付記 ~芝浦工業大学名誉教授大倉典子先生のコメントから~
この画期的な検証は、長きにわたって埋もれたままでした。
実は、欧米において「感情」はあまり高い関心を引く話題ではありませんでした。欧米の考え方の基本は「何でも論理的に説明することができる」、つまりロゴス優位(ないしロゴスとパトスを別物として扱う)だったからです。欧米がパトスの重要性に気づいてから変化が起きました。(アジアでは昔からロゴスとパトスが不分離)
そうして感情への関心が高まっただけでなく、それを心理学的だけでなく、工学的に研究する人も増えてきました。また、数値として表される生体反応データから感情を推測しようとする、自動計算しようという動きも出てきました。電子工学系のカンファレンスでもエモーションという言葉がトレンドになってきました。
そんな中で、「(プルチックのモデルよりも)論理的説明がつき、一次関数によって数値を当てはめられる」という有用性が注目され、「ラッセルの円環モデルは発掘された」のです。
そしてついにACII(Affective Computing & Intelligent Interaction) 2017にラッセル氏本人が呼ばれました。(大倉先生もそこでラッセル氏本人と会うことができたそうです。)
「わくわくの数値化」とラッセルの四象限
脳波を感性工学で研究する際、「ATTENTION・集中(第二象限)」と「MEDITATION・リラックス(第四象限)」で感性が測られてきました。そして前者はβ波優位、後者はα波優位であり、β優位はある意味「緊張しているなど、悪い状態」とされていたということです。
(論文中でもリラックスと双極を成す用語は「苦痛」でした。)
しかし、この考え方ではβ波が優位であっても快方向の感情が存在することを説明できない。そして、第一象限の感情「わくわく」というものが定義されるようになりました。その定義にあたっても、ラッセルの円環モデルは注目されました。