ツーリング日和2(第12話)四万十観光
久礼では食べ続ていたようなものですが、駐車場で誰かを待っています。
「コトリ、連絡は取れたの?」
「おう、そろそろ来るはずやで」
誰かと久礼で待ち合わせをしているようです。やがて大型のスポーツ・バイクが見えて来てこちらに来て停まりました。メットを取ると、えっ、えっ、もしかして、
「御無沙汰しています。しゃ・・・」
「コトリやで間違うたらあかんで」
「ユッキーよ」
ボクも原田も目が点です。あのカリスマ・モト・ブロガーのスギさんではないですか。
「こっちが笹岡君で、こっちが原田君。杉田さんを蹴落とそうと張り切っているモト・ブロガーよ」
蹴落とそうとなんて滅相もない。
「なに言うとるんや。ユーチューバーの世界も弱肉強食やで」
「そうよ。今は杉田さんの上だけど、来年には蹴落として上がる気が無くてどうするの」
杉田さんは苦笑しながら、
「ライバルの参入は歓迎だよ。相手を蹴落とすのじゃなくて、モト・ブロガーの世界をもっと広げようじゃないか。もっともっと大きくなれるはずだし、そうしないといけない」
さすがカリスマだ、言うことが違う。それにしてコトリさんやユッキーさんが杉田さんと知り合いだったとは、
「阿蘇にツーリングに行った時に知り合ってん」
「たまたまだけど同じ宿に泊まったのよ」
阿蘇にもツーリングに行っていたのか。
「コトリさん、ユッキーさん、一人になってしまって申し訳ありません」
「エエねん、エエねん、急やったから来てくれただけで感謝するわ。無理言うてホンマに悪かった」
コトリさんやユッキーさんて何者なんだ。もし杉田さんを呼んだのなら、昨日か今日のはず。連絡一つで杉田さんが愛媛から久礼まで飛んできているのですよ。そこからコトリさんと杉田さんがなにやら話をして、
「・・・そういうことで頼むわ」
「それぐらいはお安い御用です。任せて下さい」
杉田さんがボクらに、
「四万十にマスツーで行く。オレが先行するから、次がコトリさんたち、笹岡君と原田君は後ろを頼む。もし、信号とかではぐれたら一条神社で落ち合うことにする」
久礼から快調に走り四万十市に入り一条神社に。時刻はまだ午後一時半ぐらいです。コトリさんは興味深そうに一条神社に参拝して、
「ここから郷麓温泉に四万十川の観光しながらツーリングにしたいのよ」
「沈下橋を渡ってみたいねん」
まず国道四四一号を北上、途中で県道三四〇号に入りまずは佐田沈下橋。これは全長二九一・六メートルで四万十川最大の沈下橋です。これを渡ると、そのまま細い道を走り抜け三里沈下橋に。
そこから県道三四〇号に入り、国道四四一号に戻ったと思ったら今度は高瀬沈下橋を渡り、そのまま左岸の細い道を走り抜けて勝間沈下橋に。この沈下橋は橋脚が三本あるのが特徴だそうです。
しばらく国道四四一号を走ったら口屋内沈下橋を渡り、またまた左岸の細い道を抜け岩間沈下橋を渡ります。再び国道四四一号に戻り道の駅よって西土佐で一休み。
「杉田さん、まだあるよね」
「もちろんです」
今度は長生沈下橋を渡り、中半家沈下橋で国道に戻り、
「ここまで来たら半家沈下橋も渡りましょう」
少し道を外れてこれも渡りました。
「おい、何本渡ったのだ」
「九本かな」
「もう満喫しすぎたよ」
沈下橋は川が増水した時に沈んでしまう橋で欄干がありません。幅だって一番広い勝間沈下橋で四・四メートル、一番狭い長生沈下橋になると三・一メートルしかありません。正直なところ怖いのですが、
「記念写真、記念写真」
「並んで撮るで」
必ず途中で停まるのでヒヤヒヤものでした。まだ沈下橋はあるそうですが時刻も押して来たので宿へ直行のようです。土佐大正町で左にルートを取ったのですが
「笹岡、またヨサクだぞ」
「あの酷道、こんなとこまで伸びていたのか」
祖谷の二重かずら橋に行くのに苦戦した国道四三九号、ちょっと調べると国道四二五号、国道四一八号と並んで日本三大酷道とされているもので通称『ヨサク』です。杉田さんは、
「京柱峠ほど悪くないが、少々狭い道だ。もしついて来れなくなっても宿は道沿いにあるから迷う心配はない」
よく道を知っておられるのもあるとは思いますが、さすがのハイ・ピッチ。
「原田、無理だ」
「もう見えないな。それしてもあの二人はよく付いて行けるものだ」
ヘロヘロになりながら狭苦しいワインディングを走っていると、
「あれじゃないのか」
「手を振ってくれてる」
昨日の祖谷温泉も秘湯ですが、かなりメジャーな雰囲気がありました。そりゃ、ケーブルーカーを使う露天風呂があるぐらいです。それに比べると郷麓温泉はまさに一軒宿で、これこそ秘湯って感じがします。
「晩御飯の時に会おうね」
部屋に案内してもらい、寛いでいたら杉田さんが来られて一緒に温泉に。ここのお風呂は貸し切り制で檜の湯と離れの湯がありますが、
「コトリさんたちは離れの湯に行ったから・・・」
檜の湯は名前の通りの檜風呂。硫黄の匂いが漂います。杉田さんにコトリさんたちと、どこで知り合ったか聞かれ、ジャンボ・フェリーで出会って祖谷温泉からここまで一緒にツーリングしてきた事を話すと、
「よく食べて、よく飲まれるのに驚いただろう」
フェリーを下りてから、すべて料金を支払ってもらってることも、
「気にしないで良いよ。お二人がそれで楽しんでおられるのだから、甘えても罰はあたらない」
コトリさんたちのバイクが気になったので聞いてみたのですが、
「あれぐらいは走るよ。オレだって追いつけなかったぐらいだ」
えっ、杉田さんはスーパー・スポーツ。それにレーサーでもあるのに、
「あははは、石鎚スカイラインで振り切られたよ」
そんなバカな。そんな一二五CCがこの世にあるものですか、
「あのバイクはオレも乗せてもらったが・・・」
とにかく運転がしにくいバイクのようで、
「すごいチューンしてるのでしょうね」
「チューン? そんな甘いものじゃない。ヨシムラだって、あそこまで出来るものか。ヨシムラどころかワークスだって無理だ。あれは世界でたった二台しかないスーパー・バイクだよ」
先行してもらった時にはノンビリ走ってましたが、
「そりゃそうだよ。あのお二人がしたかったのは、そういうツーリングだ」
「じゃあ、どうして」
杉田さんは苦笑いしながら、
「あれはノーマルで十馬力程度のものだ。それでは峠道が苦しいだろう。少しパワーが欲しかった結果があれだそうだ」
少しって、
「オレも詳細は良く知らない。だがお二人はトンデモない代物になったのをボヤいておられたよ」
そう言えば今日だって仕事の予定があったはずですが、
「ああそうだった。でもスマホに連絡があった時に夢かと思ったよ。加藤が泣いて悔しがっていたな」
加藤ってあのカトちゃん。杉田さんにも肩を並べるカリスマ。
「さあ上がろうか」