リドリー・スコット監督「ナポレオン」の豪華絢爛な空騒ぎ
そろそろ来年のオスカーレースが気になる時期になってきました。
年内に日本の劇場で見れる目玉はスコセッシの「フラワームーン」とリドリー・スコットの「ナポレオン」と勝手に思っていたので、本作も非常に楽しみにしていました。(世の中のオスカー予想では撃沈😭)
何しろ「ナポレオン」というと、スタンリー・キューブリックの企画段階で終わった未完作。また遡ればアベル・ガンスのサイレント超大作があるのですが、文語調の英語版しか手に入らなかったこどあり、筆者は挫折。
また、ヒトラー以前の世界でヨーロッパ〜ロシアを一気に混乱に陥れた人物の人物像を知るには良い機会です。
その題材をリドリー・スコットがどう仕上げてくるか、期待は山の如く積み上がっていたのでした。
ところが公開第一週の反応を見ると「主役のホアキン・フィニックスにナポレオンを演じる力量がなかった」「歴史を凝縮しただけの駄作」のような反応で溢れており、涙😢
しかし、筆者は世の中の反応とは違う感想を持つことが多いので、先入観なしに映画館に向かいました。
結論から言うと、これは映画館で観るべき豪華絢爛なスペクタクル映画。
リドリーは「ベン・ハー」やら「アラビアのロレンス」はたまた前述のキューブリック「バリー・リンドン」などの映画を相当に意識したのではないでしょうか。
特に感心したのは凍った湖の上での戦闘シーン。皮肉なほど美しく血生臭い描写はドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の興奮を思い出しますし、意識されてることも明らかです。
また戦闘の間に進行するナポレオンと、その妻ジョセフィーンのSMチックな関係も、史実かどうかは分かりませんが、とても面白いです。
ジョセフィーンを演じるのはネトフリのPieces of a Woman(「私というパズル」という小っ恥ずかしい邦題がついてます)でオスカー主演女優にノミネートされたVanessa Kirby。彼女は今回、ものすごく上手いですね。存在感や演技はナポレオン役のホアキン・フィニックスを上回るんじゃないでしょうか。
その二人のドラマも、そんなに深堀りされることもなく、史実をなぞっただけの空虚さと批判は残ります。特に「ゴッド・ファーザー」シリーズのパクリのようなエンディングには意外性や画期性のひとつもなくガックリ。
ただ、全体として観れば歴史スペクタルとして映画館の大画面で爆音で観る意義はあったかなと。逆に言えば、こういう視覚効果に優れた映画を家の小さな画面で観る意義はないように思えます。
リドリーは早速ディレクターズ・カットの製作に入ってるらしいのですが、大きく印象が改善することは不可能に思えます。リドリーの近作には過小評価の大傑作と勝手に信じている「悪の法則」(The Counselor, 2013)、「ゲティ家の身代金」(All the Money in the World, 2017)、「最後の決闘裁判」(The Last Duel, 2021)などがあります。「ナポレオン」は個人的には肩透かしの部類に入ります。近年は作品の充実度よりもリリース量を優先してるようにも見えます。
来年予定されている「グラディエーター2」など、さらなる傑作を残してくれることを願っています。
ナポレオンのフットプリントを知る★★★★
戦闘シーンの迫力を体感する★★★★★
ドラマ性★★
総合評価★★★