映画「レミングたち」の覚書 |#18 撮影の記録とこれから
番外編です。今回「レミングたち」では脚本から監督から何でもかんでもやってしまいましたが、やっぱり僕の目指すところは撮影監督です。これまで気持ちの面ばかり書いてきたので、ちょっとはそれらしく撮影の意向に関しての記録も残しておこうと思います。あと、作品の今後についてと、ミニシアター・エイドについても触れてます。
撮影について
カメラはPanasonic EVA1、レンズはSigma Art 18-35mm f1.8 / 50-100mm f1.8 EFを主に使用しました。基本的には若干絞ってF4.0前後を基準にして、レンズの描写を十分に活かせるようにしました。癖のない、悪くいえば味のないレンズですが、今回の内容においては無機質な雰囲気も欲しかったのでちょうど良かったと思います。4Kにも十分に耐えうる、シャープで非常に満足の行く描写が得られました。Sigmaの同じシリーズのレンズなので画のルックも統一でき、ズームレンズで機動力も確保でき、この規模だと非常に恩恵を得られる理想的なセットアップだと思います。ごく一部で演出的な狙いでCONTAX Planar 50mm F1.4を使用しています。
5.7KセンサーでC4K(4096*2160) Long GOP 10bit 422 23.98p でカメラ内部収録しました。全てV-Logで収録しています。一部ハイスピード撮影時は2.8Kセンサーで2K 10bit 422 60 ~ 120fps で収録しています。
基本的には物語に沿って、しっかりと三脚を据えて堅い落ち着いた画作りを目指しました。なるべく禁欲的な、動きの少ないカメラワークを意識しています。NDフィルター以外の演出的なフィルターワークはしていません。
ここぞというところで動きが欲しいカットでは、GH5sをRONIN-Sに載せて撮影しています。Speed Booster MFT → EFで同じくSigma 18-35mmを使用しています。照明機材をほとんど用意できなかったので、デュアルisoを積極的に活用しました。また、両カメラともV-Log(GH5sは正確にはV-Log L)で収録できるので、ポストでの色合わせにも苦労しませんでした。2つを並べると、やはりハイライトの粘りはEVA1が強いと感じました。
一部シーンでDji Mavic 2 Proで空撮しています。ドローンのオペレーターは板垣真幸さんにお願いしました。
現場のスタッフは僕の他に助監督、撮影照明助手、録音、ヘアメイク、スチルカメラマンの多くて6人だったので、機動力を重視して以上のセットのみで全て撮影しています。
AccsoonのCineEye HDMIで映像をiPadに飛ばし、Ronin-S使用時のフォーカスプラーや、助監督やヘアメイクなど適宜必要なスタッフへのモニタリングとして活用しました。無線であるため非常に柔軟性の高い動きが可能となりました。
照明機材はNeewerのLEDパネルを2灯、Aputure LS C120d IIを1灯でやりくりしました。同じく機動力の理由で、なるべく太陽光を活かす方向で考えました。ある程度照明プランを考慮した脚本を書き、ロケ地を選定した、という側面もあるので無理なく撮影できました。一方で、全て自分で決めるとどうしても実現できそうなことしかやらなかったので、良くも悪くも尖ったもののない収まりの良い作品になってしまったとも感じます。
ロケハンの時点でGH5でV-Log収録した素材を残しておき、事前にカラーの方向性を決めてLUTを作成しました。暖色に寄せて落ち着いた印象の、しかしコントラストははっきりしたルックを目指しました。シャドウしっかりと締めて、ハイライトは少し落ち着かせてギラギラとさせない印象を目指しました。30分の視聴時間も考慮して、あまり過剰なルックにならないように気をつけました。現場ではBalckmagic Video Assist にLUTを入れてモニタリングしました。カラーグレーディング時もほぼそのLUTを活かしていて、多少コレクションする程度で済みました。
これから
本日、本編の仮完成版の書き出しを終えました。これを関係者方にご覧いただいてフィードバックをいただいたのち、最終調整をして映画祭に出品していく予定です。
改めて、この覚書で記した16人と、この作品にお力添えいただいた全ての方に感謝を述べたいと思います。おかげで悔いのない良い作品を作ることができました。
本当に、ありがとうございました。
ミニシアター・エイド
そしてちょっとだけ話が逸れますが、最後にミニシアター・エイドについて紹介させていただければと思います。
「レミングたち」もいずれは劇場のスクリーンで上映されることを考えて制作しました。やっぱりなるべく大きな画面で観て欲しい。そんな我々インディーズ映画の制作者にとってはミニシアターは必要不可欠な場所です。
そのミニシアターが、今危機に瀕しています。
"「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」は新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令され、政府からの外出自粛要請が続く中、閉館の危機にさらされている全国の小規模映画館「ミニシアター」を守るため、映画監督の深田晃司・濱口竜介が発起人となって有志で立ち上げたプロジェクトです。"(公式ページより)
ただ、今現在、日本も世界も本当に大変な状況です。正直に言うと、僕は映画という文化が命に変わるものである、とまでは言いきれません。もっと大事なものはあると思っているし、もっと死活問題の業界もあるはずです。伝え聞く話でしかありませんが、特に医療現場は凄惨な状態だとも聞きます。
ただ、これらの状況がいずれ落ち着いた時、映画をはじめとした様々な文化活動が"生きる意味"の部分を助けてくれる存在である、とは信じています。
言い方は悪いですが、衝動に突き動かされて映画を作るような人間は、たとえ何人死のうがどんな状況になろうが全て途絶えてしまおうが、いつかはまたどこかで勝手に産声をあげて作り始めるだろうとも思います。けれど、作ったものを上映するための場所は気持ちだけではなく設備と技術が必要で、一度死んでしまうとなかなか取り戻すことができません。
もしも、この活動にご賛同される方がいらっしゃれば、ほんの気持ちだけでもご支援いただけると幸いです。
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