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目指せ! 写真甲子園(第2話)写真部

 カメラも手に入ったから写真部に正式に入部。みんな歓迎してくれた。写真部は野川君が部長だけど、副部長が二年の藤堂君、一年が尾崎さんと南さん。実はって程の話じゃないけど、野川君が入部した時には三年が三人で二年がいない状態だったから、藤堂君も野川君が引っ張り込んだんだって。

 尾崎さんは写真が好きで入部したそうだけど、女性が一人じゃ寂しいから、尾崎さんが南さんを引っ張り込んだぐらいでよさそう。部活動としては、みんながそれぞれに撮って来た写真の批評会が中心なんだけど尾崎さんは、
 
「あれは批評会と言うより、部長の評価会みたいなものです。だって部長の腕前はダントツ、なんてったってB3級ですよ」
 
 写真にも段級制度があるのに驚いたけど、日本の写真教室ならまず八割ぐらいが西川流で、そこでの認定試験で良いみたい。野川君も話に加わって、
 
「やめて下さいよ。B3級なんか、写真教室に何年か通えば誰で取れます」
 
 B5級から始まるそうだけど、だいたいはB3級ぐらいで終わっちゃうみたい。
 
「B2級になればアマチュアでは相当なハイ・レベルになって、そうそうは取れないのです」
「じゃあB1級まで取ればプロとか」
「いえいえ」
 
 B2級も難しいそうだけど、B1級になれば関門と呼ばれるぐらい難しいみたいで、これの取得を目指すのは、
 
「B1級になれば、赤坂迎賓館スタジオの入門資格が得られてA級取得が目指せます」
 
 A級もA1~A3まであるそうだけど、報道写真とか、動物写真、科学写真、写真館の記念写真みたいなプロのカメラマン募集は、最低でもA3級が条件になることが多いんだって。
 
「A級取ったらフォトグラファーにもなれるの?」
「西川流ならA1級の上に師範資格があって、これを取得すれば東京のシンエー・スタジオでフォトグラファーを目指すことが出来るよ」
 
 ひぇぇぇ、まだ上があるのか。
 
「じゃあ、アカネさんもそのコース?」
「違うよ。泉先生はオフィス加納だよ」
 
 フォトグラファーと言っても認定試験がある訳じゃなくて、誰でも自称でなれるそうだけど、
 
「超一流のプロとして売れるのは、シンエー・スタジオかオフォス加納で認められた者ぐらいだよ」
「どっちが上なの」
「オフィス加納だよ」
 
 写真の世界って奥が深いのと、フォトグラファーになるのが、どれだけ難しいのかちょっとわかった気分かな。

 
 ここでだけどトンデモないことを聞かされちゃったんだよ。写真部に危機が迫ってるんだって。写真部は長年の低迷状態が祟って、サークルへの降格を通告されてるんだよ。もっとも野川君は、
 
「削り倒された予算が無くなっても、あんまり変わらないよ」
 
 そうは言うけど、せっかく入った写真部がいきなりサークルに降格なんてイヤじゃない。これも条件があるみたいで、
 
「とりあえず写真部が部として生き残るには」
「条件は写真甲子園」
 
 写真にも甲子園があるのに笑ったけど、他にもマンガとか、プログラミングみたいなのもあるからそんなものか。正式には全国高等学校写真選手権大会。応募はとにかく三人一組で八枚の組写真の作品を出すんだって。これは別に写真部じゃなくても構わない規定だそうだけど。
 
「先輩たちも頑張ったけど、校内予選で敗退してる」
「校内予選って?」
 
 写真部じゃなくたって出場できる代わりに、学校からの複数代表は認められてないんだって。もし写真部以外にも参加希望があれば、校内で調節しないといけないんだけど・・・でも野川君より上手いのがいるのかな。
 
「いるんだよ。宗像君」
 
 とにかく上手らしくて、野川君より上のB2級。今でも写真教室に通っててB1級の取得を目指してるぐらいだそう。つまりはプロを目指してることになる。写真甲子園は、
 
 ・初戦審査会
 ・ブロック審査会
 ・決勝審査会
 
 この三ステップがあるのだけど、去年というか今年の宗像君は初戦審査会を突破してブロック審査会まで進んだんだって。
 
「写真甲子園を避けたら」
「それが・・・」
 
 部の格下げ問題が出た時に、先輩たちは頑張って交渉したみたい。期限を二年ももらったのもそうだけど、条件も写真甲子園の初戦審査会突破にしてもらったのもそうみたい。学園側もそこまで譲歩してくれたんじゃないかと野川君も言ってた。

 ところが宗像君が突然参加してきたそうなのよ。話し合いでの調整を試みたそうだけど決裂。校内予選で対決したんだけど一蹴されたって。でも写真甲子園は一人じゃ出場できないはずだけど、
 
「宗像君だけでも手強すぎるのだけど、他にも諏訪君と浅草君もいて・・・」
 
 いずれも野川君の写真教室の生徒だそうだけど、野川君が通っている時には三羽烏って呼ばれてたらしいのよね。
 
「だから勝てないってこと。来年はサークル活動だよ」
「悔しくないの」
「そりゃ、悔しいけど、差は歴然だし」
 
 でもさぁ、でもさぁ、その宗像君がいくら上手って言っても、写真甲子園で優勝してるわけではないのよね。プロを目指すほどの才能があるって言っても、まだB2級じゃない。つまりはアマチュアだよ。
 
「野川君、勝とうよ」
「そりゃ、ボクだって勝ちたいよ。サークルに格下げになるのだって、せめて写真甲子園の初戦審査会に出たいじゃないか。それさえも出場できないなんて・・・」
「その宗像君って手強そうだけど、詰められない差じゃないと思うんだ。何もせずに負けちゃうのは悔し過ぎるじゃない」
 
 ふと見ると野川君の顔色が変わってる。普段はポーカー・フェースというか、どちらかと言えばクールな感じなのに、あんなに・・・
 
「その通りなんだ。同じ負けるにしても、勝つための努力はする必要はある。でもボクの力では悔しいけど出来ない。部長なのに情けなさすぎる」
 
 野川君の本音はここだったんだ。あんなに諦めきった口ぶりだったのに、本音はなんとかしたくて仕方がなかったんだよ。相手の宗像君のチームは、諏訪君も、浅草君もB3級。高校生レベルならドリーム・チームに近いんだって。

 これにまともに対抗するには、写真部もせめて野川君クラスを三人そろえる必要があるんだけど、現状はB4級の尾崎さんはまだしも、残りの藤堂君、南さん、エミもド素人の初心者。

 今年の新入部員にいれば良かったけど、いないのなら現有戦力の底上げになるけど、野川君は育て上げるのに限界を感じてるんだ。

 そうなのよね。うちの写真部にも顧問の先生はいるけど、完璧にやる気ゼロ。写真の指導どころか部室にさえ来たことがないって野川君も言ってたもの。そうなると指導は部長である野川君の肩にすべてかかる事になる。

 校内予選は、去年は九月に行われたそうだけど、もう六月になるから三ヶ月ぐらいしかないものね。たった三ヶ月で、尾崎さんのレベルアップだけでなく、残りの三人の中から宗像君のチームに匹敵するメンバーを育て上げるのに苦悩してるんだ。

 冷静に現状分析と戦力分析をすれば、戦うだけ無駄になるかもしれないけど、戦いもしないで白旗を挙げてしまうのにエミは納得できないのよ。それと気になるのが野川君の態度。あれだけ、あきらめ切った口ぶりだったのに、エミがちょっと口を挟んだら、あそこまで悔しがるなんて。

 野川君だって本当はあきらめてないはず。何とか出来るなら、何とかしたいはず。エミも力になってあげたい。でも、どうやったら、宗像君たちに勝てるのだろう。エミみたいなド素人を、たったの三ヶ月足らずで勝たせる魔法の手段なんて・・・

 いや、ある。きっと、あるはず。エミはお父ちゃんの娘。お父ちゃんは、今までに何回も、もうダメって状況に追い込まれてるけど、絶対にあきらめなかったし、頑張って、頑張って乗り越えているし、それもエミは見てる。

 こういう時はじっと立ち止まっていても活路は開かないはず。動いてこそ、どこかに突破口が見つかる可能性がある。お父ちゃんは、這いつくばるように動き回って、ついに見つけて来たんだよ。エミの摩耶学園への転校もそうだった。あきらめるもんか。

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