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4/17(日) 早慶レガッタ ~クルーとボクと、GoPro、ドボン~

4/17(日) 早慶レガッタ ~クルーとボクと、GoPro、ドボン~


 早朝4時にアラームで目覚め、計量に向けてトイレを必死に我慢しながら、夜明けの空の埼京線に乗りました。念の為の追加の予備パーツと、レース直後に食べるモノを沢山詰めたバッグは重く、減量中の体に食い込みます。車内で2ndの後輩COXと目が合いましたが、私は出来た先輩ではないので、軽く挨拶をして後はレース動画を観ていました。理想的なコールをした先人の音声、良い舵を引いたOBの動画、そして早稲田の勝利を称える応援部と観客のビデオ。全てを取り組み再現できる様、感覚を研ぎ澄まし、イメージを鮮やかにしていきます。
 浅草駅から割り勘でタクシーに乗り、大舞台の舞台裏へ。ありとあらゆる箇所を点検し直し、当日朝練習に向かうと、大潮の流れは想像以上でした。しかし、練習から上がったとき、クルーの完成度が全ての不安を取り払ってくれました。
 “あみ清”でコース検分に行って、COX計量を済ませ、開会式が終われば、残りは全て決着の瞬間に向かって時間が流れます。
 高校生の無念を知り、女子クォドの快勝に歓喜し、2ndエイトの結末をスマホ越しに見届けて、いよいよ我ら対校エイトの出番です。
 仲間たちがここまで組み上げた舞台は、自分たちがゴールした後は即座に解体されていきます。ステッキが浮かび、ランドマークが精密に示され、横断幕が堂々と張られたこのコースは、何か月も色んな人が何本かのレースの為だけに用意してきたものです。
 スタートに向かって波に揉まれつつ、「次にここを通れば全て無くなるのか」と少し寂しさを覚えながら、集中力は高まっていきます。アップが終わってクルーの緊張感が漂っているスタート付近。波で体が少し浮いた次の瞬間、頭が ふっ と軽くなりました。比喩ではありません。またしても、またしてもやらかしたのです。OBから預かった記録用GoProはヘアバンドごと隅田の黒い水面へと消えました。沈むように溶けていくように……。「あぁ!やらかした!」と叫ぶと、クルーに痺れるような緊張が走りました。GoProを今年も落とした事を伝えると、先程までの緊張は全て解け、クルーの表情から強張りが消えました。
 5万円分の緊張が隅田の水底に沈んで行き、スムーズにスタート地点に並んで、その瞬間を迎えました。
 理想の運びで両国に着いて、どうにか思い通りのコースでカーブし、波が消えればアタックを入れ、また荒れて、慶應も近付いて、その時「紺碧の空」がゴールから聞こえて、逃げ切れたのか分からないままでゴール直後に「ラスト1本、イージーオール」のコールをして、完漕を告げました。瞬間、目の前で主将が力強く両腕を上げるのを見て結果が分かりました。
 主審艇の白旗がレース終了を示し、おびただしい数の後続艇や待機艇が次々と押し寄せ、大波に揉みくちゃにされながら船台へと向かいました。凱旋のように桜橋をくぐり、黒山の人だかりの一人一人に祝われて、私達9人は泣いていました。
 そこからの流れは目まぐるしく、濡れて冷え切った体に急いで学ランを纏います。まだ結果を実感できていないまま閉会式に参加しました。荷物をまとめ、コックス関連の大事な備品を幾つか回収し、帰路につきます。このコースを通す為に散々歩き回ってくれた仲間を見かけ、二~三言葉を交わすと、もう日は傾いで西日が眩しかったです。現場作業で居残る人々に申し訳無さを感じつつ、一人浅草駅へと向かいます。
 戸田に着くと時刻は19時前。先に帰ったクルーたちが打ち上げ場所を予約してくれていたみたいです。戸田のボート民お馴染みの定食屋の人たちはレースをライブ配信で見守ってくれたそうで、色々とサービスしてくれました。
 驚くことに、慶應の対校に乗っていた同期から連絡があり、「一緒に飲んでも良いか」とのことです。慶應の対校クルーとして戦った9人のうち3人が途中参加してくれました。
 きっと彼らにも立場があるだろうに、ボートの話、部内の人間関係、高校時代、そして今日のレースの話など、楽しく話し、飲み交わすことができました。
 入賞も敗退もなく、勝敗だけのこのレース。異常な程の気持ちや長い歴史が渦巻く、大荒れの隅田川を一緒に漕いだ彼らは、レースが終われば当然遺恨など無く、この日初めて話をした選手たちのことも非常に好きになりました。
 昨年の敗北が無ければ、今年これ程の完成度と自信を隅田に持ち込むことはできなかったと思います。50cm・0.3秒の差なんて、それが無ければ簡単に返されていた筈です。
 この日を迎えるまで、当然嫌なことはありました。当日だって想像以上に川は荒れていました。でも、クルーの気持ちだけでなく、この舞台を用意してくれる全ての人に報いるには、一切手を抜かず当日は完漕する必要がありました。準備に携わった全ての人のお陰でレースを成立させることができ、それに応えることで、9人で勝利を収めることができました。
 この日記を読んで下さった人達にも、お礼を申し上げます。皆さんに言わば「見張って」もらえたことで気を抜かずに頑張れた気がします。この手書きの日記を打ち込み、ブログを更新し続けてくれた同期、忙しい中毎日読んでくれた同期マネ、入寮前に読んでいたという新入生、ガッツリ読んでいるという同期のお母様、コッソリ読んで下さった皆様、そしてこれから読んでくれる未来の読者の人たちへ。素人の文章をここまで読んで下さってありがとうございました。
 私自身、ボートのことだけでここまで好き勝手広げた風呂敷を、どう畳んだものかと迷っています。でも所詮は日記。今日のことをただ書くだけです。大潮の満月は見そびれましたが、今年最初の白星と共に。皆様、おやすみなさい。
カタクラ

(打ち込み担当者より)
カタクラが綴った23000字以上、67日にも及ぶ日記はこれにて幕を閉じます。ご意見ご感想などございましたら、本コラムのコメントや早稲田大学漕艇部のインスタグラムとツイッターのSNSアカウントのDMにてお待ちしております。
ご愛読ありがとうございました!


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