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目指せ! 写真甲子園(第17話)ミサトの課題

 私はミサト、尾崎美里。始業式が終わって、放課後に部室に。さすがに年末からはお休みだったのよね。みんながそろったところで、
 
「あけましておめでとうございます」
 
 今年の写真部の始まりだよ。野川部長が、
 
「イブの校内予選をクリアし初戦審査会への応募資格を得られた。しかしこれに満足してはいけない。写真部の最低限の目標は、これの突破だ。みんなの一層の精進を期待する」
 
 そうそう麻吹先生も来られていて、
 
「野川から初戦審査会の構想を聞いた。もちろん賛成だが一つだけ条件を付けさせてもらう。これを撮るのは尾崎だ」
 
 えっ、ミサトが、
 
「言うまでもないが初戦審査会の一枚目の写真の役割は重要だ。初戦審査会は組み写真とはいえ、展示形式で評価される訳ではなく、スライド・ショー形式と見て良い。そのオープニングだから、評価のかなりの部分を左右するとして良い」
 
 待ってよ、待ってよ、そんな大事なパートは、
 
「麻吹先生、そこまで重要なパートは野川部長が撮るべきだと思います」
「いや尾崎、お前が撮らないといけない。お前がそれを撮れるようにならないと、初戦審査会さえ危ういところがあり、決勝大会など夢物語になる。応募写真を撮るのは三月になってからだから、それまでの間にみっちり練習しろ」
 
 そんなぁ、
 
「それと尾崎の担当はマドカだ。マドカも毎日来れるわけではないから、撮れたらオフィスに送れ。翌日までには必ず評価を付けて返すように言っておく」
 
 げっ、新田先生が担当。新田先生は本当に怖いんだから。ミサトのどんな小さなミスでも必ず見つけ出すもの。あれこそ重箱の隅を顕微鏡で覗いてチェックされるぐらいの細かさなんだ。二学期も殆ど死んでたのに、
 
「二ヶ月、死ぬ気で頑張ってマドカの合格をもらえ」
 
 ひぇぇぇぇ、あの新田先生の合格を取れなんて。幻暈がクラクラする。そしたら、
 
「ミサトなら必ずできるよ」
「そうや尾崎、麻吹先生も期待されてるんや」
 
 気楽に言うな! やらされるのはミサトなんだから。アキコも、藤堂副部長も新田先生に指導してもらった事がないからわかんないんだよ。ここはなんとか野川部長に泣きついて、
 
「部長、やはり無謀ですよ。こんなギャンブルやらなくても、部長が撮れば無難です」
「いや、ボクも麻吹先生の指示に賛成だ。オープニングの一枚を撮るのにもっとも相応しいのは小林君だが、モデルになってもらってるから無理だ」
「だから部長が・・・」
「ボクと尾崎さんでは写真の質が違う。これも麻吹先生に言われたのだが、ボクの写真は無難すぎるんだよ。大事な一枚目は無難じゃダメなんだ。尾崎さんの写真がここはどうしても必要なんだ。期待してる」
 
 うぇぇぇん。
 
「だったらミサトが馬に乗る」
「乗馬経験は?」
「ない」
「モデルとして勝てる自信があるの?」
「ない」
 
 ここはエミ先輩に最後のお願いを、
 
「いつでも撮れるようにお父ちゃんに言っておくよ。馬に乗りたいんだったら、それもOKだし」
 
 逃げ場が、逃げ場が、そうだ新入部員は、
 
「がんばって尾崎さん」
「あの素敵な新田先生の指導を受けれるって幸せ」
「来年こそは、あそこにいたい」
「うん、うん」
 
 ミサト轟沈。野川部長がダメ押しのように、
 
「尾崎君も快く了解してくれた」
 
 してない、してない。
 
「当面のスケジュールだが・・・」
 
 もうどうしようもないか。この後に麻吹先生から、
 
「尾崎、今から小林の乗馬クラブに行って来い。小林も今日は付きやってやれ。もちろん、今日も撮ってマドカに送るのは忘れるな。明日からの指示はマドカが出す」
 
 エミ先輩に連れられて北六甲乗馬クラブに。エミ先輩の家は電車で行くんだけど、
 
「駅から近いのですか」
「近いよ。自転車で三十分ぐらい」
「それは遠いと言うのですよ」
 
 エミ先輩は摩耶学園のシンデレラ、リボンのスーパー・アイドルとも呼ばれるぐらい素敵な人。エミ先輩がリボンをするから、他の女子生徒が誰もリボンを着けなくなったと言われるぐらい。たしかにエミ先輩以外に見たことが無い。

 でも、決してひ弱な花じゃないのよね。とにかく働き者。写真部でも何するにしても先頭に立つぐらい馬力があって、さらに何をさせても達者。掃除をすれば部室がピカピカに磨きあがるし、ボタン付けどころか、綻びさえあっという間に直しちゃうぐらい。

 調理実習の時の話も有名で、先生より三倍は上手だし、その手際はプロ並みだって話なのよね。とにかく見る見るうちに料理が出来上って、盛り付けも完璧、味だって絶品だったんだって。
 
「今日はお父さんに迎えに来るように頼んどいたから心配しないで」
 
 駅に着くとオンボロ軽ワゴンが待ってくれてて、乗馬クラブまで。こりゃ、結構距離あるよ。この距離を自転車で三十分って、クルマとあんまり変わらないじゃない。エミ先輩のお父さんは親しみやすそうな人で、
 
「いつもエミがお世話になっています」
 
 乗馬クラブは広大。摩耶学園の敷地より広いかもしれない。クラブハウスも立派で、なんと天然温泉まであるっていうから驚き。お母さんもわざわざ挨拶に出て来られて、
 
「良かったら、晩御飯も食べてって」
「そこまでは・・・」
「イイの、イイの、尾崎さんの家には私が連絡しとくから」
 
 それにしても、さすがはエミ先輩のお母さん。本当に素敵な人。エミ先輩がお母さん似なのはわかるけど、あのお父さんの血が入ってるなんて信じられないぐらい。とりあえず練習だけど、エミ先輩とお父さんがちょっともめてるみたい。
 
「それ悪いんじゃない。シノブさんの持ち馬だよ」
「預かってるから運動もさせなアカン」
「そりゃ、そうだけど、無断でこんな事に使うのは良くないよ」
「許可は取ってある」
 
 なんの話かと思えば、エミ先輩がどの馬に乗るかだったみたい。馬なんて、どれでも同じじゃないかと思ったけど、
 
「そうでもないのよ。尾崎さんも見ればわかるよ。ちょっと支度して来るから待っててね」
 
 その間にお父さんと、
 
「どんな馬なんですか」
「セルフランセや」
 
 どうも馬の種類らしい。
 
「イイ馬なんですか」
「ワシが知る限りなら世界一や。あんな凄い馬を二度と見られへんかもしれん」
 
 とにかく広い馬場で、それなりにお客さんも入っているのに、広々としか感じられないのよね。う~ん、この広さなら望遠もいるかも。ミサトの持ってる望遠でなんとかなれば良いけど。

 そうこうしてるうちに、見るからに立派そうな馬が厩舎から出てきて馬場の中に。あれっ、こっちに走って来るけど、あれはエミ先輩。ホントに馬に乗れるんだ。それも格好イイ。たしかにこれは絵になりそう。
 
『パシャ、パシャ、パシャ、パシャ』
 
 遊びに来てるんじゃない、練習に来てるんだから夢中でシャッターを押しまくった。
 
「尾崎さん、覚えといてね。これがアンブル、常歩のことよ」
 
 歩いてるってことだよね、
 
「これがトロット、速歩だよ」
 
 ジョッギングってところかな、
 
「そしてこれがキャンター、駆歩だよ」
 
 これは走ってる。
 
「最後はギャロップ、襲歩というのよ」
 
 競馬だ! なるほど、色んな走らせ方が馬にはあるし、それを騎手がコントロールしてるんだ。あれって馬が勝手に走ってると思ってた。それにしても鮮やかなもんだ。うちの学校に馬術部があったらエースだろうな。エミさんが厩舎に戻り、
 
「寒いね、一緒にお風呂入ろう」
 
 シャワーじゃないのかと思ったら、露天風呂。シャワーもあるけど、最近は馬に乗って温泉のパターンのお客さんが多いんだって。うわぁ、エミ先輩のスタイルも抜群。キリッと引き締まってるけど、出るところはちゃんと出てるんだ。ちょっと着やせするタイプかな。これが摩耶学園のシンデレラなんだ。
 
「お腹減ったね」
 
 それから晩御飯になったんだ。

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