流星セレナーデ(第20話)エランの戦乱
料亭での審問会の後にコトリ副社長にバーに誘われました。
「社長、怖かったです。あれが氷の女神なんですか」
「そうよ、でもエレギオン時代よりかなり温和になってるよ」
ひぇぇぇ、もっと怖かったんだ。
「ミサキちゃんも聞きたいでしょう」
「もちろんです」
母星エランで戦乱が起ったのは間違いないようです。構図は独裁政府と反乱軍です。
「独裁政府も長く続きすぎたみたい」
「でも、それはエレギオンも同じでは?」
「そうなんだけど、トップの力量と側近団の能力差が違い過ぎたってところかな」
「どういうことですか」
「アラの器がユッキーの足元にも及ばないほど小さかったってこと」
「アラってアラルガルのことですか」
「そうよ、アラが名前、ル・ガルは王って意味よ」
それってシュメール語、
「独裁者アラは猜疑心が強くて有能な者を敵視しすぎたのよねぇ。だから頭角を現し出した者は次々に排除していったのよ」
「その一つが地球への星流し」
「そうよ。地球に星流しにされて流刑囚は意識改造もされてたけど、これって笑っちゃうけど、独裁者アラのキャラへの改造だったみたい」
「そんなぁ」
独裁者アラは独裁体制を保持するために、周囲の者を次々に意識改造を行い、アラに忠実な犬に変えて行ったとしています。
「それでも安定した時期も長かったみたいよ。アラは反乱を怖れて武器の保有も製造も固く禁じ、何度も大規模な武器狩りをやってるわ」
「秀吉の刀狩りみたいなものですか」
「ミサキちゃんがイメージするなら、それでイイと思う。結果として戦争の無い平和な時代が来たってこと」
そんなアラ独裁体制に綻びが生じたのは、
「エランが資源不足だったのはホントだよ。そりゃ、高度の文明の維持には莫大な資源が必要だからね。ところがアラは独裁者から王になり、側近たちは貴族になったのよ。この辺も肩書の違いだけなら良かったんだけど、相当どころでない贅沢三昧に耽ったぐらいで良さそう」
「なんかフランスのブルボン王朝みたいな感じですね」
「イメージとしてはちょっと近いかもしれない。資源不足によってエランの国民の生活は苦しくなっていったのよ。フィルのパンの話を覚えてる?」
「はい」
「あれもウソじゃなくて、国民への食糧供給のために統一食に統制しちゃったのよ。一方で首都の王宮では王や貴族たちが連日連夜のドンチャン騒ぎ。わかるミサキちゃん、だからフィルは地球の食事にあっさり馴染めたの」
そうやって見てたのか、
「やがてね、統一食の質も落ちただけでなく、統一食の配給も怪しくなったぐらいで良さそう。そうなればね、人が買っちゃ一番いけない恨みをアラは買っちゃったの」
それは人もそうですが、コトリ副社長はなおさらの気が、
「食い物の恨みですね」
「そういうこと」
フランス革命を思わせる状況です。大規模な暴動が次々と起ったようですが、最初は大正期の米騒動ぐらいだったようで。これに対してアラ王は鎮圧軍を送り出していましたが、
「鎮圧軍も士官クラスは意識改造されてたけど、下士官や兵まではされてなかったみたいで、けっこう大きめの規模の鎮圧軍の中で下士官グループの反乱がおこり、軍ごと乗っ取っちゃったみたい。これも笑っちゃうけど、士官以上は贅沢食で、下士官以下は統一食にしてたんだって。そりゃ、怒るわよね」
このクーデターを皮切りに、反政府軍が形成されていったぐらいの展開で良さそう。反政府軍はバラバラではあったけど、
『打倒、アラルガル』
この一点だけは目的を共有してたぐらいみたい。政府軍も抵抗したけど、徐々に首都に反政府軍が迫っていったぐらいの展開かな。
「追い込まれたアラは、使っちゃったのよね。大量破壊兵器を」
大量破壊兵器のお蔭でアラも少しは盛り返したようだけど、この使用により政府側の人間も反政府軍に付く結果も招き寄せたみたい。さらに大量破壊兵器自体も保存していた分だけしかなく、すぐに使い果たしてしまい、再び首都に反政府軍が迫ることになったぐらいかな。
「アラは次々に裏切り者が出る状況で、意識改造機使いまくったみたいだけど、これも反政府側の工作員に破壊されてしまったようなの。万策尽きたアラはついに首都から側近だけ連れて逃げちゃったの」
アラが逃げたのはまだ生き残っていた政府側の空軍基地みたいなところで良さそう。そこから飛行機みたいなもので脱出し亡命しようとしたみたいだけど、アラの亡命を受け入れてくれる勢力など、どこもなくて途方に暮れた感じ。
やがて反政府軍が空軍基地に迫ると、アラは意識改造を施した側近たちに死守を命じ、空軍基地に保管してあった宇宙船に乗り込み地球を目指して飛び立ったぐらいでしょうか。
「戦乱はどれぐらい続いたのですか?」
「短いよ、エランの公転・自転周期は地球とほぼ同じだから数えやすいけど、十年もかかっていないと見て良いわ」
「被害は」
「アラが使った大量破壊兵器のお蔭でかなり大きかったみたい。人口の三割ぐらいは減ったで良さそうよ」
「それだけの犯罪者だから・・・」
「それで良いと思うわ。草の根分けても捕まえることになったんじゃないかしら」
どこでそれだけの話を聞きだしたかですが、
「こればっかりは文化と文明の違いだろうね。それ以前に本人の資質の問題もあると思うけど、とにかく幼稚で無知。一万年以上の経験者とはとても思えなかったよ。半日も責め立ててやったら、欲しい情報は全部話してくれた」
コトリ副社長が本気で責め上げたら、耐えられる男はいないと思います。
「これで宇宙船騒ぎも安心ですね」
そうしたらコトリ副社長は急に難しそうな顔になって、
「そうなるはずだけど・・・でも、こういうものは最後に何があるかわからないのよ」
「まさか侵略?」
「一つ気になる話が残ってるの」
「なんですか」
「女性人口が急減したお話」
「それもアラのウソでイイんじゃないですか」
「とも言い切れない。あの話は別に持ち出す必要のない話題だったの。無くてもアラのウソは成立するのよね」
「えっ、それって」
「あの宇宙船団のもう一つの目的がある可能性が残ってるの」
「それって女狩り」
「だから十隻も連れて来てるって見方も出来るのよね」
「そんなぁ」
コトリ部長は静かにグラスを傾けながら、
「アラでわかった事の一つに、エランの男も地球の女をアレの対象にできること。おそらく外見的には、ほぼ同じで良いと思うわ。根が一緒だから同じでも不思議ないけど、そうであれば代用品として使えると判断する可能性はあるじゃない」
背中に嫌なものを感じています。
「まさか物色するために地球周回軌道を」
「そうなのよ、アラを探すだけなら少々長すぎる気がしてる」
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