ミサトの不思議な冒険（第14話）祝勝会
未公認写真サークルのメンバーが居酒屋タイガー堂に集まり、
「阪神の勝利を祈ってカンパイ！」
今日はミサトのツバサ杯獲得を祝っての祝勝会。七十人ぐらい集まってるから、二階の座敷もパンパン。もっと参加希望者もいたそうだけど、スペースの問題でこの人数になったそう。
「これがツバサ杯か」
「立派なものだよな」
とっても立派な銀杯。ピカピカに磨かれてる。歴代獲得者のリボンが懸ってるけど、ミサトの名前も。
「それにしても凄い写真だったよ」
「ああ、今年の大会のレベルは去年とは大違いだったけど、それでも他の作品が霞んで見えるぐらいやった」
先輩たちの話では、今年の入選レベルで例年ならグランプリでもおかしくないって、
「メディア創造学科の連中でも入選が辛うじて一人で、佳作が二人だろ」
「青田教授が蒼ざめてたぞ」
この辺はツバサ杯の裏話みたいなものになるみたいだけど、山川学長も写真好きで、麻吹先生の大ファン、いやそんなものじゃなくて熱狂的なファンらしい。
「麻吹先生が御結婚された時に三日三晩泣き通したとか」
さすがにそこまではないと思うけど、それもあったからメディア創造学科の名誉博士授与になったで良さそう。麻吹先生は母校への御恩返しも兼ねてツバサ杯を贈呈したぐらいかな。
「オープン化になった時に青田教授を呼び出して厳命を下したみたいだよ」
学外へのツバサ杯流出阻止が事実上の学長命令になったぐらいかな。メディア創造学科の学生のレベルは低くないけど、あそこは写真学校じゃないんだよね。写真だけでなく動画や音響も勉強するし、それのプロデュースにも力点を置いてるぐらい。
でも学長命令じゃない。選抜チームが編成されて特訓してたようなのよ。それがグランプリは愚か、特選にも届かない惨敗だったものだから、
「山川学長の雷が青田教授に落ちたんじゃないかな」
たかが写真のコンテストでそこまでと思うけど、山川学長が麻吹先生の熱狂的なファンだったなら、あるかもしれない。これも噂だけど青田教授のクビが飛ばなかったのはミサトがグランプリを取りツバサ杯の学外流出を阻止したからとか。
「それホンマらしいぞ。ジョーカー浜口からオレは聞いたからな」
ジョーカー浜口とは哲学科の浜口教授なんだ。西宮学院の名物教授でプロレス研の顧問。ジョーカー浜口とは浜口教授のリングネームで、頭をツルツルに剃りあげた筋肉達磨。
「宗像もジョーカーにケンカ売ったのは身の程知らずやったわ」
浜口教授のジョーカーはリングネームでもあるけど、学内の浜口教授の地位も表してるぐらいかな。浜口教授は哲学界の重鎮だそうだけど、優秀な教え子も多く浜口一門と呼ばれるぐらいだそうなの。
それだけでも重視されるだろうけど、浜口教授が西宮学院に居てくれるお蔭で、地味そうな哲学科の人気が凄いんだって。はっきり言っちゃうと西宮学院の哲学科は日本一じゃないかともされてるそうなのよ。
キャラは豪放磊落で、プロレス研でヒールやってるぐらいだから、関西人らしくウケる事に命を懸けているようなところもあるけど、とにかく曲がった事が大嫌い。とくに蔭でコソコソ陰湿な事をするような人は許さない人らしい。だからジョーカーだって。
「でも名物の学祭のリング乱入の時は凶器を使うのじゃ」
「あれは、そういうシナリオだから問題じゃないのさ」
プロレスってそういうショーらしい。ツバサ杯の余波は、予備予選でミサトを排除しようとした話まで耳に入れてしまったらしい。これが山川学長の耳まで届いて、
「審査員は退学って話も出ているらしいよ」
「それと引き換えにゲロさせたって話もあるよ」
予備予選の審査員はメディア創造学科の学生。学内で中立の審査員を集めるならそれしかないけど、あのカラクリがばれたら、
「公認写真サークルの平公認への降格は間違いないけど、二段降格もあるかもしれないね」
「下手すりゃ三段もあるかもや」
宗像のやる事は陰険だけど底が浅いのよね。というかバレたらどうするかを考えていないぐらいで良さそう。あの野郎がそうしか考えないのは、その後に親っさんが尻拭いするからなのよね。ホントに甘ったれで乳離れしてないと思うのもの。ツバサ杯後の公認写真サークルも大もめみたいで、
「真剣にヤバイらしいで」
「辞めたのが出たみたいや」
「それも一人や二人やないし、予備軍もゴッソリって話もある」
公認写真サークルは宗像が独裁権を握る過程で十人ぐらい追い出してるんだって。これはサークルの会員数問題になるのだけど、未公認なら三人でＯＫだけど、公認になると十人以上が必要なんだって。それも幽霊会員の審査がシビアらしい。
「このままやったら降格どころか、空中分解してまうかもしれん」
「顧問の先生も辞める話も出てるらしいし」
ちょっとかわいそうと思うけど、身から出た錆としか言いようがないものね。他人事だけど宗像の奴、どうするんだろう。また親っさんに泣きつくんだろうけど、今度はそれで切り抜けられるのだろうか。
「公認写真サークルがそんな有様じゃ、フラッシュが公認サークルに昇格するかもな」
「フラッシュも地味に実績積み上げてたし」
西宮学院の写真サークルにとって、ずっと公認写真サークルが憂鬱な存在だったで良さそう。これを漬物石にしたのが宗像で、未公認サークルを漬物にしようとした結末が今回かもしれない。
「北斗星も可能性あるで」
うちのサークルは公認目指していないはずだけど、
「ホンマやったら条件足りんけど、学長賞になってもおかしないやんか」
「学長賞まで行ったら特例が出てもおかしないし」
どこでも似たようなものと思うけど、学長賞に選ばれるのは顕著な業績と、
『本校の名誉を高らしめた』
今回なら救世主のように現れてツバサ杯を守ったの該当するかもって。山川学長ならやりかねないとか。さすがにそれはないと思うけど、なんかみんな吹っ切れてた。そうよ、写真はこうでなきゃ。麻吹先生もいつも言ってたもの、
『写真はウソをつかん』
サークルだから楽しくなくっちゃ。そこに届いたニュースが
「これで阪神三連勝や」
店内に轟く大歓声と恒例の六甲おろしの大合唱。
「割引サービスをゲットや」
学生にこの割引は大きいのよね。
「なに言うてるんよ。三連勝の特典もあるで」
伝説では十連勝した時にはタダ同然になったとか。これで阪神が優勝なんかしようものなら店が潰れるんじゃないかな。まあ、滅多にしないからだいじょうぶか。