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ミサトの不思議な冒険(第13話)懇親会

 入賞者以上は、他の関係者や来賓と一緒にバスで近くのホテルのパーティ会場に。これだったらもうちょっとイイ服にしとけば良かった。懇親会の主役はグランプリのミサトと言いたいところだけど、やっぱり麻吹先生だよね。そしたらミサトに、
 
「尾崎さん、おめでとうございます」
 
 声の方に振り向くと、
 
「ツバサ先生も怠らずに精進されていたのを褒めていらっしゃいました」
 
 なんと新田先生。もちろん新田先生もパーティの主役みたいなもの。すぐにあちこちから声が懸って挨拶に回られてた。そのうちに麻吹先生も新田先生も一通りあいさつ回りが終り、
 
「尾崎、よくやった。あの写真なら文句なしだ」
「ありがとうございます」
「ハワイにはマドカも一緒に行くぞ」
 
 そうだこれでハワイに行けるんだ。でも組み合わせがなんか気になる。
 
「まさかあの時の特訓の続きを二人がかりでされるつもりとか」
「あったりまえだろ」
 
 うぇ~ん。地獄のハワイになっちゃうよ。
 
「まあ覚悟しとけ」
 
 マジだ。
 
「そうするのは理由がある。もっとも尾崎が出てくれて、ここまで伸びてくれているから、手間が省けた。楽しみにしとけ」
 
 手間が省けた? 楽しみ?? どういう意味だろう。麻吹先生はフォトグラファーだけど、発想に体育会系のところがあるから『楽しみ』は怖いんだけど。ここで新田先生が、
 
「ツバサ先生、準グランプリを選ばなかったのはわざとですね」
「それは結果論だ。わたしとて、尾崎が出場しているのは知らなかったし、尾崎がここまでの腕前になっているのを知らなかったからな」
 
 麻吹先生と伊丹で別れてから音信不通状態だったのよね。西宮学院に合格した時に連絡しようかと思ったけど、なんとなく間が悪くてさ。顧問でおられた時には、まだしもだったけど、辞められちゃうと世界の麻吹先生や新田先生だし、連絡するにも写真の聖地のオフィス加納だもの。

 それはともかく、どうも話が見えにくいのだけど、麻吹先生の当初のプランらしきものは、グランプリと準グランプリの三人を新田先生と二人がかりで鍛え上げるものだったで良さそう。
 
「たいしたものじゃない。尾崎も夏休みの合宿で経験したろう」
 
 あれをやるのか。無茶苦茶シビアだな。
 
「でもツバサ先生は、それでも出て来ない可能性を心配されていたのじゃありませんか」
「マドカには隠せんな。だからオープン化したのだが・・・」
 
 今年になってツバサ杯がオープン化した理由の一つにそれがあるで良さそう。そうなると麻吹先生が望んでいた腕前とは、メディア創造学科の学生レベルじゃ足りなかったって事になるけど。
 
「ああそうだ。尾崎は見たことが無いのか。あんなレベルじゃ話にならんヘタクソだ」
 
 出たぁ、誰でもヘタクソ麻吹節。でもだけど、合宿やったら力は付くと思うけど、それでも期間的に限界がある気がする。
 
「ああそうだ。だから今年のグランプリと準グランプリにはさらなる特典がある」
 
 なんか嫌な予感がするけど、
 
「オフィス加納体験ツアーだ」
「見学ですか?」
「いや弟子の実体験だ。決して見学者扱いしないから、尾崎も楽しみにしておけ。マドカがみっちり鍛えてくれる」
 
 ひぇぇぇ。オフィス加納の弟子扱いだって。それも怖い怖い新田先生が指導するなんて。
 
「アシスタント程度だ。心配するな」
 
 いや心配する。心配するどころか生きて帰れるか心配する。エミ先輩が泉先生や青島先生から聞いた話では、オフィス加納のアシスタントって針の筵とか、地獄の針山巡りだって言うじゃない。
 
「尾崎もプロの現場を見たら参考になるはずだ」
 
 そりゃそうだけど、生きて帰れたらじゃない。そしたら麻吹先生は高笑いしながら、
 
「三人も放り込めば一人ぐらい生き残るだろうの予定だったが、尾崎が来てくれたから一人で済む。マドカ頼むぞ」
「お任せ下さい。しっかり可愛がってさしあげます」
 
 新田先生の挙措動作は白鳥の貴婦人そのまんまの先生だけど、どこか体育会系の匂いがあるんだよね。たしか合気道の達人だったはず。そんな新田先生がしっかり可愛がるとなると。
 
「オフィス加納の弟子教育はすべて真剣勝負の実戦だ。その緊張感を尾崎に味わって欲しい。そういう経験が本当の血となり肉となる」
 
 だからミサトはオフィス加納の弟子じゃないって。そこに新田先生の追い討ちが、
 
「尾崎さん以外なら手加減が必要でしたが、その必要も無くなりましたから全力で取り組ませて頂きます」
 
 手加減無しって絶望宣告みたいなものじゃない。これだったらグランプリいらないよ。そうそう期間は、
 
「心配するな短期だ」
「短期って三日ぐらい」
「出来たら一ヶ月としたいところだが、二週間にしておく。ハワイを合せれば三週間ぐらいになるから間に合うだろう。それぐらいしか現実的に時間も取れない」
 
 さん、三週間!
 
「メシも出すし宿も手配する。とにかく期間が短いからビッチリ行くぞ」
 
 ぎょぇぇぇ、本当に殺す気マンマンじゃない。麻吹先生の勢いなら勘弁してくれないだろうな。それにしても、そこまでミサキを鍛えてどうしようって言うのよ。
 
「ハワイに行ってのお楽しみだ。言っておくがわたしは弟子に無駄な修業はさせない。それだけは安心しろ」
 
 それも知ってる。麻吹先生が教えてくれたことは写真甲子園ですべて必要だったとしても良いもの。よくもまぁ、あれだけ選り抜いて教え込んだと感心するぐらい。でもだよ。まさか西宮学院に入って、あの魂を燃やす時間がまた来るとは思わなかった。せめて、そう思わないと・・・生きて帰れたらだけど。

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