仮説検証のおともはだれだ?
「すみません、15年ぶりですか?
まさかまたお世話になる日がくるとは思ってもみませんでした。」
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ご無沙汰しています。
いつだったか、いずれ私はこの国にいられなくなると言い切って、准教授に笑われたことを覚えていますか?あれから20年近く経って、あなたの主張が現実味を帯びてきましたね。あの時の准教授は、まだ私の仲間にすがっていますよ。
すっかりお忘れのようですが、2年ほど前にもほんの少し、お目にかかってるんですよ。
姿形が違うので、おわかりになりませんでしたかね?
それとも、思い出すのがおつらいのでしょうか。
いえね、私の方も、あの時どうして呼ばれたのかまでは覚えていないのです。
あなたの方に心当たりがあるのではないですかね?
大丈夫です。追及しようなんてこれっぽっちも思っていませんよ。私はあなたに呼ばれた立場なのですから。
さて、今回はどうされましたか?
黙っていては何もわかりませんよ?
あなたはいつも本当のことを言いませんね。嘘を言わないかわりに、本当のことも言わない。いったい、何を守ろうとしているのですか?
ええ、それはわかります。それが当たり前の世界で育ったのですものね。繰り広げられる会話のすべてが皮肉でできているなんて、恐ろしい話です。よその世界を知ったときはさぞ驚かれたことでしょう。
思えば、お父様との付き合いは相当長いものになりました。約半世紀にも及ぶでしょうか。残念ですが、あの方はもう手遅れです。
この先もずっと変わりません。
私ほどではありませんが、何十年にも及ぶ付き合いのあの方と、今後も伝わらないやり取りを続けるでしょう。
あきれて見ているだけなんて、あなたも意地が悪いですね。
さて、あなたもこれから何十年と、彼らと同じことをしていくのですか?
私があなたに呼ばれる時は、あまり良くない時だと知っていますよ。何せ、いずれ国を追われるような立場の私ですから。
...なんだか、話していて自分で笑ってしまいました。きっと本当のことなのに、とっても大そうな言い方をしたので。
そうですか、これは繋がり、なんですね。それはそれは、今までで一番良くない事例ですね。
そんなことに何の意味もありませんよ。ご自身でわかっていますよね?
そう、だから、そんな申請も不要です。
わかった気になってしまっている、そしてそれが受け入れ難い。なるほど、また面倒なことをしていますね。
すべてをわかる必要もないですが、白黒つけたいのですね。昔のように。
いいですよ、仮説の検証をしてみましょう。ただし、1ヶ月の期限を設けましょう。ちょうど今日は一日じゃないですか。
1ヶ月ならお付き合いしますよ。それ以上は癖になってしまうといけませんので、延長はないとお考えください。
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「ご親切に、ありがとうございます。
まるでこれまでもずっと一緒に居たような気にすらなります。
これからひと月、どうぞよろしくお願いいたします。」