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練習ちょー短編

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とても短い物語のようなものを書く試み
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発信の向こう側

夜景が見渡せる高台で、コーヒーをひとりで啜っている。微糖のスティックコーヒーをマイボトルに入れたもの。味にこだわりはない。 高台の下では、スマホを見ながら歩いている人がぽつぽつ。目の前の世界よりも機械と接する人々。なんだか虚しく見えるが、おれが時代に遅れているのだろうか。 「あのさあ、最近ずっとスマホいじってるじゃん。会う意味あるこれ?」 この前健太に言った言葉が、ふと浮かぶ。ネットに疎いおれと、なんでも使いこなそうとする健太。時代に乗り遅れないことが、そんなに大事なの

青いドレス

朝6時のアラームを止め、ふとんをまくりながら上半身を起こす。起床後は、まずはベランダの窓を開ける。車の走行音が耳に届き、肌をなでるような風を顔、肩、腕に感じる。向かいの家の梅の木が咲いている。そろそろ春だろうか。 ぼくは、出勤前の朝6時半から7時半まで公園にいくことを日課にしている。目的は、人間観察だ。さまざまな人間の表情や服装、行動をながめては、その変化を観察している。この日課を続けて、もうすぐ1年になる。 「アレクサ、今日の天気は」 「今日の天気は、おおむね快晴です。

真っ白な本

ある日、男が古本屋で読みたい本を散策していると、真っ白な本が目に止まった。手に取ってみると、表紙も中のページも、真っ白である。 ハードカバーで表紙はマットコート、裏も白である。ページに関しては、一般的な単行本と大差がない紙質だが、色は茶色がかっている感じもなく、やはり白である。それは印刷を怠ったという意味での"情報が一切ない"というよりも、あえて真っ白にしているように感じられた。 古本屋にあるから中古本ということだろうが、表紙に多少のスレがあるくらいで、特に大きなダメージ