『スティール・ボール・ラン』再読感想 (前半)
単行本派で最後まで読んではいるもののなんとなく消化不良だった『スティール・ボール・ラン』を改めて読み返したら面白かったよ、というお話。
『ジョジョリオン』もそうなのだが、月刊化以降のジョジョは話と話の間をかなり待つことになるにも関わらず、週刊の頃のスピード感と戦略的なバトルはそのままなのでまとめて読まないとわけがわからないことになる。2時間の映画を 1週間おきに 30分ずつ観るような感じになってしまうのだ。「これ、この前に何があったんだっけ?」と。
なので、改めてレースのステージ毎に区切って、単行本発売当初の頃を振り返りながら『スティール・ボール・ラン』の流れを追ってみることにする。
1st. STAGE (1巻~3巻中盤) 2004年 5月~2004年 11月
出来事
スティール・ボール・ラン開幕
ジョジョの第6部『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』が「世界が一巡する」という、ある意味世界そのものを一度終わらせるラストと共に週刊連載が終わった後に月間連載で『スティール・ボール・ラン』が始まった。
タイトルに「ジョジョの奇妙な冒険」を含まない『スティール・ボール・ラン』の 1巻と 2巻が同時発売されたのは「ストーンオーシャン」が終わってだいたい 1年後だった。
サンドマンという名のアメリカの先住民らしき男や陽気なポコロコという男が 1話を費やして紹介される中でアメリカ大陸横断レースがあることがわかり、その後にジョジョシリーズでは重要な人物の姓を持つジャイロ・ツェペリとジョニィ・ジョースターが登場する。
サンドマンの手から一瞬何かが出ているシーンがあるものの 3 ~ 6部で見られたスタンド能力かどうかはまだ不明。ジャイロの使用する「鉄球の技術」は 1 ~ 2部の「波紋」を思わせる。ディエゴ・ブランドー (通称 ディオ)、ウルムド・アブドゥルと歴代のジョジョに登場したキャラクターによく似ている人物も次々と登場。ジョジョのようなジョジョでないような雰囲気にこの時点で読者は完全に手探り状態だった。
ジョジョシリーズではないのか?
ストーンオーシャンで一周した後の世界なのか?
波紋は?スタンドは?鉄球とは?
最初に出てきたサンドマンは主人公なのか?ジャイロは?ジョニィは?
2nd. STAGE (3巻中盤 ~ 6巻冒頭) 2004年 11月~ 2005年 11月
出来事
ミセス・ロビンソン (虫使い、非スタンド使い) 戦
ブンブーン一家 (磁力のスタンド) 戦 … マウンテン・ティム (スタンド名 : オー!ロンサム・ミー、ロープのスタンド) と共闘、ジョニィが爪弾を開眼
オエコモバ (爆弾のスタンド) 戦 … 戦闘後に「ゾンビ馬」取得
F・V・シュトロハイム (テロリスト、非スタンド使い) 戦 … 戦闘後にジョニィの左手から遺体が一瞬現れる
大統領登場
ポーク・パイ・ハット小僧 (スタンド名 : ワイアード、カギ針とワイアーのスタンド)
3巻と 4巻も同時発売。
虫使いのミセス・ロビンソン戦で「なるほど、今作は鉄球 (回転の技術) でやっていくんだな。スタンドバトルからついに脱却か!」と思ったのもつかの間、ブンブーン一家戦で共闘することになったマウンテンティムが「立ち向かうもの《スタンド》」について言及。「結局スタンドバトルなのか!」と少しガッカリしたものの、これで「スティール・ボール・ラン = スタンド + 鉄球バトル = ジョジョシリーズ」なのだと作品に対する理解が落ち着いた。
序盤にもかかわらず「磁力」「爆弾」と過去作での強敵に分類されるスタンド能力が出てくる意外性は良かった。特にオエコモバの純粋な爆弾使いとしての能力は発展形の搦め手が多かった吉良吉影 (4部ラスボス) よりも好きかもしれない。
このあたりで出会ったばかりの頃は人を寄せ付けなかったジャイロが、ジョニィと少しぎこちないながらも他愛もない話 (オペラグラスについて) をする描写が入る。今作は長旅の中でこうした他愛ない話をするシーンが実に良い。
ちなみに、この頃はまだ「サンドマンやポコロコも仲間になるんだろうな」と思っていた。わざわざ冒頭で 1話費やして紹介されてたので。
旅の中で人体が欠損するレベルのかなり激しいバトルをするジョジョシリーズでは治癒担当の能力者が出てくるが、このシリーズでは「ゾンビ馬」という名の縫ったら直る謎の糸が登場する。ゾンビ馬という名前のインパクトと、スタンドのようなそうでないような曖昧な存在が際立つものの基本的に正体不明。
「きっと再読すれば謎がわかるだろう」と読み返したが何もわからないままだった。ジョニィが「能力のようなものでは?」と考えていたので、無理に解釈するなら「射程距離無限のパール・ジャム (トニオさんのスタンド)」のようなものなんだろう。たぶん。
3rd. STAGE (6巻冒頭 ~ 7巻終盤) 2005年 11月 ~ 2006年 3月
出来事
ルーシー・スティール、大統領が胸に聖人の遺体を持つことを知る
フェルディナンド博士 (スタンド名 : スケアリーモンスターズ、生物を恐竜化させるスタンド) 戦 … 戦闘中にジャイロが聖人の遺体 (右目) を獲得して鉄球によるエコー解析能力を身に着ける、戦闘後にディオが恐竜化を自分の能力とする
レースの裏の目的である「聖人の遺体」が登場。レース主催者のスティール夫妻が、遺体を集めようと企てる大統領の陰謀に巻き込まれていく。
このあたりから徐々に内容について行けなくなりつつあった。
レースと平行して大統領やスティール夫妻の話が出てきたこともあるが「ジャイロが遺体の力でスタンド能力のようなものを得る」「ディオは恐竜化 “させられた” のがそのまま恐竜化という能力になる」など「スタンド使いになったのかどうか」が曖昧な描写が増えたからだ。
再読時は「スタンド使い (に類するもの) になった」と割り切って読めたが、「スタンドはスタンド使いにしか見えない」というルールがあるため「スタンド使いになったのかどうか」が曖昧な状態は理解の妨げになっていたのだ。
4th. STAGE (7巻終盤 ~ 9巻) 2006年 3月~ 2006年 9月
出来事
ホット・パンツ (スタンド名 : クリームスターター、肉スプレーのスタンド) 戦
リンゴォ・ロードアゲイン (スタンド名 : マンダム、時を 6秒巻き戻せるスタンド) 戦
ルーシー・スティール、リンゴォが大統領に送った手紙を先に奪う … マウンテン・ティムがルーシーを救出
マウンテン・ティム vs ブラックモア (水を空間に固定するスタンド) 戦
ブラックモア戦
みんな大好き「男の世界」。オエコモバの爆弾に続いて「時間操作」というラスボス級能力。決闘という戦闘方法や、散り際の美しさも相まってか連載当時も人気があった覚えがある。
ゾンビ馬だけでは治癒役に不足と見たのか肉スプレーのホット・パンツが参戦。レースと大統領周辺で複数のストーリーが進むのでレース外で動ける治癒役が欲しかったのかもしれない。
レースから脱落していたマウンテン・ティムが再登場。ルーシーを助けながらブラックモアに殺されてしまうのだが、何せジョジョシリーズは身体がバラバラになったとか、全身を撃たれたとかでは死んだと確信できないので、この後長いこと「そういえばマウンテン・ティムは今どうしてるんだっけ?」と思っていた。
なので、ここで脱落するとわかってる再読ではマウンテン・ティムに対する印象がずいぶんと好印象に変わった。
リンゴォ、ティムと 4th. STAGE は男が信念の元に死ぬステージなのだ。
そして、ジャイロもブラックモア戦後に「「女」は「禍」を運んでくる」という信念の元にルーシーを馬に乗せるのを拒んだ。これが後にあんなに効いてくるとは。