい」
窓から景色を眺めていた麻吹先生は、
「やっと来れたか。もう来ることはないと思っていたが・・・」
そうなのよね。麻吹先生もここには来れなかったんだ。
「今日は浮かれておけ、本番は明後日からだ。だが写真甲子園は甘くないぞ、実力だけでは勝てないからな。お前たちには勝てるだけの力を付けてやった、後は本番の出来次第だ」
珍しいな。麻吹先生があれだけ高揚してるなんて。
「まったくお前らが羨ましいわ。ここで過ごせる時間は人生の貴重な一ページなる」
「ところで、その変装はいつまでされるのですか」
「明日にはバレるだろうなぁ」
どういうこと?
「明日になればわかるさ。浮かれるのも良いが寝不足にならんようにな」