目指せ! 写真甲子園(第16話)お正月
今日は正月三日。ユッキーのところにお年始に来たのだけど、
「待っとったで。もう始めてるさかい」
みんな来てるな。アカネも、マドカも、シノブちゃんも、ミサキさんも。家族連れだから、さしものリビングも狭く感じるな。大人も子ども一緒になって遊ぶ、遊ぶ。なにしろ先頭に立ってやってるのがコトリちゃんとユッキーだからな。それも本気と言うよりガチ。
「次はカルタやるで」
子ども相手にいろはカルタやった後に、二人は袴に着替えて来て、
「今年は勝つで」
「返り討ちよ」
百人一首カルタやったけど、
『バシッ』
札が壁に突き刺さりそうだものな。いや鏡餅に三枚ぐらい突き刺さっていた、
「今度は羽子板」
羽子板だって、ありゃ、羽子板じゃないよ。二人とも振袖に草履だけど、襷をかけて、
「カルタは負けてもたが、羽子板は譲らん」
「今年は負けないよ」
始まると、
『ピシッ、バシッ、ピシッ、バシッ・・・・』
バドミントンの世界選手権みたいじゃないか。あんなものまで何百年の技能の蓄積があるみたいだ。
「よっしゃ、次は新春映画大会や」
ここには映写室もあるから、子どもたちはそっちに歓声をあげて移動。そこから、
「新年あけまして、おめでとうございます」
大人連中も飲めや歌えやの大騒ぎ状態。やっと落ち着いて、
「シオリ、エミさんところありがとう」
「頼まれてたしな」
ユッキーやコトリちゃんたちが、エミさんに目を懸けてるのは知ってたから引き受けたが、
「あそこまでやってくれると思わなかったわ」
「まあ、乗りかかった船だから」
最初は何回か付き合ってあげるだけのつもりだったが、若いってイイね。あれだけ一生懸命に頑張る姿を見せられたら応援したくなってしまうだろ。かなりハードだったと思うけど、しっかり付いてきてくれるし、目に見えて成長を感じるから楽しくて仕方がないってところかな。
それとエミさんもイイ子だ。ユッキーたちから複雑な生い立ちを聞いているけど、そんなことを微塵も感じさせないものな。絵に描いたような健気な子で、そこに居るだけで応援したくなってしまうのは良くわかったし。
エミさんだけじゃない、野川だって、尾崎だって、藤堂だって、南だって気に入っている。ああやって一丸になって目標に突き進む姿を見れるのは気持ちがイイもんだ。お蔭で仕事が溜まり気味になっているところがあるが、そんなもの小さな事だよ。
「シオリの頃もあったんだろ」
「あの時は悔しかったよ」
麻吹つばさ時代は選手にもなれなかったが、加納志織時代は初戦審査会に参加しているからな。
「シオリでも合格しなかったんだ」
「実力の問題もあったけど、組み写真が何かわかっていなかった気がする」
そこにマドカが、
「そこがあの大会のポイントですよね」
「マドカはブロック審査会まで進んだんだよな」
「ええ、新マドと組んで出たのですが、ツバサ先生と同様に、組み写真が何たるかがわかっていなかった気がします」
写真の世界に団体戦はない。あれは純粋な個人競技で、その技を競うものなのだよ。それが写真甲子園は団体戦の要素を持ちこんだところに妙味がある。ユッキーが、
「そんなに違うの」
「まったく違う。個人でも組み写真の作品を出すが、一人で考えるから、全体の構成は立てやすいのだ」
「そうなんですよね。団体戦になると三人の思惑が一致しないといけないのです」
そこ。単に写真の上手い三人組がバラバラに撮った写真をかき集めても作品にならないってこと。三人がどんな作品にするかの意識を共有しないとならないのが勝負のポイントになる。タケシも顔を出して来て、
「ボクも初戦審査会で沈没した方ですが、技量もそろってないとダメなんですよね」
組み写真はハーモニーでもある。八枚の写真が奏でるものが一致しないと不協和音が出てしまう。一人が飛び抜けて上手いと、チームとして作品にした時に逆効果にもなる時があるのが怖いところだ。もちろん逆もある。アカネまで入って来て、
「そうそう。うちの高校の写真部は東野の野郎がダントツだったけど、アイツは協調性がゼロみたいなもんで、初戦審査会でアウトだったもの」
「アカネに協調性があるとは思わんし、高校の時のアカネの技量なら、誰と組んでも足を引っ張ってるぞ」
「うるさいわ。選手にも選ばれんかったけど」
サトルも懐かしそうに、
「ボクらの時は今ほどの写真ブームじゃなかったから、残り二人のメンバーさえ集められなくてエントリーさえ出来なかったよ。あの頃は夢だとしか思えなかったし」
アカネは除くが、残りのオフィス加納のプロは高校時代でも飛び抜けていたとして良い。それでも誰も出れなかったのが写真甲子園。サトルがポツリと、
「出たかったな」
そしたら、
「マドカもです」
「ボクもそうです」
「アカネだって北海道に行きたかったもの」
もちろんわたしもだ。摩耶学園写真部だが、テクの方は高校生レベルにしたらかなり上がったはずだ。もっとも、全般に上がったと言うより、必要なパーツのみを特化して伸ばしている。全部上げるには時間もなかったしな。つまり三人の秀でたところを上手く集めて作品に出来れば十分にチャンスがある。
「それにしても意外な才能ですよね」
「ああ、あれ程とはな」
どんなに指導をしても身に付けにくいのがコーディネートだ。いかに写真を選び組み合わせる能力として良い。その天性の能力がエミさんにはあるとして良い。校内予選の時の様子も聞いたが、
『最初の組み合わせの何が悪かったのかな』
『尾崎さんの部分が弱く感じたものですから』
それがわかるのに感心したし、
『次の組み合わせでなにが不満だったのかな』
『尾崎さんの写真が強くなると、野川君の写真とリズムが合ってない気がして』
そこまで見えるのはまさに才能。写真甲子園で一番求められる要素かもしれない。ひょっとするとアカネに匹敵する才能の持ち主かもしれない。まだ判断するには早すぎるがな。ここでマドカが、
「やはり弱点は尾崎さんだと思います」
「だいぶ良くなってるが、やはり穴だな」
尾崎の写真の最大の欠点は早くからレタッチに走ってしまった点だ。レタッチ技術も必要だが、あまり早くに走ると背景がお留守になる。そりゃ、不要なものは後から消せるからだ。しかし写真甲子園ではレタッチどころかトリミングさえ殆ど使えない。
だからマドカに指導させた。マドカの写真には一切の無駄がない。ファインダーの中で完成させてると言えば良いだろうか。それぐらいはプロなら当たり前だが、マドカはとくに秀でているし、さらにそれを理路整然と説明する事も出来る。これはアカネには逆立ちしても無理だ。
「どうしてアカネを引き合いに出すのですか」
「わかりやすいからだ」
「ツバサ先生だって出来るのですか」
「アカネよりは百倍マシだ」
マドカも良くやってくれたが、いかんせん付け焼刃で、ちょっとでも油断すると背景がお留守になる。校内予選会の写真がそうだった。これをなんとかしたいが・・・それは年明けの課題として、
「コトリちゃん、小うるさい親っさんの処理を頼んで悪かった」
「かまへん、かまへん」
わたしと辰巳であれほど目に見える形でケリをつけてやったのに、宗像の親父は執拗だったのにはウンザリした。そりゃ、大会終了後に役員室に怒鳴り込みに来てたからな。あのクソ親父の主張は、
『写真部顧問の麻吹先生が審査した結果は承服しがたい』
それ以前に失格だっちゅうの。ここもだが、辰巳がいればあのクソ親父でも逆らわなかったと思うが、辰巳は審査が終わるとすぐに帰りやがった。まあ、あいつも忙しいから、ここは文句も言えないところだ。小豆田先生は、
『あれだけの不正を行えば停学から最悪退学もあるぐらいのケース』
こう頑張ったのだけど、気にもしやがらずに失格の取り消しと再審査の要求を吠えまくりやがった。聞いているとわかったのだが、クソ親父が頼みにしているのは学校での自分の地位で良さそうだった。
簡単には多額の寄付をしてるってやつ。PTAの役員もやってるし、来年はPTA会長も有力って奴だろう。小豆田先生も話が学校上層部に上がると厄介と考えて宥めていたようだが、クソ親父の狙いはそこでもあるから、ひたすらゴリ押しだった。
辰巳を呼び戻して西川流からの破門をちらつかせるのも考えたが、そこまでやらせるのはさすがに辰巳に気の毒じゃないか。だからクソ親父がカネの力でゴリ押しするのなら、カネの力で凹ませようと考えたのだ。
御手洗を口実に中座してコトリちゃんに連絡。コトリちゃんもエミさんの結果を気にしていたから喜んでくれたけど、
「エクア開発の宗像社長? ああ、あそこか。すぐに処理するわ」
役員室に戻ると真っ赤になって怒鳴りまくる宗像の親父がいたけど、アイツのスマホに電話が入ったのよね。電話を取った宗像の親父だけど、あっと言う間に顔色が、
赤 → 青 → 土気色
こう変わったものな。
「なに話した?」
「別に。シオリちゃんが友だちで、エミさんも知り合いで、ユッキーも目を懸けて応援してるって話をしといて、
『息子さんは残念でしたね』
こう言っただけやで」
そりゃ、震え上がるわ。スゴスゴ引き下がったものな。ここでミサキちゃんが、
「宗像のお父さんのエピソードは不要ではないですか」
そしたら、コトリちゃんとユッキーが顔色変えて、
「だ か ら、こうでもしないと出番が無いじゃないの」
「そやそや、外伝でも真の主役はコトリだし」
「違うよ、わたしだって」
ミサキちゃんに聞いたら出番が減ってるから気にしてるみたいだ。
「この作品の主役はわたしだからな」
「違うよエミちゃんだよ」
「どうしてだ・・・」
おかしいな、わたしが主役のはずなのだが。