山上にあるその村には一年に一度、十五夜に昇る朱い月の怪異伝承があった。一人の猿回しを遠因とし、集落から、いや。もっと詳しく言ってしまえば、村民から端を発したその怪異は後々に。そして、今の今までにあたる所の現在ですら人間を自然に還すきっかけとして障りを与えている。 戸を閉めよ。 窓を閉ざせ。 目隠しをしろ。 そして。 村を歩くな。 昔からの伝承で、村民は知っている。その日。障りに触れぬ、十五夜の過ごし方を。 ◯ 弟が家の玄関を潜らなくなって、
おや、またまた来たのかい?いやはや君も無類のもの好きだ。 いや魔女好きだ。 この魔女狩りが横行し徘徊する世界の一端で、行ける学校がある身分で、通える立場にある君が、此処に来る理由も来るべき事情もない気がするのは私だけかもしれないね。 まぁなんだせっかく来たんだゆっくりしていくといいさ。 止めはしない。 だけれどだ。まぁ私の元を訪れた事についておおむね察してはいるが、あえて意地悪をしよう。 なぁにそんなに身構えなくてもいいさ。 人間は誰しも、それこ
山の気候は変わりやすいとはよく言うものだが今日の変わり方は不思議、いやどちらかと言うと不気味な変わり気ぎがあった。 「稲荷山自体が神体山とは聞いていたが、空の顔がここまで変わるともはや異界だな…」 そう、今日は日帰りで伏見稲荷へ観光に来ている。折角ならと山頂の一ノ峰まで向かう道中だった。 下の本堂での参拝の時には、この初夏の時期だ。幼少の夏休みという言葉が似合う程には快晴だった。 だが上に登るにつれ、鮮やかな浅葱色が水浅葱に変わり、三ノ峰みね辺りで空から青が抜け
辺りを見ると古民家の一室、蝋燭についた灯が4本ほど部屋の端に、中奥に1本立っている。 その部屋の中央に1人の人物が片膝を曲げて、腰を据えている。 この世の人間とは思えない雰囲気の、恐ろしく端整な顔立ちの男か女かもわからない人間が、その人が口を開く…。 「おや、怪訝な顔をしてるね、此処は【物語】を紡ぐお店だ。売ったり、追体験をさせてやれるわけじゃない、ただ紡がれるのを待っている【物語】たちの住まう場所なんだ」 店主は続けた。 「今回君に、紡がれる語りは【帝】につ
奇抜で奇怪な浮世絵を描く鬼才絵師がいるってんで、此処大江戸。 下町の一世を風靡しているこの噂。 それがまぁどんなものか気になりゃあせんって言えば嘘になる次第で、一度心向くまま気の向くままってな言葉もある通りにその浮世絵を見て回ったんですぜ、アタイはね。 するとどうだい、いやどうしたってんだい。絵が特別綺麗ってわけじゃあないんでさ。描かれているものがね? まぁ珍妙にして絶妙、奇奇に怪怪なものばかりなんでさ。 まぁまぁ何を言ってるかわかんねぇっていうのもわか
◯ すみません、先生。貴方を殺したのは〇〇です。 何処にでもある高校の、何処にでも居るような一人の女性教諭が亡くなった。疑いを掛けられたのは、嫌疑がかけられたのはその女性教諭が受け持っていたクラスの生徒14人。 学校に訪れた一人の刑事。一人一人に事情聴取をした一部始終の記録である。 それは、刑事故の懐疑心か。はたまた一人の当事者としての猜疑心か。 心は伝染る。呪いのように…。 ◯ 一人目 一【にのまえ】。 なんだよ、いきなり生徒指導に呼ばれた
その山を取り囲むように、その山だけを避けて通る様に四方八方が燃えている。そう、焼けている。 読んで字の如く、焼け野原とその上に横たわる戦人の死体。その数、百では収まらず、千を遠に超え、何万と広がっていた。さながら地獄絵図という言葉が合うも合ったり、更に言わせてもらうとするなら地獄みたいと言うより地獄そのものと言った光景だった。 地に刺さる日本刀。血濡れの手に握られた重藤弓。鏃が穿たれ砕けた兜。 いつ来るかもわからない天下泰平への想いのもと散っていったであろう何万も
さて、今から語る纏屋に纏わる六章目の物語に行き着いた。否、連れ去られた男の話を物語の基礎として基盤である所の起承転結の"起"。そう起こりとして綴って差し上げようと思う次第です。 この地の文を語っている私の事は言うまでもなく。否、言うべくもなく。知る必要すらも無い。読み手である所に何者でもない君たちが座しているように、紡ぎ手である所に当てられた私も何者でもないしもしや、よもや人間ですら……無いのかも知れないのだから。 ◯ 始めまして。窃盗犯です。 なんてそん
おぉ、ちょいちょい。 フリック・クリックで早々に別のとこ開こうとしないで、聞いてくださいな今見てるお人?御仁?姉さん?兄さん?兄弟… まぁなんだっていいんですけどね、少しばかり見慣れた生まれ国の文字を目で走らせるだけじゃないですか。 旦那、、、いや女将? 小さいことはおいておきましょっか。 たかが男か女かの、とんでもなく小さい事なんですから。 まぁね,今日ついさっきお仕事と言う名の お勤めを終えて、まぁお勤めなんて言うと なんとなしにエッチな響きで書いてる今
後ろ髪を引かれる。 なんて言葉がこの日の本には昔からあるようで、改めて紹介する事でもない程に一度は聞いた事のある言葉だ。 実の意味合いとしては、後ろめたいことがある、悪気があった訳ではないけれどもしかして、私があの時……なんて言う悔恨や自責と言った念を含み纏った言葉ではあるがこれは言葉。そう、ただの言葉だ。 漢字とひらがなを主に使った表現の1つ、残酷なほど徹底して表現であり、顕現なんて偶像にして妄想な程、ただただ表明の為の一手段だ。 けれど、だけれど今から話すそ
其の最終処分場。 今は使われず廃墟となったが数年後。別の名称で名所として名が上がる。 時は昭和前期。発展途上で上場の日の本で都市に、蔓延り始めた伝説に混じりその名称は陰りを落とす。 お通りゃんせの孵り道。(おとおりゃんせのかえりみち) 今から紡ぎそして語られるのはその廃墟となった廃棄場で起こった悲惨的で凄惨的なとある母子の惨劇である。 見出しにして乱し。起。 この私、轡田詩織は今から我が子を捨てに行く。そして捨てて行く。 此処だけを読むと酷く、そして冷