流星セレナーデ(第35話)宇宙船みたび
地球に向かってくる小惑星が突然現れたニュースが報道されたのは八年後のことでした。さすがのNASAも早い段階で、
『惑星エランからの宇宙船の可能性が高い』
こうしています。コースが十一年前の彗星、八年前の宇宙船とほぼ同じですから否定するだけ無駄と判断したみたいです。ただ今回は一隻のようです。さっそく三十階仮眠室に向かったのですが、
「ついに来ます」
「もう来てるよ」
「えっ」
「宇宙船じゃなくて全権代表の依頼が」
そっか、公式発表の前に水面下は先に動くものね。
「受けられるんですよね」
「受けない」
「コトリも受けない」
「どうしてですか」
「アラを信じてるから」
そうだった、アラの予想はもろ侵略だった。
「せいぜい地球防衛軍に頑張ってもらうさ」
「女神だって、光線銃みたいなものどころか、鉛玉が当たっても死んじゃうからね」
コトリ副社長はビール・サーバーに向かい、
「ユッキーはピルスナー」
「お願い」
「ミサキちゃんは」
「エールで」
ジョッキをテーブルに並べて、
「ミサキちゃん、また神戸に来るかもしれないよ」
「どうして神戸に・・・またですか」
「それは相手が神だから。居場所がわかっていたら、挑戦せずにはいられないの」
グイッとジョッキを傾けて、
「このヴァイツエンはちょっと軽すぎるかな。ユッキー、神戸に来たらコトリが始末する。イイよね」
「ダメっていっても聞いてくれないじゃないの」
「まあ、そうだけど、一応のお断り」
「コトリ副社長、それってアラの弔い合戦ですか?」
「うんにゃ、神を殺せるのは神だけだし、二人もいらんだけのこと」
ホントに?
「よし決めた、アラは持久戦を勧めたけど、短期決戦でケリをつけるわ。ユッキー、連絡があれば受けといて」
「わかった。助けが必要ならいつでも言ってね」
「気持ちだけ頂いとく」
さすがに心配になって、
「向こうの武器は強力だって。それに当たれば神だって生身の体って言ったばっかりじゃ」
「あ、それ。撃たせなきゃ良いだけ。コトリの眼に入る範囲ならすべてコントロールできる」
「でも宇宙船の中から狙われたら」
「宇宙船に開く窓はないの」
「でも・・・」
「それにね、アラの持久戦は必勝策かもしれないけど、神戸空港で延々とドンパチやられたら、うちの会社が困るのよ。神戸市民だって迷惑。神戸に来るなら短期決戦で始末する」
もうジョッキのお代わりに行っていたユッキー社長が、
「ミサキちゃん、ちょっとリスクは残るけど、本気になったコトリはそりゃ強いのよ。人相手に揮うことは滅多にないけど、今回は神絡みだから本気で行くわ。良かったら空港ビルにでも行って見てたらイイわ」
宇宙船は地球に接近し、やがて地球周回軌道に。その時に、
「コトリ、やっぱりあったわよ」
「さすがエランやな、あそこから電波が届くんや。長距離国際電話になるけど、料金どうなるんやろ」
「前の時も電話会社は請求しなかったみたいだよ」
そんなもの誰が請求するかと思いましたが、
「明後日に降りて来るって」
「わかった正面から行く」
宇宙船へのコンタクトはユッキー社長のスマホ以外には取れていないようで、宇宙船の降下先がまたもや神戸空港だとわかったのは、それこそ着陸しようとする段階になってからのようでした。その頃、ミサキはコトリ副社長と空港ビル三階のUCCでコーヒー飲んでました。
「ミサキちゃん同じだね」
「でも中身も同じとは限りません」
「いや、同じだよ。エランじゃ、新設計も、新開発ももう出来ないよ。出来るのは昔通りに作る事だけ」
アラ情報か。そこまで信じて良いのか不安な部分もありましたが、もうコトリ副社長を信じるしかありません。宇宙船が着陸した頃を見計らって、
「ミサキちゃん、払っといてね」
コトリ副社長は一階に向かわれました。窓から、コトリ副社長が一人で宇宙船の方に歩いて行かれるのが見えます。これに反応したのか宇宙船側の扉が開きます。中からなにやら銃のようなものを持った人間が十人ほど出てきました。
出てきたのは良かったのですが、全員が固まってしまいました。あれは、あの力だ。あの力は一度に多人数でもかけられるんだ。コトリ副社長はそのまま宇宙船に乗り込んでいきます。どうなるのかと固唾を飲んで見守っているとやがて出てきました。その頃には警察も空港に集まって来ています。ミサキも急いで駆け付けたのですか、
「わ~ん、怖かった。宇宙人に操られていたみたいなの」
大ベソかいて震えているコトリ副社長の姿が見えます。でもエラン人たちは固まったままです。警官隊が恐る恐る近づいてもピクリともしません。
「銃刀法違反及び誘拐未遂容疑で逮捕しろ」
なにか違うと思いましたが、それぐらいしか名目というか日本で適用できる罪状はないのかもしれません。コトリ社長も事情聴取のために警察に連れていかれましたが、ぶりっ子しまくりで可愛く泣きべそをやり通されたのと、ユッキー社長がゴッソリ顧問弁護団を送り込まれたので、
『単なる被害者』
これで帰って来られました。まあ、警察に現代エラン語がわかる人間などいるはずもなく、警察だってユッキー社長に通訳を頼めるわけでもないので、コトリ副社長の話を信じる他はないってところかもしれません。
「ユッキー、終わったよ」
「おつかれさん、ビールは何にする」
「スタウトがイイ。そうそうお土産」
「これって自動通訳機」
「なんか裏があると思とったけど、性能悪すぎるわコレ」
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