恵梨香の幸せ(第27話)旅行
康太の主義として遊びに出かけるのは、とにかく気軽にがあるのよね。思い立ったらさっと出かける感じかな。前に出石に出かけた時の感じがそうと思ってもらえれば良いと思う。
でも旅行となるとさすがにそうは行かないのよね。これも康太はやった事があるそうだけど、まだネット時代の前だったから、とにかく大変だったそう。だいたいのコースは決めて出かけたそうだけど、
「お昼過ぎたら、ひたすらどこに泊るか観光ガイドとニラメッコしてたよ」
学生時代だったそうだけど、予算に限りがあるし、その中でちょっとでもマシなところに泊りたいし、宿だって部屋だって、観光ガイドの写真とは大違いみたいで大変だったみたい。だからちゃんと宿の予約も取って旅行に行ってる。
恵梨香は国内旅行も好きだけど海外旅行も好きなんだよね。もっとも独身時代のお給料じゃ、そうは何度も行ってないけどね。でも康太は海外旅行は苦手そう。海外旅行と言えば時差ボケだけどかなり強いらしい。恵梨香だってあるけどかなり辛いみたいんだ。
もちろん一切お断りって程じゃないけど、結婚してからはまだ行ってない。焦らなくとも、これだけはまだまだ時間があるものね。だから行ったのは国内旅行だけ。康太も恵梨香が海外旅行に行きたいのは良く知っていて、
「行く時は新婚旅行にしよう」
康太は約束を必ず守ってくれる。恵梨香もその日まで新婚気分を失ってなるものか。そこまで気合を入れなくても良いけど、今度の旅行は結婚してから最長の旅行。最長と言っても距離だけど北海道。
旅行の準備も康太のお手軽主義が出てるのよね。バッグに三泊ぐらいのセットを常に組んでるのよ。それ以上になれば足す感じ。恵梨香は康太ほどお手軽に出来ないけど、ある程度は組んで置いてる。
康太の旅行は他にも特徴があって、行先にもよるけど、とくに初めて行った場所なら市内観光的なものをよく利用するかな。そうバスとか、タクシーでよくあるやつ。それでまずメジャーなところを制覇しておいて、それからその他を回って行く感じ。
ただ今回は康太のお手軽主義でも無理があった。夕食の話題がなんとなく北海道になったのよね。恵梨香も国内は割と行ってる方だけど、北海道はなぜかまだだったのよ。計画はしてたんだけど、一緒に行く子の都合が悪くなったり、逆に恵梨香の都合が悪くなったり、台風で飛行機が欠航してアウトもあったんだよ。
そしたら康太もそんなところがあったのよね。康太の場合は白川郷みたいで、何回チャレンジしても行けてないってしてた。北海道はって聞いたら、
「小学校の時に家族旅行で行った」
札幌でも学会が開かれるそうだけど、
「札幌の学会は人気があって、いつも留守番だったよ」
そしたら二人で無性に北海道に行きたくなったぐらいかな。ただしばらく週末は、あれやこれやと用事があったんだよ。康太の急病診療所の出務や恵梨香の休日出勤、それと恵梨香の祖母の法事。そしたら康太は、
「だったら今週末に行こう」
たしかに週末は日月連休だけど、今からだし無理と思ってた。それにだよ恵梨香は三連休だけど、康太は土曜日の午前中は診察があるのよね。期待せずに待っててくれって言われたら金曜の夜に、
「行けるぞ」
康太が言うには、それなりのハイ・シーズンでも直近になるとキャンセルが出ることが多いんだって。それは恵梨香も聞いたことがあるけど、康太はギリギリまで粘ってチケットをゲットしたらしい。
「でも北海道に二泊三日って無理があるじゃない」
「だから札幌に絞る」
診察が終わると急いで帰って来た康太と神戸空港へ。神戸空港からは千歳に結構飛んでるので助かった。十五時半のスカイマークで二時間足らずで千歳に到着。そこから札幌にどうやって向かうかと思ってたら、空港の地下までJRが来てた。千歳からは十分おきに出る快速エアポートに乗るのだけど、うわぁ結構並んでるよ。
「札幌までどれぐらい」
「三十七分ってなってるけど」
それでもなんとか座れて六時半にはホテルにチェックイン。ホテルは気持ちリッチ目のビジネスでダブルベッドだった。
「夕食は」
「札幌に来たから、すすき野に行こう」
すすき野もたくさんお店があるのだけど、康太は医者仲間に連絡を取って予約しておいてくれた。と言っても居酒屋だけどね。でも店に入ると予約席以外は満席だったから助かった。店は上品とは言えないけど活気があるし、メニューを見てもリーズナブルというより安い。
「毛ガニ食べなきゃ」
「ウニもイクラも」
「カキもイイけど、ジャガイモも」
「イカよイカ、エビも食べたい」
二人であれこれ注文して、サッポロビールで、
「カンパ~イ」
康太は旅行の時に、どひゃんと高級旅館に泊まることもあるけど、ある程度の都会ならビジネスホテル利用で外に食べに行くパターンも多いのよね。今回はそもそも定山渓温泉とかは時間的に無理もあったから、まともに来てもこのパターンだったかも。
「明日は」
「豪華一日バスツアー」
でたぁ、と思ったけど、
「昼はすすき野のラーメン横丁で、夜はビール園でジンギスカン」
「やったぁ」
どっちも札幌に来たからには行きたかったところ。
「クラーク博士の像は」
「羊ヶ丘展望台も入ってるよ」
他にも最初に中央卸売場外市場に行くそうだから、
「お土産買おうね」
「もちろん」
二人でテンション上げながら食べてた。これがなかなか新鮮で美味しいのよ。
「このホタテはイケるよ」
「つぶ貝もなかなか」
羊も食べたかったけど明日がビール園でジンギスカンだからお預けにした。それにしても北海道って来るだけなら思ったよりお手軽なのにちょっとビックリした。札幌だったら神戸から三時間ぐらいで着いちゃうのよね。
そうなのよ東京に新幹線で行くのと変わらないぐらい。交通費だけだったら安いぐらいじゃない。こんなに簡単に来れるのなら、もっと早くに来たら良かった。
「また来ようね」
「まだ着いたばっかりなののに気が早いね」
言うまでもないけど北海道は広い。札幌に行ったぐらいで北海道を語るのは烏滸がましいかもしれないけど、これだったらまた来れるものね。
「知床もいつか行ってみたいよな」
「それって花咲ガニ」
「それもあるけど世界遺産」
明日と明後日で札幌をそれなりに回ったら、やっぱり次は小樽かな。小樽と言えば、
「やっぱり鮨よね」
「北一硝子と思った」
硝子工芸品も魅力だものね。康太は函館にも行きたいみたいだけど、
「イカ飯に函館ラーメンよね」
「それも食べたいけど五稜郭に行ってみたい」
函館の夜景も綺麗なんだって。他となるとやはり旭川か、
「旭川ラーメン有名だものね」
「動物園も見どころだよ」
明日は焼きトウモロコシも食べたいな。明後日でもイイけど、アイスクリームも美味しいところがあるはず。そりゃ、牛乳の本場だものね。生キャラメルもお土産にしなくちゃ。
「康太、何見てるの」
「幸せそうな恵梨香の顔だよ」
食い意地が張ってるのは自覚があるけど、康太は恵梨香が美味しい物を食べてる顔が大好きなんだよね。恵梨香の顔を見てるだけで、料理の味がアップするっていつも言ってくれてるぐらい。
「この顔に康太は惚れたとか」
「ああ、ベタベタに惚れてる」
これはお世辞じゃない。康太は本気でそう思って恵梨香に言ってくれてる。本当を言うと心のどこかで、どうしてこんなビヤ樽狸のビッチの恵梨香をこんなにも愛してくれるのか不思議な部分は残ってるけど、食事が終われば体で証明してくれる。恥しいけど恵梨香の体はスタンバイ状態になってるもの。
今日はラブホじゃないけどホテル。それも旅行先のホテルだから恵梨香を次の段階に康太は連れて行ってくれるかもしれない。どうなってしまうのか怖い部分はあるけど、ワクワクしてる恵梨香もいる。
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